今月の1冊
2014年05月13日
「学びほぐしのすすめ」
皆さんの「自分らしさ」は、何でしょうか?
「前向き」とか「長いものに巻かれない」とか、きっと誰もが一度は考えたことのある「自分らしさ」。自分らしさは、私たちが生きていく上でとても大切なもの。毎日の仕事や生活を通じて形成され、価値観やライフスタイルや好みの服など様々な方法で、自分や周りの人に伝わっているものだと思います。しかし、自分の考える自分らしさが、時には、周りの人が思っている自分と一致しないことがあるものです。
私は、あるワークショップで「一人ひとりに似合う色を選ぶ」というワークを行い、このズレに気づきました。グループのメンバーは私に似合う色にピンク色を挙げ、「ふわっとした柔らかい印象」と言ってくれたのですが、これがあまりにも予想外で、自分が認識している自分だけでなく、周りの人が思っている自分も含めて自分なのだということ、そして、無意識のうちに自分が思う自分らしさという枠にとらわれて、それに合わないものを排除してしまっていることに気づきました。
私たちの生きる世界は、たくさんの魅力的な人・もの・ことであふれています。自分らしさを大切にして、それに合うものだけを選んでいく生き方は楽で心地良いのですが、自ら可能性を狭めてしまっているようにも思われ、何だかもったいないと感じます。そこで、今回は自分の枠を広げるための「学びほぐしのすすめ」です。
「学びほぐし」「アンラーン(unlearn)」という言葉を、皆さんもどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。
哲学者 鶴見俊輔氏の言葉を借りれば「型どおりにセーターを編み、ほどいて元の毛糸にもどして自分の体に合わせて編みなおす」こと。私たちの日常に置き換えて考えてみると、これまで自分の中で当たり前と思っていたことを疑ってみることや、知識として吸収したものを自分の経験に照らし合わせて解釈しなおすこと、自分なりの言葉で語ることなどが「学びほぐし」と言えると思います。
それでは、「学びほぐし」するにはどうすれば良いのでしょうか。
私が考える一番効果的な方法はワークショップに参加することです。ワークショップとは、自ら参加・体験する学び・創造のスタイルです。企業でも「ワールド・カフェ」のような対話を重視する場が増えているように、価値観やライフスタイルの異なる人と学び合うことで、自分ひとりでは気づかなかった発見やイノベーティブなアイディアが生まれてくるプロセスが注目されています。
慶應MCCでもワークショップ形式の講座を行っていますので、そこにご参加いただくことが一番の近道だと思いますが、時間的に難しい方のために、今回は一人でも実践できる方法を2つご紹介します。
ひとつめは、ワークショップ入門書『ワークショップと学び 1~3』本書は、ワークショップとともに、新たな学びの世界を探求する全3巻のシリーズです。第1巻では、ワークショップの理論的背景に触れ、「学びほぐし」に結びついたワークショップの可能性を探ります。第2巻では、企業・学校・地域社会など様々な場面に広がっているワークショップ事例を学び、第3巻では、ワークショップの企画づくりから運営、スタッフの育成、評価といった実践的な方法まで学びます。これまでワークショップに携わったことがない方も、「学びほぐし」のあり方だけでなく、自分や周りの人との関わり方についても考えられる内容です。
特にビジネスパーソンの皆さんには、様々な事例を通じて、「学びほぐし」に必要な条件や、企業活動におけるワークショップのあり方を学ぶことができる第2巻「場づくりとしてのまなび」をお読みいただくことをおすすめします。
ふたつめは、知識として吸収したものを自分の経験に照らし合わせて解釈しなおすこと、自分なりの言葉で語ることです。私は仕事柄、日々多くのビジネスパーソンの方とご一緒し、第一線で活躍する先生方の講義を通じて、ビジネスの最前線の情報に触れる機会に恵まれていますが、ともすると、知識や情報を与えられたことで満足してしまう自分がいます。そうならないために、先生の講義やご参加の皆さんの議論を、講座の振り返りとして自分の言葉でまとめて、皆さんと共有しています。理論に沿って考えると正しかったのか間違っていたのかを紐解くことや、色々な場や人から得た情報・意見をどれも尊重しながら自分の考えをまとめることで、これまでの自分と異なる見方ができるようになったり、新しいつながりを発見できたり、予定調和ではないものが楽しめるようになったりと自分の枠の広がりを感じられました。
大人の学びの醍醐味は何かを与えられる学びではなく、自ら獲得する学び。つまり「学びほぐし」だと考えます。獲得できた学びの数だけ、新しい自分に出会えると信じて、学んだ後には学びほぐす習慣づくりを実践中です。ぜひ、皆さんもお試しください。
(石澤 夕貴子)
『ワークショップと学び(1~3)』(東京大学出版会)
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人気の夕学講演紹介
2025年1月16日(木)18:30-20:30
客観性に閉じ込められる私たち
村上 靖彦
大阪大学人間科学研究科 教授
感染症総合教育研究拠点CiDER 兼任教員
客観性とは何なのでしょうか?エビデンス信仰の風潮が強まる昨今、見落としているものを『客観性の落とし穴』の著者・村上氏に学びます。
人気の夕学講演紹介
2025年1月24日(金)18:30-20:30
教養としての仏教:苦しみをどう超えるのか
柳 幹康
東京大学東洋文化研究所 准教授
家庭の仏壇や供養の儀式、あるいは観光旅行での古寺巡礼など、仏教は比較的身近な存在でありつつ、知っているようで知らない奥の深さもあります。仏教学の専門家より教養としての仏教を学びます。
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