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『ハリネズミの願い』トーン・テレヘン(新潮社)

2018年05月08日

ハリネズミの願い
著:トーン・テレヘン ; 訳:長山さき ; 出版社:新潮社 ; 発行年月:2016年6月; 本体価格:1,404円

新年度が始まり、丸の内ではフレッシュな装いのビジネスパーソンを多く見かけます。緊張した面持ちを見るたびに、後ろからつい、「肩の力をぬいて~」と声をかけたくなってしまいます。
春は新しい職場や仲間との出会いも多く期待に胸膨らむ反面、どこか自分の居場所がないように感じたり、不安や孤独感を感じたりもします。しかし、ふとまわりを見回すと、肩に力が入っているのは彼らだけではないようです。気がつけば私も、もしかすると涼しい顔した先輩も同じなのかもしれません。

この春、新たな環境へ飛び込んだ方、そして新たな仲間をお迎えした方に、ぜひ読んで頂きたい一冊をご紹介いたします。

オランダの作家、詩人であるトーン・テレヘン著の『ハリネズミの願い』です。
主人公は他の動物たちとうまくつきあえない孤独なハリネズミ。他の動物にはない鋭いハリを持っていること、そしてそのことでコミュニケーションに自信がもてないハリネズミが、誰かを招待しようと思い手紙を書くところからスタートします。

親愛なる動物たちへ
ぼくの家にあそびに来るよう、キミたちみんなを招待します。
・・・・・でも、だれも来なくてもだいじょうぶです。

誘っているけど、誘っていない。来て欲しいけど来て欲しくない。結局誰にも送れずにしまい込まれまたこの手紙をきっかけに、ハリネズミのネガティブすぎる妄想と自問自答が始まります。
このネガティブループで、私が共感した3つをご紹介します。

1.もしも○○が訪ねてきたら

「もしもダチョウが訪ねてきたら」「もしもカメとカタツムリが訪ねてきたら」「もしもヒキガエルが訪ねてきたら」どんなふるまいをするだろう?と、あらゆる生き物の訪問を妄想するハリネズミ。

ダチョウは頭を突っ込める場所が少なくて不満になるかもしれない。
移動に時間がかかりすぎるカメとカタツムリはいつ着くのかわからない。
ヒキガエルは「俺は怒りたいんだ!」と怒鳴り出すかもしれない。

出てくる動物たちのリアルな描写が面白くクスリと笑えますが、かわいらしくも鋭いメッセージを感じます。

きっと○○はこういう人だ、こんな風に行動するはずだと妄想しては、おびえて手紙を戸棚に戻し、やっぱり誰も招待したくないと塞ぎます。しかし、すべてはハリネズミの妄想。誰一人招いていないのです。相手に伝える前からネガティブな「きっと」と「違いない」に翻弄されて、相手と向き合うことを避けています。
頭で考えるより、目を見た方がずっと相手を理解できることを忘れてはいけないと、ハリネズミの悶々とした姿から感じます。

2.「みんなの期待」に答えたケーキ

おもてなしのケーキを作ろうと張り切るハリネズミ。あらゆる動物がおいしいと思うケーキは何かと考え、いろんな動物の好みをすべてケーキにのせていきます。
ハチミツ、泥、乾し草、海の泡・・・みんなの好みをすべて叶えて出来たケーキは家の天井を貫き、誰も喜ばない不味いケーキになりました。動物たちからは「あんなひどいケーキはないね」と言われてしまいます。(もちろんハリネズミの妄想です)

みんなの意見を取り入れることは良いことのように思いますが、自分の意見がないまま取り入れ続ければ、いびつなケーキとなって誰のためにもなりません。自分自身がおいしいと思うケーキを焼かなければ、誰かがそれをおいしいと言ってくれることはありません。もし誰かにとって美味しくなかったり、小さすぎたりしたらまた焼けば良いのです。
みなさんの職場にはいびつなケーキ、転がっていませんか?

3.ハリのないハリネズミ

ハリネズミは自分のハリが嫌いです。このハリのせいでみんなから嫌われていると思っているからです。嫌いなあまり、自暴自棄になって自らのハリで怪我をします。他の動物がもっている、かっこいい角や美しい羽にあこがれ、まったくハリがない姿で皆の前に立つ場面を想像します。

しかし、ハリがないネズミはハリネズミではありません。ハリがあるからこそ周りの動物が自分をハリネズミとして認識していること、大嫌いなはずのハリを実は誇りに思っていることを知るのです。

自分とは違う考えや背景をもつ相手を受け入れるときには、時に衝突や戸惑い、抵抗があります。まずは自分自身の個性を受け入れ認めることで、自分とは違う相手を受け入れられるのだとハリネズミは教えてくれます。

なんだかうまくいかないなと思ったとき、この本の中のどこかに、今の私を見つけます。そして、イジイジとしたハリネズミを見ていると、一歩踏み出す勇気が出ます。

(小川 久恵)

ハリネズミの願い』(新潮社)

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