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牧田 幸裕『フレームワークを使いこなすための50問~なぜ経営戦略は機能しないのか』

2019年09月10日

フレームワークを使いこなすための50問~なぜ経営戦略は機能しないのか
著:牧田幸裕 ; 出版社:東洋経済新報社 ; 発行年月:2009年11月; 本体価格:1,600円

「ケースメソッド」学習方式の悩み

慶應MCCでは、様々な経営戦略テーマのプログラムを開催していますが、その多くが、「ケースメソッド」という学習手法を採用しています。

参加者は、実際の企業が直面した経営課題を記述したケースと呼ばれる教材を読み込み、提示された設問に沿って、各自の分析結果と見解、その上での意思決定を事前課題としてまとめます。そして、当日のクラスでは、講師のリードの元、各自の意見を述べながら討議を繰り広げ、それぞれが学びを深めます。一般的な知識付与や理論の一方的講義からは得られない、実践的なリテラシーを磨ける手法です。

これまで多くの方がケースメソッド方式のプログラムに参加され、学びの効果を実感くださいましたが、一方で「設問に対する先生からの模範解答が欲しかった」という声を頂戴することも、少なからずありました。

ケースメソッドには唯一解がありません。
明らかな分析間違いや解釈間違いを除き、回答が正しいか、間違っているかは議論しません。皆の回答が正しく、それでいて、いずれも完成した回答ではなく、ブラッシュアップできる余地があることを前提として議論をします。

学びを提供する側としては、ケースメソッドは唯一解を追求する学習手法ではないことをご了承の上、参加いただきたいところではあるのですが、学校の授業や試験、受験で「正解か否か」を重要視してきた私たち世代(最近の子供は少し傾向が変わってきているようですが)にとって、唯一解が存在しない、先生から問いに対する回答を提示されないことの消化不良感は、いたしかたないとも個人的には思っています。

ならば、どうすればケースメソッドは唯一解を追求する学びではないことを納得してもらえるのか。ケースメソッドには、唯一解を追求しないからこその学びがあることを実感してもらえるのか。そんな悩みを抱えていた私が出会った1冊が『フレームワークを使いこなすための50問~なぜ経営戦略は機能しないのか』です。

なぜ経営戦略は機能しないのか

本書は、禅問答のように、著者の牧田先生の50の問いに、読者が考える形式を取っており(丁寧に、各問制限時間まで設定されています)、考えさせた後に、牧田先生なりの回答と、回答にいたるまでの思考プロセスや背景を説明している構成です。書籍タイトルからは、一見、世の中に出回っている数々のフレームワークの使い方解説やドリル的なものを想像しがちですが、本書は、経営戦略を機能させるために何が必要かを、順を追いながら読者に考えさせることで理解を深める、テクニックではなく経営戦略の本質に迫る解説書です。

問答の第一問は、本書のサブタイトルにもなっている
「なぜ経営戦略は機能しないのか。」

いやいや、当社は前年度もその前も増益を達成しているのだから、経営戦略は機能しているでしょう。と、思う方もいらっしゃるかもしれません。
果たしてそうでしょうか。

増益は結果でしかありません。経営戦略が機能してなくても、営業力や商品開発力で売上げや利益を稼げることも考えられます。重要なのは、その増益の根本に経営戦略が存在し機能しているかどうかです。

牧田先生の考えは、こうです。

経営戦略は「策定」と「実行」が正しくでき、それを「継続」できることで初めて機能する。これら、すべてがうまくいかない場合は機能しない。

つまり、「策定」「実行」「継続」すべてに機能不全を起こす可能性があり、それらをクリアした企業だけが、当社の経営戦略は機能している、と言えるのです。

経営戦略の策定プロセスでは、「洞察」と「戦略の基本パターンの理解と応用力」が重要

まず第1関門の「策定」について、牧田先生による戦略の策定プロセスは以下の通りです。

  1. 現状分析
  2. 分析結果から戦略を策定
  3. 策定された戦略を実行計画に具体化

おそらく、この3つのプロセスに対して目新しいと感じる方はいないと思います。しかし、「現状分析」について先生は次のように手厳しく指摘をしています。

多くのも日本企業で見られる現状分析には、3つのレベルがある。

  1. 単に情報収集をしているだけで終わっている。
  2. 収集された情報を元に、その情報を解釈し問題点を提示しているように見えるが、実際には評論に終わっている。
  3. 収集された情報を基に、その情報を解釈し、問題点を提示できている。そして、その問題提起は、アクションにつながる問題提示である。

日本企業では1のレベルに留まっている企業が50%、2のレベルの企業が40%、3のレベルの企業が10%くらいであるという印象を持っている。
(中略)
情報部収集とは分析を行うために必要な事実=情報を集めること
現状分析とは収集された情報から視点、示唆を炙り出すこと 

牧田先生の体感では、なんと90%もの日本企業が、第1関門の「策定」のうちの最初のステップである「現状分析」でつまずいていることになります。

現状分析がうまくできない、つまり「収集された情報から視点、示唆を炙り出すこと」ができない理由も3つ挙げられています。

  1. フレームワークを活用しないから(あるいは正しく使えていない)
  2. 仮説を持たずに情報収集をしているから、視点や示唆を出せない。(情報を集めれば、おのずと視点や示唆が出てくるかのように勘違いしている)
  3. 限られた情報で意思決定をする勇気を持てない

また、現状分析を望ましい形(上記の3のレベル)で行っている貴重な10%の企業にとっては、当然、分析がゴールではなく、次のステップとして、「分析結果から戦略を策定」することが求められています。そして、牧田先生は、戦略策定に必要なのは、「戦略の基本パターンの理解」と「その際立たせ方」であると主張しています。

戦略は、分析結果から明らかになった問題や課題に対する解決方法と言えます。問題、課題は無限に様々な形で存在するので、それに対する戦略も様々な形があるはずですが、昨今のように環境変化のスピードが速い環境下においては、ゼロから戦略を考え出すのは非効率的でかつ非現実です。そのため、日頃から「戦略の基本パターンの理解」を深め、その基本パターンをどのように自社が採用して際立たせるかを考え出せる能力が必要になるのです。
 
おそらく、策定プロセスすべてをクリアできる企業は、先生の数字を借りるなら、数パーセントになってしまうことが予測されます。

作れば売れる時代はとうの昔に終わり、市場成熟期から衰退期と向き合う多くの日本企業にとって、この数字は絶望的です。
経営戦略が機能していない状況で、どのように企業を存続させていくのでしょうか。

そこで、「ケースメソッド」の出番です

日本企業の経営戦略を機能させるためには、策定プロセス力を高めることが必須です。実は、そこでケースメソッドの重要性を感じていただきたいのです。

ケースは、実際の企業が直面した経営課題が記述してあるものとご説明しました。読み物としてある程度コンパクトに整理されてはいますが、課題の分析まではされていません。ケースメソッドでは、学習者は分析から求められます。まさに、経営戦略の策定プロセスを模擬的に繰り返し経験し、スキルアップを可能にすることがケースメソッドの学びなのです。

ケースメソッドは、牧田先生が指摘された現状分析がうまくできない3つの原因にも、次のように対応しています。

  1. フレームワークを活用しないから(あるいは正しく使えていない)→講師のリードの元、討議を進めていく段階で、適宜フレームワークの適切な活用方法とその背景を学びます。
  2. 仮説を持たずに情報収集をしているから、視点や示唆を出せない。→ケースメソッドでは、情報収集=ケースを読むこと です。ケースを読むだけでは討議の下準備になりません。講師からの設問をヒントに、自分なりの視点や示唆を考え出すトレーニングをします。
  3. 限られた情報で意思決定をする勇気を持てない→ケースメソッドは、模擬的な戦略策定です。ケースという限られた情報で考えることそのものが、経験に繋がります。

そして、もちろん、分析結果から戦略の策定をする際に重要となる「基本パターンの理解」と「その際立たせ方」も、ケースメソッドで学び得ることができます。特に、基本パターンの際立たせ方については、お互いの意見を尊重しながらもブラッシュアップを目指して議論を重ねるケースメソッドだからこそ学び得られるものと言えます。

経営戦略の実行プロセスには、社員の「戦略リテラシー」が重要

ケースメソッドの重要性、唯一解のない学びだからこそ得られる能力は理解した。でも、策定プロセス力を高めるのは経営戦略部など、戦略策定部隊や担当者が取り組めば十分なのでは。…自分は営業だから関係ない話かな。
と、思われた方もいらっしゃるかもしれません。

経営戦略は「策定」と「実行」が正しくでき、それを「継続」できること

確かに組織の中での役割として、戦略策定は経営戦略部など、戦略策定部隊や担当者が担うことが一般的です。しかし、策定した戦略を「実行」し、それを「継続」するためには、社員全員の「戦略リテラシー」が不可欠となります。

一般的にビジネスパーソンの皆さまにとっての戦略は、「中期経営計画」が一番身近なものだと思います。しかし、その中期経営計画を、戦略を実行計画に具体化したものだと捉えている人はどれくらいいらっしゃるでしょうか。

―中期経営計画はあくまでも経営者が描く理想像。
―ストレッチ目標なのだから高く設定されている。実際は、そこを目指しながらある程度の数字が達成できればいい。
といった声を、実際に聞くことがあります。

中期経営計画を出す側と受ける側が全く違うとらえ方をしてしまった段階で、その戦略は機能しません。しかしながら、いま計画資料を初めて見たという受け手が、長い時間掛けて磨き上げた作り手の想いやプロセスを感じることは難しいのも確かです。

そこで重要になるのが、「戦略言語」でコミュニケーションをとることです。

戦略策定部隊だけではなく、社員皆が戦略リテラシーを高めることで、中期経営計画の資料を見ただけで、戦略策定部隊がどのように現状分析をして課題を提示し、その課題に対する解決方法としての戦略を、どの基本パターンを応用しながら自社として活用しようとしているのかを読み取れ、社員が皆、同じ方向を向いて、同じ指標を目標として進んでいけるのではないでしょうか。

ぜひ、この『フレームワークを使いこなすための50問~なぜ経営戦略は機能しないのか』を読んでいただき、50問を通して、企業の経営戦略が機能するにはどうすればよいのか、さらに実感を深めてください。

そして、ケースメソッドの学びへのチャレンジをお勧めいたします。
(慶應MCCでお待ちしております!)

(藤野あゆみ)

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