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夕学レポート

2014年04月08日

澤上 篤人 「個人の長期投資が日本を育てる」

澤上 篤人
さわかみ投信株式会社 取締役会長
講演日時:2013年10月29日(火)

澤上 篤人

日本人の個人の預貯金総額は現在791兆円と世界最大規模です。米国は日本の約2倍の人口を擁しながら、日本円換算で同500兆円ちょっと、3位のドイツは100兆円足らずです。澤上氏は、この世界最大のお金を預貯金として寝かしておくだけだと、今後は食いつぶしていく一方だと指摘します。なぜなら、家計の所得は主として、給与・ボーナス、年金、そして利息収入の3種類がありますが、どれも今後は増える可能性が低いため、生活費として預貯金を取り崩していくしかないからです。

実際、給与・ボーナスは下がり続けていますし、年金財政の破たんの可能性がささやかれる中、年金が受け取れるかどうか確証は持てません。また、預金の利息は現在平均0.02%と低い水準で、利息収入はほとんどありません。一方で、消費税率が来年(2014年)には引き上げられるように、税金や社会保険料は上昇していく見込みですから、出費は増えるばかりです。 

日本の家計の貯蓄率は以前は23%まで上がりましたが、バブル崩壊後は15%に下がり、そして現在は0%にまで落ちています。今後は、出費が多くなる分、貯蓄の取り崩しで穴埋めせざるを得なくなるため、貯蓄率はマイナスになっていきます。791兆円の預貯金がどんどん減っていくというわけです。こうした未来を考えると、澤上氏曰く、とても「怖い話」ではあります。しかし、日本人が持つ世界最大の預貯金を「長期投資」に回せば、明るい未来像が描けると澤上氏は主張します。

日本はすでに成熟経済です。これまで日本経済が成長してきたのは、人々が、家電品などを始めとして、様々なモノを購入するためにお金を使ってきたからです。しかし、今やどの家庭にも、たいていのモノは揃っています。したがって、人々はあまりお金を使わなくなってしまいました。基本的に新規需要ではなく、せいぜい買い替え需要が主体だからです。こうしてお金が回らないために経済活動が不活発となり、成長が鈍化していくのが成熟経済です。791兆円もの預貯金が寝かされたままなのも、もはや購入したいモノがないからです。

そこで、澤上氏はこのお金を「長期投資」に充てることを勧めます。モノの購入にお金を使わなくても、「投資」に使うことで、市場にお金が回り経済が活性化するからです。
澤上氏の勧める「長期投資」は、目先の運用成績を目的とするものではありません。目先の業績最大化を追求する会社に投資するのではなく、人々の生活に役立ち、まじめで信用できる「良い会社」を応援するための投資です。また、そうした会社と共に生きてゆく投資が、澤上氏が推奨する「長期投資」です。

長期投資に適する「社会にとって良い会社」とは、雇用を増やしたり将来に向けた投資に積極的だったりで、投資ファンドからすると「ムダばかりしている会社」として買収の対象とされることが多いそうです。しかし、買収されてしまうと、自社の利益最優先となり、その会社が持っていた良さが失われてしまうかもしれません。

そこで、株価が下落した時に、個人が積極的に「生活者にとって大事な会社」に投資すれば、株価の下落を食い止めることができ、敵対的な買収を防ぐことができます。良い会社は社会的にも必要な存在ですし、毎日の生活消費で売上げに貢献していることもあって、株が下がったくらいでつぶれることはまずありません。必ず株価は回復します。その時には株を売却して現金化しておく。そして、再び「良い会社」の株価が下がった時にまた株式投資するのです。

このサイクルを延々と繰り返すのが「長期投資」です。澤上氏は、以前にプライベートバンキングの仕事を長くされており、欧州の富裕層、つまりお金持ちの投資運用に携わっていました。実は、大金を投資する場合も、厳選された少数の投資先に集中的に投資し、やみくもな「分散投資」はしないのだそうです。長期的に価格が上昇していくことが予想できる投資対象を絞り込んで、下がった時にまとめて投資し、株価が回復したら適切なタイミングで売るのだそうです。

長期投資では、基本的に景気のうねりに沿って、不況の時は株式投資、景気が回復し過熱してきたら現金化、景気も金利も下落し始めるころには債券購入というのが定石。したがって、投資先の配分(アセットアロケーション)は、現時点での分散(現在分散)ではなく、景気のうねりに応じて変えていく「時間分散」を行うべきなのだそうです。結局のところ、投資金額の多寡に関わらず、澤上氏の説く「長期投資」こそが投資の基本であり王道なのです。

澤上氏は、長期投資は、社会や人々の暮らしをどのように良くしていきたいか、という未来をつくることでもあると考えています。なぜならば、そうした未来をつくることに大きな影響を持つ「良い会社」を投資先として選択するからです。

また、「かっこいいお金の使い方」をしましょうと澤上氏は提案します。「長期投資」を続ければ、自分の生活費を上回るお金が手元に残るようになります。その余剰を文化・教育・芸術・技術開発・スポーツ・ボランティア・NPOなどに積極的に使う。モノを買うわけではありませんが、日本経済の活性化と質の向上と同時に、こうした分野で多くの雇用を生み出すことができるため、社会的な安定度を高めることができます。つまり、日本経済の活性化とよりよい暮らしに貢献できるのです。

日本人の多くはまだ「中流」と呼べる生活水準を維持していますが、長期投資によってプチ金持ちがたくさん生まれ、一定の経済成長と安定した社会の維持が達成される。澤上氏は最後に、これこそ「21世紀モデル」だと考えていると、熱いメッセージを残して講演を終えました。

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