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山下洋輔「魂の音楽 ジャズの魅力」

2015年12月08日

講演日時:2015年7月1日(水)
山下洋輔
ジャズピアニスト

山下洋輔

ジャズの楽しさは即興演奏にある

この日の講演テーマは「ジャズとは何か」。
「ジャズとは何か、と言われても困っちゃうんですよねえ」と話しはじめた山下さん。お酒との組み合わせで求められることもあれば、高尚な芸術のように扱われることもある。幅の広い音楽なので、ひとことで言い切るのは難しい、と。

山下さんご自身は、「その音楽のなかに、即興で演奏される部分があるかどうか」をひとつの判断基準にしているそうだ。「同じミュージシャンが演奏しても、今日と明日で全く違う音を聴けるのがジャズの楽しさ」と語る。

「実際に聴いていただきましょうか」と、ステージ中央に置かれたグランドピアノに向かった山下さんが演奏したのは、映画『ゆずり葉の頃』のテーマ曲。
このテーマ曲、実は映画のために書き下ろしたのではなく、山下さん率いる「ニューヨーク・トリオ」が『Gentle Conversation』というタイトルで以前から演奏していたそうだ。山下さんは「使い回し」と表現して会場の笑いを誘っていたが、いざ聴いてみると、書き下ろしとしか思えないほど映像にぴったりとハマっている。
Youtubeの予告動画で一部を聴くことができるので、是非視聴していただきたい。なんとも上品で繊細で、胸がきゅっと締め付けられるような美しいメロディーだ。

演奏の出だしは、予告動画とほぼ同じ印象。しかし主題が終わるとジャズならではの即興部分に入っていく。あるときはちょっとコミカルに、あるときは重厚に。「おっ、ブルージーな雰囲気になったぞ」と思っていたら、あれよという間にドラマティックな音の渦にまかれて身動きが取れなくなる。

山下洋輔

ほんの短い間に、いくつもの楽曲を聴いたようなオトク感・・・というと大変チープな表現で恐縮だが、即興演奏の面白さを存分に味わえるよう、バラエティに富んだ演奏を披露してくれた山下さんに会場から大きな拍手が起こった。

西洋音楽とは異なる音感

かつてアメリカに無理やり連れてこられたアフリカの黒人たちは、故郷から引き離されると同時に、大切な楽器も奪われた。やがて彼らは、”西洋音楽を奏でるための楽器”を使って自分たちの音楽を表現するために、新たな音階を編み出す。西洋の「メジャー・スケール」に、第3音・第5音・第7音を半音下げた音を加えたこの音階は「ブルース・スケール」と呼ばれているが、これを使った音楽を耳にすると、ほとんどの人が「ジャズ(もしくはブルース)っぽい」と感じるそうだ。

こうした話をふまえ、インタビューなどで「ジャズを簡潔に定義してください」と求められたときの山下さんの回答が印象的だった。
「私はそういうとき、『アフリカと西洋が新大陸で出会い、ふたつの音楽は融合すると同時に激突もした。その激突の跡をリズムと和音とメロディーに刻みながら発展してきた音楽』と答えます」
“融合と激突”、なんとも刺激的かつ魅力的な表現である。

アフリカの人たちだけではない。実は私たちも、日本独自の音感を持っている。
「起立、礼、直れ」の伴奏に使われるお決まりのコード進行「C-F-C-G-C」。もし「C-F-C-G」で止められて「気持ち悪い」と感じる人がいたら、山下さんいわく「完全に西洋の音感に洗脳されている」そうだ。

山下さんは『君が代』を例にとって続ける。
『君が代』に和音を付けたのはドイツのエッケルトという人だが、メロディーの最後の音にどうしても和音をつけられなかったため「ユニゾンで放り出している」そうで、なるほど、言われてみればそのとおりだ。西洋の音楽理論ではどうにも解決できなかった、ということだろう。
『君が代』のメロディーの最後に違和感を覚えない(洗脳されていない)自分を再認識して、少しうれしくなった。

ジャズそのもの、の人

私は山下さんの演奏を生で聴くのは初めてだったのだが、失礼を承知で書かせていただくと「若々しい!」の一言に尽きた。講演の最後に演奏されたラヴェルの『ボレロ』の力強さ、激しさには圧倒された。
そういえば、本編後の質疑応答にて「若いころの私は、ただただ情熱のぶつけどころに飢えていたんでしょうね」と答えていらっしゃったが、今もその熱さを保ち続けている格好よさにシビれる。

また、世界的なジャズミュージシャンであるオーネット・コールマンさんから「so natural」と評されたことをうれしそうに語っていらしたが、山下さんはまさに”自然体の人”という印象だ。その一瞬に、ご自身の内側からわき出てくるものに逆らわない。と同時に、周りの空気を緻密に感じ取りながら表現している。講演全体が、まるでジャズの即興演奏のようであった。
ジャズとは何か。その答えは「山下洋輔のような音楽」なのかもしれない。

(千貫りこ)

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