KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2023年07月06日

片桐 仁「アートに会おう、遊ぼう、自分を楽しもう」

片桐 仁
俳優・声優・タレント・彫刻家
講演日:2023年5月10日(水)

片桐仁さんに聴く、自分というアートの楽しみ方

マヨ 新丸ビルって、初めて来たわ。こんなところで作品展やるんか?

サイ 「不条理アート粘土作品展『ギリ展』」の続きかな。久しぶりだな。


タイ え、「粘土道20周年記念『片桐仁創作大百科展』」の続編じゃないの?

モアイ いや、今日は夕学講演会だって。

チョキ タイトルは「アートに会おう、遊ぼう、自分を楽しもう」。

ペット 遊ぼう、楽しもう、って割には、お客さんみんな仕事帰りの疲れた会社員みたい。


ハンマー だから、遊ぼう、楽しもう、なんだろ。

ウドン あ、ジンさん出てきたで。

…皆さんは美術館で何を見ていますか?
もちろん作品を見るわけですね。
でもその前に、入口に「ごあいさつ」とかあって、まずこれを読む。
続いて、作者の年表があって、これもじっくり読む。そして、各作品の横にはキャプションがあって、それもきっちりと読む。
それからようやく作品を見る。
これはこの作者のいつの頃のどんな背景の作品なのか、ということを考えながら見る。
そんなことをしていると、俺は、美術館で一体何を見ているんだろう?って思うわけです。
もちろん、情報の付加価値を否定するわけではありません。それも大事です。
でも、そうではなく、素直に直接的にアートを楽しむことも大事なんです。
で、それができているだろうか?と思うわけです。…

宇宙人 おお、なかなか高尚な話から始まったな。

キング あっ、ジンさんこっち来るで。

…アートは、見るだけでなく、作るものでもあります。ここに並んでいるのは僕が作った作品です。
まず「マヨの塔」。マヨネーズのケースに粘土を盛ったら、ほら、「太陽の塔」っぽいでしょ。
こちらは自作のiPhoneケースたちです。
サイの形をした「サイフォン」。
鯛の形の「タイフォン」。
はい、そもそもの発想はダジャレです。ダジャレって、言葉と言葉の融合なんですよ。で、本物のiPhoneと組み合わせることによって、実用性と融合したアートになる。タイフォンは、鱗が当たって痛い、と言われてしまいましたが。
そして今、僕が実際に使っているのがモアイ像の形の「モアイフォン」。これなんか、外国人にもウケますね。
これらの、どこがアートなのか?と問われるとうまく説明できませんが、この、ウケるという状況は、アートなんじゃないかな…

マヨ あー、急に手に取って紹介されたからびっくりしたわ。

サイ あらためてジンさんから紹介されるのって、照れるな。

タイ 私はディスられた気がする…。

モアイ まあまあ先輩、元気出して。

…自分がアーティストになった経緯を振り返ると、小学生の時に「ゴッホ展」に行って油絵を見たのがひとつのきっかけです。ゴッホが死んでから百年も経つのに、日本という外国で、たくさんの人が集まって、おおおー、と言いながら絵を見ている。子ども心に「何だろう、これは?」と思ったわけです。
そして美大に行くんですが、だんだん苦しくなってきたんですね。それはともかく…

チョキ あ、ジンさんまたこっち来た~。

…この、グーチョキパーのチョキの形の手、その名も「チョキ」。中にインスタントカメラの「チェキ」が入っています。ちゃんと撮れます(パシャリ)。
なんというか、もう、思いついた時がピークなんです。あとはそれを形にするだけ。
この土偶は、青森で土偶巡りをしていて思いついたんですが、中がペットボトルになっていて、こうして頭のキャップを外すと飲めます(ゴクリ)。その名も「ペットボ土偶」。
こちらのシュモクザメ、英語ではハンマーヘッドですが、頭部にニンテンドー Switch Lightが入っていて、名付けて「ハンマーヘッドー Switch Light」。
こういうのを、不条理粘土アートと名付けました。…

ペット おお、飲まれて緊張した~。でも実際に使えるところを見せられて、えがった。

ハンマー 俺も、プレイできるところ見せたかったぜ。

…粘土を、少しずつ盛っていくんですね。そのうちに何かになる。これが気持ちいい。
頭のいい人って、見たものを頭の中で文字にして理解してしまう。それでは見たままを絵に描けないんですよ。
粘土は手で触ります。ぎゅっと握ります。むちむちと練ります。手から脳に来るんです。
いい絵を描こうとすると頭を使ってしまいます。でも粘土には手で作る気持ちよさがあるんです。手が脳の支配から自由になって、触角の快楽を味わう。そう思うようになって、アートが、だんだん楽しくなってきたんです。

その人が、見てきたもの描いてきたものの中から、アートって生まれてくると思うんですね。その人の歴史から出てくる。
これは「ウドンケンシュタイン」。うどん県こと香川県でのイベント用に、うどんで作ったフランケンシュタインです。
考えすぎちゃいけないんです。考えると手が止まる。
僕は今年で五十歳になるんですが、いま感じることを感じればいいんだと思います。
自分の見たものすべてが自分の歴史になる。無駄なことはなにもありません。…

ウドン よっしゃ、今日も笑い取れたで。

…じゃあ、粘土配りまーす!…

宇宙人 唐突に来たな。で、ジンさんとスタッフが、会場のお客さんに粘土を配る、と。

キング あ、でも、みんな楽しんどる~。

マヨ 練ってる、練ってる。

…絵を描くのって、画材を用意したり、いろいろ準備が必要です。けど、粘土って、何も用意せずに何かを作った気になれるんです。
押したらへこむこの感じ。
これは「宇宙人」。宇宙人、という漢字の形をした宇宙人です。四面がそれぞれ顔になっています。
こちらは「キングジョーモン」。ウルトラセブンに出てくるキングジョーを縄文土偶風に作ったもの。神戸のご当地粘土道作品として作りました。
平面の絵と違って、立体物の作品のいいところは、存在感というか、プレゼンス。
やっぱ、触れるっていうのがいいんじゃないかと思うんですね。

新潟県長岡市の馬高縄文館で、火焔土器を作るっていうワークショップを体験したんですよ。
火焔土器って、見た目にも複雑な形ですが、実際に自分でやってみると、突起の部分とか作るのがとても難しいんです。そしてあらためて本物を見ると、もう、これ作った縄文人って達人だ!と思うわけです。…

サイ なるほど。指先を通して、縄文時代と今がつながるのか。

タイ 文字情報じゃなく、作品を体感することで伝わる、感じるものがあるんだな。

…取りとめのない話ですみません。でも、アートって、取りとめないんですよ。
今まで当たり前だと思っていたことが当たり前でなくなる瞬間があるんです。それがアートの面白さなんです。うまくアートにしようと思っても、うまくいきません。受け取る側の受け取り方も自由だし、それはコントロールできない。でも逆に、どう発信するかは作り手の自由でもあります。

人生は一度きり。楽しんだほうがいいし、楽しみ方はたくさんあります。
人生は丸ごと一つの美術館なんです。
アートをきっかけに自分を再発見する。自分というアートを楽しむ。
今日の僕の話がそのヒントになったら、うれしいですね。…

 

モアイ 終わりましたね。

チョキ ジンさん退場。…あっ、お話しを聴いていた皆さんが、こっちに来る!

ペット わー、じろじろ見られてるー。でもなんかうれしいな。

ハンマー なんかわからんけど人をひきつける力…それがアートなのか。

ウドン 俳優で声優でタレントで彫刻家…。ジンさんの、何者なのかわからないけどとにかく人をひきつけるところって、まさにアートなんちゃう?

宇宙人 いや、誰もが多面的なアートを内に秘めているんだよ。まだ表にでていないだけで。

キング 君はもう四面体やけどな。ま、それを見つけることが、自分を楽しむための第一歩やな。

マヨ ワシら、百年後にも、アートして見られるんやろか…

サイ それは百年後の人が決めること。今はただ、今をしっかり生きなサイ。

タイ なるほど。目から鱗が落ちた。

モアイ センパーイ!

(白澤健志)


片桐 仁(かたぎり・じん)
片桐 仁
  • 俳優・声優・タレント・彫刻家

1973年生まれ。多摩美術大学卒業。在学中に、小林賢太郎とともにコントグループ「ラーメンズ」として活動を開始し、舞台公演を中心にカリスマ的な人気を誇る。
また、個性派俳優として映画・ドラマなどにも多数出演。主な出演作品は、「エール」、「99.9 刑事専門弁護士」、「あなたの番です」などがある。NHK Eテレの教育番組「シャキーン!」ではジュモクさんの声を担当するほか、お笑いコンビ「エレキコミック」とのユニット「エレ片」として17年以上ラジオパーソナリティを務めるなど、マルチに活動を行なっている。
さらに、彫刻家やアーティストとして2016年NHK「にっぽんの芸能」に出演。【何かに粘土を盛る】をテーマに20年以上に渡り粘土作品をつくり続けている。2015年から4年間は全国各地で2019年には台湾で【不条理アート粘土作品展「ギリ展」】を開催。2021年には「粘土道 20周年記念 片桐仁創作大百科展」を開催し話題に。
【公式YouTubeチャンネル】ギリちゃんねる【片桐仁公式】
Twitter : 片桐仁なう

写真:岸本修平
©TWINKLE Corporation Ltd.

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