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松本 大 「私の経営観」

2005年04月12日

松本 大 マネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO >>講師紹介
講演日時:2005年2月3日(木) PM6:30-PM8:30


今回、『夕学五十講』に登壇いただいた松本大氏は、高い報酬とステータスを約束された、外資系大手証券会社のパートナー(共同経営者)の座を投げ打ち、自らオンライン証券会社「マネックス証券株式会社」を起業したことで注目を集めた41歳のベンチャー企業経営者です。控えめな表現、淡々とした話ぶりながらも、経営者としての芯の強さと、若いながらも、既に明確な経営哲学を確立されていることが感じられた講演でした。
松本氏がマネックス証券を設立したのは1999年です。以来、セゾン証券との合併、日興ビーンズ証券との経営統合を行いながら高成長を続けています。現在の口座数は約42万、預かり資産1兆4000億円。証券取引の個人売買代金シェアで見ると、野村證券のシェアを抜き、約10%を占めるまでになっています。つまり、設立わずか6年、社員数も100人足らずのオンライン証券会社が、数万人の社員を擁する既存の大手証券会社を凌駕するまでになっています。この背景には、個人の株式売買において、オンラインで行われる取引が84%に到達していることがあります。インターネットを使った株式売買が、個人においては当り前になったということです。
さて、今は起業家としての道を歩んでいる松本氏ですが、以前は起業しようとは考えてもいなかったそうです。典型的なサラリーマン家庭に育ち、親からは、自営業者などはけしからん、浮き草稼業だ、といった認識を植え込まれていたからです。ただ、87年に大学卒業後、松本氏は外資系証券会社に就職します。当時、外資系証券会社に入社することは珍しく、周囲からはリスクを取ったのですねと言われたそうです。しかし、松本氏自身は、むしろリスクを回避したと考えていました。官僚や一般企業に就職した場合、上司や組織の都合でキャリアが左右されることが大きいと考えました。実力主義の外資系証券会社であれば、そうした不可抗力的なリスクではなく、自分でコントロールできるリスクの中で、キャリアを磨けるだろうと考えたのです。当初、起業を考えてはいなかったとはいえ、この自らのリスクで行動したいという考えを持っていたことを聞くと、松本氏のDNAの中には、起業家資質が埋め込まれていたことがうかがえます。
松本氏が、オンライン証券会社を興す契機となった問題意識は、日本の金融業界の高いコスト構造でした。過去の負の資産を抱えた既存の金融機関では、新たに優れた金融商品を作リ出そうとしても、そもそもコストが高すぎて難しいのです。松本氏いわく、「汚い水から美味しいお酒は造れるだろうか?」ということです。一方、株式売買委託手数料が完全自由化される「金融ビッグバン」が迫っていました。このような状況の中で、松本氏は、従来の高コスト構造の中でやるより、かえって新規参入のゼロベースで始めた方が得ではないかと考えたのです。そこで、当初、当時パートナーの地位にあったゴールドマンサックスに対し、低コストで個人とダイレクトに取引できるオンライン証券会社の設立を提案しました。しかし、ゴールドマンサックスは、個人向けビジネスはやらないといった理由によって松本氏の提案を受け入れませんでした。やむなく、松本氏は自分で起業することを決意するに至ったわけです。
松本氏は、ベンチャーの社会的な意義をダーウィンの進化論の視点で次のように説明してくれました。進化というのは、連続的に起こるのではなく、どこかで非連続の大きなジャンプ(突然変異)が起こって環境に適応するものです。たとえば、キリンの首は徐々に長くなったわけではなく、突然変異で長い首を持ったキリンが生まれ、それが環境に適応できるものであった結果、首の長いキリンが生き残ってこれたわけです。逆に言えば、ジャンプ(突然変異)できない種は滅びるのです。「社会」についても同様です。多様な考えを持つ人々が、大企業とは異なる、新しいやり方、新しい価値観で次々とベンチャーを始めることは、ジャンプによる非連続的な変化を引き起こす可能性を高めます。したがってベンチャーを生み出せる社会こそが生き残っていけるのだと松本氏は考えています。
ただし、ベンチャーを立ち上げる際には「使命感」が必要だそうです。なぜなら、自分がどんなにすごいアイディアだと思っても、同じアイディアを思いついている人は他にもたくさんいるし、自分より優れた人もたくさんいる。起業の苦労は大変なものだし、統計的に見てもベンチャーの成功確率はとても低い。したがって、起業でひと儲けしようといった安易な考えではなく、「これをやらざるを得ない」といった使命感がないと、とてもベンチャーを続けられないからです。
つまり、松本氏は、生き残るためには、いくらでもコピーできてしまうアイディア自体ではなく、それを実行し継続することの方が大事だと考えているのです。そして、継続するためには、取り組む領域の間口を広げすぎず、狭く限定し、一方、目標・理念は遠くに持つことが必要だそうです。目標・理念が遠くにあることで、社員が同じベクトルを向いて力を合わせることができ、少ない人数で大企業と戦っていけるのだと考えています。
さらに、松本氏は「コミュニケーション」の重要性を説きます。コミュニケーションは、ただ単にしゃべることではなく、相手に行動を起こさせることだと松本氏は考えています。したがって、相手に言葉を伝えただけではだめで、実際に行動につながったかを確認することが大事です。また、松本氏は、アート(芸術)は、自分の価値観で行動できますが、ビジネスは、相手の価値観が主役だと考えているため、社員や顧客の価値観を知るためのフィードバックを積極的に得るよう心がけています。裸の王様にならないためにです。
松本氏はまた、ベンチャーが生き残るためには、刻一刻と変化する外部環境に合わせて、軌道修正を常に行うことが極めて重要であること、同時に、会社組織自体は作った瞬間から古くなっていくこと、自分自身も毎年歳をとっていくが、ビジネスの対象となる社会の構成員の平均年齢はほぼ一定であるために、自分がどんどん中心から離れていくこと、つまり自分が旧体制の人間になっていくことを自覚しているべきだと言います。つまり、自分の価値観が陳腐化していっていることを忘れてはいけないのです。
松本氏は、人工衛星の場合、打ち上げに必要なリソースと、大気圏を出て永久軌道に載せる時に必要なリソース、さらにその後のリソースが異なることを例に引き、会社の歴史にも同様のステージがあるので、会社を存続させるためには、組織の弛まない変革と組織の平均年齢を上げない施策が肝要だと考えています。
今回の講演で松本氏は、ベンチャー企業の経営を通じて確立してきた経営哲学を整理して、わかりやすく説明してくれましたが、結局のところ、経営において最も大切なことは「好奇心」ではないだろうかと考えているそうです。社会がどう動いているのか、競争が何をやろうとしているのか、そういった情報を着実に捕まえることのできる源が「好奇心」だそうです。また、社員や顧客との弛まぬコミュニケーションを行おうとする源もやはり「好奇心」なのです。「では、「好奇心」をどうやって高めたらいいのか?」ということについては明確な答えを持ってはいないそうですが、松本氏自身は、自分がどれだけ自分のビジネスに好奇心を持っているかを第三者的な目で見て、好奇心が落ちないように気をつけているそうです。
松本氏が起業した理由の一つとして、自分が育てられたマーケットに恩返しがしたいということを挙げていました。松本氏は、金融マーケットを愛しているそうです。現在のビジネスに好奇心を持って取り組めているのは、そもそも松本氏がマーケットを愛しているからなのかもしれません。

<主要図書>
株はこれから2年-絶対の売り時、買い時がわかる本』(あいはら友子との共著)、幻冬舎、2004年
10億円を捨てた男の仕事術』講談社、2003年
サンプラザ中野と松本大の株本』(サンプラザ中野との共著)、日本経済新聞社、2003年

<推薦サイト>
日経マネー
マネックス・ビーンズ・ホールディングス
マネックス証券
日興ビーンズ証券

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