KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2007年11月13日

川上 真史「新時代のリーダーシップ」

川上 真史
ワトソンワイアット(株)コンサルタント
早稲田大学文学学術院非常勤講師
ビジネスブレークスルー大学院大学 専任教授
講演日時:2007年10月19日(金)

川上真史氏は、今回の講演では、ワトソンワイアットで今年実施された最新の調査結果から、日本におけるリーダーシップのあり方が従来とは根本的に変化してきていることや、これからのリーダーの育成方法についてわかりやすく説明してくれました。
さて、その調査とは、中国、韓国、日本の3カ国で並行して行われた「リーダシップサーベイ」です。調査をやる前は、部下のリーダー(上司)に対する満足度や、リーダーに期待することには、国による大きな差はないだろうと考えていたそうですが、調査結果からは、3カ国間でかなり大きな違いがあることがわかりました。
先ず、中国の場合、リーダーに対する部下の満足感は非常に高いものでした。そしてリーダーに期待することは、人間的に問題がない、つまり「人柄の良さ」です。これは、経済成長期にある中国ではやるべきことが明確で、あまり複雑な状況にないため、リーダーはやる気を阻害するような「悪い人間」でなければ問題ない、と中国の人は考えているからのようです。


次に、韓国では、リーダーに対する期待度が非常に高く、すばらしいリーダーがいれば企業は成長し、また部下のやる気も大いに上がると考えています。そして、韓国の人がリーダーに特に期待しているのは「問題解決能力」だそうです。これは、韓国では成長が頭打ち、成熟期にあるため、成功パターンが見えなくなっており、以前よりも複雑な状況に対処しなくてはならないという背景があります。
ところが、日本では、リーダーに対する期待度はあまり高くありません。リーダーが変わってもたいして変化はないというちょっと冷めた見方があるようです。川上氏によれば、「リーダシップ」は、どうやら韓国ではハーズバーグの言う「動機付け要因」に該当するけれども、日本では「衛生要因」でしかないということだそうです。つまり、韓国では、優れたリーダーシップによって、働く人のやる気が高まるのに、日本では、リーダーシップが優れているからといって、みんなのやる気が高まることにはつながらないということなのです。(ただし、「衛生要因」なので、リーダーシップが悪化すると一気にやる気が低下する結果になります。)
このように、日本人はリーダーにそれほど期待していないものの、リーダーは「こうあってほしい」という要求は持っています。ひとつは、「リーダーの人間性」そのもの、もうひとつは、「部下が担当する仕事の内容」そのものです。この2点だけは部下のやる気との相関が高い項目だそうです。
リーダーの人間性とは、「尊敬できること」です。この背景には、日本企業の組織がフラット化し、役職の権威が低下したことがあります。以前であれば、「○○部長の命令だから」という役職の持つ力で部下が動いたのですが、上司もみな「さんづけ」で呼ぶ組織が増えた昨今では、役職意識は薄くなり、嫌な上司の命令は聞かないという態度が強くなりました。したがって、役職に頼ることなく、「優れた人間性」によって部下を動かすことが求められているということでしょう。逆に、人間性に問題があれば、「こんな人のいうことは聞きたくない」となってしまうようです。
また、部下が担当する仕事内容とは、仕事を通じて自分が成長しているという実感が得られ、時間を忘れてのめり込めるような「面白い仕事」を、リーダーが作り出せるかということです。キーワードはコミットメントではなく、「のめり込み」の意味をもつエンゲージメントです。そして、この背景には「帰属意識の低下」があるということです。従来は、名前の知られた大企業に所属していれば、多少仕事がつまらなくても我慢できました。しかし今は、どんなに有名な企業に勤めていたとしても、仕事自体が面白くなければその企業に留まりたくないと考える人が増えています。だからこそ、リーダーに対しては、「面白い仕事を作ってほしい」と求めているのです。
他にも、川上氏は、日本人の「部下の満足度」と相関の高かった以下の5項目を紹介してくれました。

  • この人と仕事をするとわくわくする(&尊敬)
  • 部下に対して興味・関心を持っている
  • 自分たちの仕事が社会や顧客に対してどのような意義があるのかを語ってくれる
  • 仕事を通じて、何を成し遂げたいかという信念が伝わってくる
  • 現状に甘んじることなく自分を成長させようとしている

とはいえ、これらの項目すべてを十分にやれるリーダーは、そもそもどこの会社にもいないでしょうし、リーダーがこれらをすべてやろうとすると、川上氏曰く「病気」になります。ですから、すべてとは言わないまでも、どれかひとつでもふたつでもやれるようにすればいいと、川上氏は考えています。
一方、「部下の満足度」と相関を持たなかった項目は次の通りです。

  • 自分がまず率先して行動する
  • 自分の能力に対して自信を持っている
  • 常にそわそわしており、落ち着きがない
  • 自分の感情や気持ちをストレートに出している

川上氏は、上記の項目のうち、たとえば「率先して行動」などは、かつてリーダーに求められていた項目だったと指摘し、現在は、理想のリーダーのあり方が大きく変わってきていることを指摘します。したがって、当然ながらリーダーの育成方法も根本から変える必要があると主張しています。
つまり、企業における人材マネジメントが、がんばれば会社が自分たちのの欠乏(賃金や地位など)を与えてくれるという「外的報酬」型から、仕事そのものを通じて成長実感や充実感が得られるという「内的報酬」を重視した業務設計・マネジメント型に変換(パラダイムシフト)を迫られているのだそうです。
具体的な育成についてはまだまだこれからの課題ですが、中国、韓国、日本それぞれのリーダー作りの基本的な方向性を対比させると、
中国・・・リーダーを育成する(リーダーとしてやるべきことと、やってはいけないことを教える)
韓国・・・リーダーを選抜する(問題解決能力の高い人材を選抜する)
日本・・・リーダーを発掘する(社内から発掘する、社外も対象とする)
となります。
ここで、日本における「リーダーを発掘する」ための具体的な方法としては、まずは本人申告、次に周囲の他者の評価(360度評価など)、そして、リーダーシップを発揮する機会を提供する、ということが挙げられます。たとえば、リーダー候補者にビジネスプランを立てさせて、1年間そのビジネスプランの実現に取り組んでもらう。そうやって実際にやらせてみて成果が出せるかどうかということからしか、リーダーに適格な人材かどうかは見極められないのだそうです。
常に、心理学をベースとした最先端の考え方や斬新な枠組みを提供してくれる川上氏のお話は、何度お聞きしてものめり込んでしまう面白さがあります。

主要図書
自分を変える鍵はどこにあるか』ダイヤモンド社、2004年
仕事中だけ「うつ」になる人たち』(共著)、日本経済新聞出版社、2004年
できる人、採れてますか?』弘文堂、2004年
会社を変える社員はどこにいるか』ダイヤモンド社、2003年

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