夕学レポート
2019年06月18日
多様な専門性を束ねる専門家 白坂成功さん
いまから50年前(1969年)アポロ11号の成功により人類は初めて月面に立った。アポロ計画にどれ位のコストがかかったのかは知らないが、アメリカが国家の威信をかけた一大プロジェクトであった。その当時、人工衛星を1機打ち上げる為に、膨大な人員と時間が投入されたことは間違いない。
ところが、2017年、インドのPSLVロケットの打ち上げでは、一度になんと104機の人工衛星を打ち上げ、軌道に乗せることに成功している。
今回の夕学の登壇者 慶應義塾大学大学院SDM研究科で超小型衛星の開発研究を行う白坂成功教授によれば、宇宙開発の常識は大きく変わった。
いまや、第三次宇宙開発ベンチャー時代を迎えつつあるという。ロケットも衛星も小型化・低コスト化が進み、主役は民間企業に移りつつある。宇宙開発の目的も、社会問題の解決や、ビジネスユース、さらにはエンタテイメントにまで及んでいる。
日本でも、宇宙ベンチャーが続々と生まれている。
ロケット系では、ホリエモンがスポンサーになったことで知られるインターステラテクノロジズ社が、MOMOという小型ロケットの打ち上げに取り組んでいる。
衛星系では、アストロスケール社が、宇宙のゴミと言われる宇宙デブリの問題に取り組み、スペースデブリ捕捉衛星を開発している。
変ったところでは、ALE社が、人工流れ星を事業化することで、宇宙を舞台にしたエンタテイメント事業に取り組んでいる。
ウミトロン社は、人工衛星を使ったリモートセンシング技術を水産養殖に用いることで、人類が直面する食料問題の解決に資する事業を企図している。
白坂教授も、宇宙ベンチャーの当事者の一人である。
経産省の革新的研究開発プログラム(ImPACT)のプログラムマネジャーとして、小型合成開口レーダーの開発に取り組んできた。さらには、事業化に向けて、出資者&ボードメンバーとしてSynspective社を起ち上げた。
いまや、人工衛星搭載のカメラによって、ディズニーランドの駐車台数の推移まで把握できるようになってきた。しかしカメラには限界もある。なぜなら地球の3/4は雲に覆われており、カメラでは観測できない時間の方が長いからだ。
白坂教授らは、レーダーによる観測を行っている。小型のSynthetic Aperture Radar(SAR)衛星によって、カメラでは見えないものをレーダーで捉えようという発想である。
レーダーの強みは、即時性である。例えば、災害対応の為にはリアルタイムな情報が不可欠である。レーダーによって、どこが、どういう状況にあるのか、といったオンデマンド観測情報を提供することができるようになる。
「もはや宇宙開発のプロだけではだめ、多様性によるイノベーションが必要になった」
白坂教授はそう喝破する。
宇宙開発の技術を使って新たな事業開発・用途開発を行うには、これまでにない柔軟な思考フレームが欠かせない。その時に必要なのは、宇宙とは関係のない専門性を持った人材が加わる異質性のマネジメントというわけである。
白坂教授は宇宙開発のプロであると同時に、システムエンジニアリングのプロである。白坂先生が所属する慶應SDMは、宇宙開発のような大規模なシステム開発プロジェクトをマネジメントするための専門家を養成する大学院である。
言うならば、「多用な専門性を束ねる専門家」の育成を目指しており、白坂先生は、そのための方法論を教授している。
宇宙開発の実践研究者であり、事業家であり、教育者。
白坂先生自身が多様性の体現者と言えるようだ。
(慶應MCC城取)
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