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ピックアップレポート

2026年05月12日

芝 哲也『ゼロから始めて社会を変えるソーシャル・イノベーション〜その「違和感」から始める、ひとりビジネス革命』




著者:鈴木 寛、芝 哲也、須藤 淳彦、坪井 奈穂美、中川 元、戸高 祥円

芝 哲也
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授

あなたの「違和感」は、武器になる

「今の仕事、このままでいいのだろうか」
そんな感覚を抱えながら、日々の業務をこなしているビジネスパーソンは少なくないと思います。新しいことを始めたい。でも何から手をつければいいかわからない。そのもどかしさの正体は自分の価値観や感覚とのズレ「違和感」かもしれません。本書は、その違和感こそがイノベーションの出発点だと言い切ります。

PDCAでは、もう間に合わない

旧来のPDCA(計画→実行→評価→改善)は、品質を安定させる上で絶大な力を発揮してきました。しかし、何が起こるかわからないVUCAの時代、「完璧な計画」を立ててから動こうとすると、状況が変わり続けるために計画が完成しません。そして、延々とリプランを繰り返し、機を逃す――そんな負のサイクルに陥っているチームや組織は珍しくありません。

本書が提案するのは、AAR(Anticipation:見通しを立てる→Action:やってみる→Reflection:振り返る)というサイクルです。完璧なプランを待つのではなく、ある程度の見通しを立てた上で、複数の案をまず小さく動かしながら検証し、前進していく。意思決定の速度を変える考え方です。

さらにPCCP(Philosophy:哲学→Concept→Contents→Program)は、プロジェクトの最上位に「哲学・価値観」を置くフレームワークです。SDGsやウェルビーイングが経営課題となった今、「何のためにやるか」を言語化できないプロジェクトは、社内外の共感を得られません。軸となる哲学を固めながら方法論を柔軟に変えていく。AARとPCCPの組み合わせが、現代のプロジェクトを動かす基盤になります。

情報、教育、医療、スポーツの分野でさまざまな改革を行なった鈴木寛教授のイノベーションメソッドをまとめた一冊

このAARとPCCPをさまざまな改革の実践を通じて生み出したのが、元文部科学副大臣で東京大学教授、慶應義塾大学特任教授の鈴木寛(愛称:すずかん)先生です。

すずかん先生はJリーグの創設、サッカーワールドカップ、ラグビーワールドカップ、オリンピック、万博の誘致、iPS細胞による医療イノベーション、N高やZen大学の設立、N高グループへの探究授業の導入など、さまざまな改革を行なってきました。
教え子は1000人を超え、ビジネスの分野ではヤフーの川邊健太郎氏、Quera Computingの北川拓也氏、バイオベンチャーのユーグレナで注目を集める出雲充氏、スマートニュースの鈴木健氏など、ソーシャル分野では福島浜通りでの創造的復興教育を率いる南郷市兵氏、認定NPO法人カタリバの今井久美氏、アーティストの鈴木愛理氏など、一度は目にしたことのある名前があるのではないでしょうか。ほかにもIBM本社や日本マイクロソフトの執行役員、霞ヶ関官僚、有力企業の中堅幹部など数えきれないリーダーを輩出してきました。

彼らと共に学び、彼らに授けたツールキット、すずかんメソッドをまとめ、さらに深めて一冊の本にすることができました。それが『ゼロから始めて社会を変えるソーシャル・イノベーション その「違和感」から始める、ひとりビジネス革命』です。僕は、このすずかんメソッドのフレームワーク化やすずかんメソッドの再現性を担保するための手法の開発、僕の作ったクリエイティブ思考の手法の提供と、それらを総合したイノベーション教育プログラムの検証などを行いました。

誰か1人を幸せにすることから始める

数々の「日本初」を実現したすずかん先生の行動の原点は何だったのかのか。それは、国家的な使命感ではなく、「ワールドカップを日本で見たい」「自分も経験している難病で苦しむ人を減らしたい」「子供達の未来を明るくしたい」というような、一人の人間としての切実な想いだったといいます。

  「ソーシャルイノベーションとは、誰か1人でも幸せにすること」

この言葉を聞いた瞬間、私はビビッときました。顧客がリピーターになるには、満足させるだけではなく「感動」をもたらすことが必要です。そして感動の先にある「幸せ」を届けられれば、ファンになってもらえる上に、その人の後ろに100人がついてくる。ビジネスは、ただ儲かるからやるのではなく、誰かを幸せにするために何かを創ることで結果的に収益が上がる仕組みをつくることが重要なのではないかと思います。ビジネスの文脈で言い換えれば、まず目の前の一人に刺さるものをつくる、それが事業や組織が拡大・成長する起点になるということです。

私が慶應MCCで担当するプログラム「ウェルビーイング・イノベーション思考」では、前野隆司先生のウェルビーイング研究と、すずかん先生のメソッド、そして本プログラムで紹介するクリエイティブ思考の手法を組み合わせ、自分だけのソーシャルイノベーションを描く実践の場を提供しています。

あなたが日々感じている「違和感」は、捨てるべき雑念ではありません。それはまだ言葉になっていない、あなただけの哲学の芽です。その芽を育てて、自分も他者も社会も幸せにするソーシャルイノベーション、ウェルビーイングイノベーションを実現しましょう。


ゼロから始めて社会を変えるソーシャル・イノベーション〜その「違和感」から始める、ひとりビジネス革命』(翔泳社2026年5月)を著者と出版社の許可を得て抜粋・編集・追記しました。無断転載を禁じます。


芝哲也先生のビジネスプログラム

「ウェルビーイング・イノベーション思考-人と組織を幸せにするアイデア発想力を磨く」
6月29日(月)開講・18:30-21:30 全6回
https://www.keiomcc.com/program/sdt26a/

芝哲也

芝 哲也(しば・てつや)

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授

1983年大阪生まれ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。バンクーバーフィルムスクール デジタルデザイン学科卒業。卒業後大手広告代理店 BLAST RADIUS(カナダ)に勤務。帰国後デザイン事務所 NOSIGERに加入しサイエンスコミュニケーション、災害支援など、社会課題解決プロジェクトに参加。
2011年デザイン事務所Cauzを設立、広義のデザインの枠を超えて、街づくり、中小企業の支援、起業家支援、社会課題解決などへのデザインの適応を行う。2018年クリエイティブ思考協会設立共同代表理事。

担当プログラム
ウェルビーイング・イノベーション思考-人と組織を幸せにするアイデア発想力を磨く

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