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夕学レポート

2017年10月13日

新しい時代の価値づくり 藤川 佳則先生

photo_instructor_892.jpg経済学、特に国際貿易の文脈では、モノ(goods)とサービス(service)の違いを、触れる(tangible)と触れない(intangible)という分け方をする。今日までは、この二分法に何の疑問も持ったことがなかった。しかし、その方法では分けられない時代になっている。
“Something interesting is happening…” (Tom Goodwin)
藤川 佳則先生はこの言葉をこの講演の冒頭で引用した。後に続く言葉は「Uberは一台の車も持ってない、Facebookはコンテンツを作っていない、Airbnbは不動産を所有していない…しかし、これらの企業は大きな利益を生み出している」。それが、興味深いとTom Goodwin は言っているのだ。


なぜ、これらの企業がモノや製品を持たずに活躍しているのか。すでに地球規模で起きている3つの変化を藤川先生が紹介されたことを以下にまとめると、

SHIFT「世界経済はサービス化へ」

どの国でも経済が発展するにつれて、第一次産業(農林水産業)から第二次産業(鉱工業)、第三次産業(サービス産業)へと労働人口および国民所得に占める比率の重点がシフトしていく。これはペティクラークの法則といわれるものである。現在、先進国各国のGDPのうち第三次産業が七割を占めている国が大半である。需要サイドから見れば理解しやすいが、人は経済発展する過程でモノ消費からコト消費へと移行する。例えば、最近の訪日外国人消費動向調査によると、中国人とイギリス人の消費額はほぼ同じであるが、中国人は日本でモノを消費している(爆買い)のに対し、イギリス人はホテル代や飲食代にお金をかけている。経済発展し、社会が成熟するにつれて、人々はサービスにお金を費やすようになるのだ。

MELT「産業の垣根はあいまいに」

上記のような、第一次、第二次、第三次産業という枠組みが溶けつつある。かつて、Googleといえばインターネット関連の企業と答えることができたが、現在ではそれだけに留まらず、医療や自動運転など複数の事業を行っている。最近では、糖尿病患者のためのコンタクトレンズをも製造している。涙の中の糖分比率を感知して、ドクターに知らせるシステムの提供もしており、企業が一つの分野・産業に留まることはなく、垣根自体がなくなってきているのだ。

TILT「未来は北緯31度の北から南へ」

Global Tilt“の著者Ram Charanによると、「富は北から南へ動き、雇用も北から南へ動いている」。アジアやアフリカなどの経済発展の勢いはものすごいし、人々はそのことに気付いている。しかし、多くの企業は北米に本社を置いたままである。世界の中心は南になっているというのに。さらに、Charanによると2022年には世界の中間層の数が貧困層を上回ると予測している。それぐらい北緯31度以南に勢いがあるというのだ。
このように地球規模で変化しているなか、今までと同じような「レンズ」で価値づくりを見て良いのかという問いを藤川先生は我々に与えた。
今までの「レンズ」とはモノまたはサービスのどちらかを企業が価値創造し、それを顧客が購入したところで終了することだ。マイケル・ポーターが提唱したヴァリュー・チェーンの消費の部分で「価値づくり」は終わる。それが、モノもサービスも企業と顧客がともに価値を創り出す「価値共創」へと現代ではシフトしている。さらには「価値共創」の相手を複数にするような新しい「レンズ」がある。そこには、モノとサービスという括りがなく、モノがサービスを提供し続けられるようなことが可能となる。企業が価値を創造し、それを消費するだけであったのが、企業と顧客が共に価値をつくり続ける。
企業と顧客が共創するとは、ナイキプラスを例に挙げると、ランニングシューズがインターネットで繋がり、世界中の人々と走った距離を競うことができる。これは、商品を顧客に提供した後にも、顧客は企業に自分の情報を提供することで、ともに価値を作り上げることができる。また、他の例を挙げると、ブロックおもちゃのレゴは、客が完成させたレゴに対して、それを見た人が「いいね」と思ったものに投票し、実際に商品化することもしている。このように商品を提供したあとの価値づくり、つまり新しい「レンズ」で見た価値づくりが必要なのだと藤川先生は述べた。
モノが売れない時代と言われ、その中でも売り上げは前年を上回ることが求められる。しかし、魅力的な商品を作って、モノを売り続けるだけが商売なのだろうかと問いかけられている気がした。話は変わるが、以前、「成金の法則」という話を聞いたことがある。貧しかった人が急にお金を手に入れると、なんだかよくわからないけど、とりあえず高いものを買って、高いものを食べる。この「なんだかわからないけど高いもの」ということがポイントで、それ故に、なんだかわからないけどモノは売れていた。一方、モノは飽きられる。努力しない人間が飽きられるのと同じように。しかし、そこに企業が飽きないために、サービスを提供したりできたら、その商品を大事にし、長く愛用できることにも繋がるのではないかと考えた(非常に抽象的ですみません)。これが、私が今の時代の新しい「レンズ」で見たことだ。同じ会場にいて、講演を聞いた方には、どのようなことが見えたのだろうか。
(ほり屋飯盛)

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