KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2017年11月28日

世界は投資で成り立っている 藤野英人さん

photo_instructor_884.jpg私は株式や債券等の金融商品への投資をしたことがない。金銭的な損失の可能性がある投資は、リスク回避を志向する自分の性格には合わないと思っていた。しかし、藤野英人さんのお話を聞いて、投資の世界はお金を媒体とするものだけではなく、実は自分の人生においても身近なものであることがわかった。投資は、情熱的で素直なものである。初めて覗いた新しい世界に藤田さんが連れて行ってくれたと思っている。
日本人は現金が大好きで、銀行に預けてもいないタンス預金は日本全国で43兆円あるといわれている。タンス貯金はないけれど、私も資産としては、預金しか持ち合わせていない。米国の家計の金融構成比のうち、預金は13.4%しかないのに比べ、日本は51.5%である。さらに、日本人は持ち合わせた現預金を寄付に回すことを嫌がる傾向にある。米国では、成人一人当たりの年間寄付額が13万円であるのに対し、日本人は2,500円であるといわれている。当然、寄付額総額をみても、米国が34兆円であるのに対し、日本では、7,000億円である。


日本人は投資についての教育を受けておらず、積極的に教育を受けない選択をしている。金融庁の調べによれば、投資教育を受けた経験があるのは、全体の29%しかない。残りの7割の未経験者に関しても、金融や投資に関する知識を身につけたいと思わないとする割合が7割いる。全体の半数近くが「積極的無知」ということである。
藤野さんはまた、日本人は働くことも好きではないのではないかという。電通総研によれば、就労している18~29歳のうち、できれば働きたくないとする割合は28.7%である。また、世界の「社員の「組織貢献・愛着度」」を比較したKeneXa High Performance Instituteの調査では、日本が米国・ドイツに比べて低い指数となった。この指数は、組織の成功に貢献しようとするモチベーションの高さ、組織の目標を達成するための重要なタスクの遂行のために自分で努力しようとする意思の大きさを表したものである。日本は31%であるのに対し、米国は59%、ドイツは47%となっている。
この背景にあるのは、サービスや商品を提供してくれる従業員に対して、乱暴に相対するブラック消費者のせいではないかと藤野さんはいう。総じて、日本人はブラック消費者のせいで、労働が嫌い、会社も嫌い、投資も嫌いになっている。ならば、感謝されるから働くことが好きになり、成長機会を与えてくえる会社が好きになり、それを応援したい人が増えれば投資が増える。藤野さんはこの好循環を、働く人への感謝の投資を行うことで発生させることができるという。
つまり、「ありがとう」という単純で身近な言葉すら、働く人をやる気にさせ、成長させるような投資になるということである。投資の定義とは、「エネルギーを投入して、未来からのお返しをいただくこと」にある。エネルギーとは、お金だけではなく、情熱・行動・時間・回数・知恵・体力・運・愛情等のすべてがそれにあたる。周囲の人や自分のがんばりを応援することすべてが投資にあたる。世界は投資という好循環を前提に成り立っているのである。
藤野さんは、レオス・キャピタルワークスを設立し、特に日本の中小企業の株を購入することを通じて、人々を応援している。実は、2002年12月から2012年12月までの10年間で株価が上昇した企業の96%が中小型株または超小型株から成っている。せっかく応援するならば、成長が期待できる企業を応援したい。藤野さんの企業選定の鍵は、社長の強烈なリーダーシップである。社長が長期的目線や顧客目線を大切にしているかどうか、意思決定のプロセスがシンプルかどうかという点が企業選定の決め手だという。企業の成長を示す利益率と株価は長期的に見ると相関しているため、投資に対するリターンも得られる。それは、次の誰かを応援する原資となるのだ。あくまで、エネルギーをできるだけ多くの人に循環させることが投資の本質である。
私は、自分の立場に置き換えて、自分の時間や努力を投資することを考えた。投資先となる勤め先企業をどうやって選ぶのだろう。これまで、正社員として2社で働いてきた。過去の企業選びで基準にしていたことは、不十分な知識によって判断したやりがいや処遇であったように思う。まだ社会人としての経験が浅かったこともあろうが、その会社で働く自分をはっきりイメージしようとしていたかすら怪しい。
今となってはわかるが、藤野さんがいうように、自分を成長させてくれる企業であり、働いている人が生き生きしている企業で働きたい。一方で、どれだけの人が、就職面接やインターネットの情報を通じて得られる情報で、正確に就職先を理解することができるのだろうか。また、どんなに情報の信頼性が高かったとしても、最終的に自分が生き生き働くことができるかどうかは、運や想定外の外部環境の変化にも左右するところがある。
藤野さんの著書『投資バカの思考法』では、金銭的な投資に限らず、人生の投資の決断をするために心得ておくことがたくさん書いてある。藤野さんの投資人生から得られた決断の決め手は、物事を何ものにもとらわれず、何が正しいのか、何が真実なのかをよく見極めること。それを踏まえて、自分が好きなものを選択するということである。全力投球で向かっても、何かの真実を見極めることは簡単ではない。ただ、投資は本来、人や社会の好循環を生むものであるということが本質であるため、そこには投資する人のワクワクや希望があってしかるべきである。十分に真実を見極めた上で、最後は好きなものを選択すればよいのであれば、色々な決断や投資はもっと楽しくなる。
(沙織)

メルマガ
登録

メルマガ
登録