KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2010年10月22日

「当たり前のこと、多くの会社はそれが出来ない」  大久保恒夫さん

この数年、企業内人材育成の大きなテーマは、「人が育つ場としての仕事・職場」をいかに作るか、提供するかということであろう。学術的には「経験学習」と呼ばれるものだ。
ちなみに次回(10/25)に夕学に登壇する松尾睦先生(神戸大大学院教授)は、「経験学習」論の第一人者である。
松尾先生によれば「人が育つ場としての仕事・職場」の条件はシンプルである
1.適度に難しく、明確な課題を与えること
2.結果に対するフィードバックがあること
3.誤りを修正する機会(繰り返し)があること
こう書くと当たり前のように見えるかもしれないが、多くの人事教育担当者は、自社で展開することが難しいと頭を悩ます。
まず、「適度に難しい仕事」の数が限られていて、多くの人にアサインできない。
長期間のプロジェクトや大きな仕組みの一部分を回すだけ(それも重要なのだ)の人にはフィードバックが戻しにくい。
小さな失敗が取り返しのつかない事態を招くこともあり、失敗に鷹揚になれない。
経営者や現場責任者のコミットがないと進まない。 
等々の意見が噴出する。
当たり前のことほど、実は難しいものだ。
「私の話に目新しいことは一つもありません。当たり前のことです。」
「私は、自分のやっていることは包み隠さずお伝えしています。でも、多くの会社は、それができないのです」
大久保さんは、涼しげな表情でキッパリと断言する。


コンサルタントとして関わったユニクロ、無印良品の改革、経営者として指揮したドラッグイレブン、成城石井のV字回復。大久保さんは数々の実績を残してきた。
なぜ、大久保さんには、実行できたのか。
恐らく、大久保さんは、「人が育つ場としての仕事・職場」を提供する意味で、小売業ほど最適な業態はないということを心底分かっているからであろう。
1.適度に難しく、明確な課題を与えること
2.結果に対するフィードバックがあること
3.誤りを修正する機会(繰り返し)があること
三つの条件は、小売業の現場にピタリとあてはまる。
売場の数だけ、「適度に難しい仕事」がある。結果はその日にわかる。間違えてもすぐに軌道修正、再チャレンジができる。大久保さんが経営者として舵を取る。
ドラッグイレブンや成城石井は、「人が育つ場としての仕事・職場」そのものであった。
人が育つ場としての仕事・職場」は人間を変える。
人間が変われば提供する商品・売場の価値が上がる。
価値が上がれば、利益は自ずと上がってくる。

リストラやディスカントといった、小売業経営改革の常識?を使わずとも、当たり前のことを徹底することで、会社は甦っていくのだ。
10月1日付で、大久保さんはセブン&アイ・ホールディングスの顧問に就任した。ほぼ常勤に近いコミットレベルだという。
21年振りに戻った古巣の光景は、「びっくりするほど変わっていた」という。
売上高7兆円のコングロマリット型小売企業グループに成長したセブン&アイには、「人が育つ場としての仕事・職場」という原点が見えにくくなっているのかもしれない。
かつてヨーカドーが強みとし、大久保さんが鍛えられた組織学習サイクルを、7兆円の巨大企業グループに埋め直すことが出来るのか。大きな課題であろう。
大久保さんは、飄々としながらも自信ありげであった。
私は、早速、新丸ビル地下の成城石井に寄ってきた。
ワイン仕入担当者がボルドーを歩き回って見つけ出し、12万本を売る大ヒット商品になった「ラベリエール」という赤ワインを購入した。
素材のみならず、燻製用のチップをドイツから輸入して作っているという「ポークソーセジ」と、大久保さんお奨めのチーズ「熟成ブリー」を合わせて、締めて2,588円。
夫婦二人の、週末のささやか楽しみとしては手頃なお値段である。
大久保さん仕込みの「実行力」を味わうこととしよう。

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