夕学レポート
2010年10月26日
『論語』で学ぶ経験学習 松尾睦さん
前回(21日)の夕学に登壇した大久保恒夫氏(前成城石井社長)が「経験学習」の実践家だとすれば、今回の松尾睦先生は、「経験学習」の理論家である。順番は逆になったが、松尾さんに理論的なフレームワークを、大久保さんが社長として取り組んだ「人を育てるマネジメント」に当てはめてみると、理論と実践が相似形をなすことがよくわかる。
1)経験を学びに結実させるためには、「経験学習のサイクル」を回す必要がある。
それは、「具体的な経験」を行う → 内なる振り返りから教訓を引き出す → 新たな課題に挑む → 「具体的な経験」を行う...というサイクルを回すことである
2)そのためには、「ストレッチ」「フィードバック」「エンジョイメント」の三要素をつなげることが大切である。
適度に難しい課題に挑戦すること。周囲から意見を求め軌道修正すること。仕事を楽しみ、没頭すること、をつなげるのである。
3)「目標・役割・使命」「他者との関係性」が学ぶ力を左右する。
何のために働くのかを掴むこと、どういう人間関係を築くのかが大きな影響を与える。
上記が、松尾先生が解説してくれた「経験学習」のフレームワークである。
そこで、本ブログでは趣向を変えて、東洋の先達から学ぶ「経験学習」に挑戦してみたい。教材は『論語』である。
『論語』については、このブログでも再三言及してきたが、私個人としては、「個の自律を謳いあげる書」「生涯を通じた学びを提唱する書」として読んでいるからだ。
さっそく、「経験学習」のフレームワークに沿って、『論語』の章句・一節を選び取ってみた。
● 経験学習のサイクル」と同じことを言っているもの
「人の過ちや、おのおのその党(たぐい)においてす。」
党というのは、親しい仲間という意味だが、ここでは固有の価値観に捉われていることのメタファーである。人間の失敗は、経験からくる思考・価値観の固定化が引き起こすことを戒めたものである。
「学んで思はざれば則ち罔(くら)し。思うて学ばざれば則ち殆(あやう)し。」
ここで言う、「思う」というのは、実践の中で自分なりに考えてみることを意味する。
新たな気づきや学びがあっても、それを自分の問題として捉え直さないと罔(くら)い=意味がない。
自らが直面する課題に思い悩むばかりで、新たな知識や知恵を学ばなければ殆(あやう)い=は危険だ。
勉強すればいいものでも、経験すればいいものでもなく、間をつなぐ「内省」が必要だということである。
● 「ストレッチ」(目標をストレッチする 自分で考えさせる)に該当するもの
「一隅を挙げて、三隅を反らざれば、則ち復たせざるなり。」
四角の一角を指摘すれば、残りの三つの角に気づく位の人間でないとダメだ。
常に問題意識を持ち、日頃から考えている人間だけが経験から学ぶことができるという意味であろう。
「之(これ)を如何(いかん)、之を如何といわざる者は、吾れ之を如何ともする末きのみ。」
これは、説明も不要ではなかろうか。自分のやりたいこと、目指すべきものがなければ指導のしようがないというものだ。
● 「フィードバック」(他者の話を聞く、原因の分析・改善を行う)に関連するもの
「三人行(あゆ)めば、必ずわが師あり。」
自分の周囲には、必ず相談相手や意見を言ってくれる人がいるものだ。要は誰からでも学ぼうという姿勢があるかどうかである。
「視るには明を思い、聴くには聡を思い、色は温(おん)を思い、貌(かたち)は恭を思い、言は忠を思い、事は敬を思い、疑ひには問うを思い、忿(いか)りには難を思い、得るを見ては義を思う。」
よく見る、よく聞く、表情は柔和に、態度は上品に、言葉使いは正しく、行動は慎重に、分からなければ謙虚に問い、怒りは抑え、欲張らない。これがよい人間関係を築く極意だと説いている。「九思」=九つの着眼点とされている。
●「エンジョイメント」(仕事を楽しむこと)に関わるもの
「之(これ)を知る者は之を好む者にしかず。之を好む者は之を楽しむ者にしかず。」エンジョイメントの精神をこれほど言い得た言葉はないのではないか。
● 「目標・役割・使命」に相当するもの
「三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。」
三十代で、自らの基軸を確立し、四十代で邁進すべき道を定め、五十代で等身大の自己使命に気づく。
あまりに有名な章句だが、この前の十五、後の六十、七十も含めて、「何のために、どう生きるのか」を問い続けることを示唆している。
●「他者との関係性」に関連するもの
「朋あり、遠方より来たる有り。また楽しからずや。」
朋というのは、理念を共有する友人の意味。「遠方より来たる」は遠くから来るというのではなく、志を共にする人々とのネットワークの広がり示している。
少しばかりこじつけあったかもしれないが、どうであろうか。
追記
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/10月25日-松尾睦/
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