HOMEへ戻るMCCマガジン金井 真介「社会を静かに変えていくプラットフォーム ダイアログ・イン・ザ・ダーク」

金井 真介「社会を静かに変えていくプラットフォーム ダイアログ・イン・ザ・ダーク」

2010年11月01日

金井 真介
ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表
講演日時:2010年11月1日(月)

暗闇を手探りで18年 ~金井真介という焚火~

「暗闇体験の話ですから・・・暗くしましょう」

講演の冒頭、金井さんの合図で照明が落とされた。暗がりの会場に、金井さんの落ち着いた声が満ちる。

「人数を感じてみましょうか」

金井さんの指示で全員が拍手する。音で、お互いの存在を確かめあう。聞こえる、ではなく、感じる。拍手が聴衆をひとつにする。

「このまま暗闇で続けたいのですが、それではメモを取れなくて皆さんお困りになるでしょうから」と言って灯りが点けられる。そうか、目が見えるということは、光がないと何もできないということなのだ。

なんと不便なことか。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)は、完全な真っ暗やみの中で五感を開く、ソーシャル・エンターテイメント。1989年にドイツで始まり、これまでに世界で600万人が体験した。そのDIDを日本で展開してきたのが金井真介さんだ。

きっかけは93年、DIDを紹介する小さな新聞記事をたまたま目にしたこと。95年にイタリアで実際に体験した時、イタリア語がわからない金井さんは暗闇の中でチームからはぐれてしまう。やがて救助スタッフに両腕を引かれて会場の外に出たとき、金井さんは、自分を救ってくれたのが2名の視覚障害者だったことを知る。

暗闇で劇的に逆転した、健常者と視覚障害者の関係。

その原体験に突き動かされるように、99年には自らの手で二日間だけの日本初開催を実現。以後、各地で期間限定開催を重ねながら、昨年ついに常設展の開催にこぎつけた。

暗闇はなぜか温かい。

誰も見えない、誰からも見られない状態で、参加者は不思議な解放感を味わう。

初対面同士が、明るいところでは決して示さないような親密さを見せ合う。

すべての有機体は自らを歌うメロディである、とユクスキュルは言った。

暗闇という環境で、参加者たちのメロディは共鳴し、ハーモニーを奏でる。

ともすれば私たちの興味は「暗闇/イン・ザ・ダーク」に向かう。しかし暗闇は環境に過ぎない。DIDのテーマはあくまで「対話/ダイアログ」である、と金井さんは強調する。それは、チームメンバーとの対話。アテンドとの対話。暗闇との対話。そして、自分自身との対話。

各国では「ガイド」と呼んでいる視覚障害者スタッフを、日本のDIDでは「アテンド」という。先頭に立って歩くガイドでなく、後ろから体験を促し、困った時には寄り添う、ファシリテーターとしてのアテンド。これも金井さんのこだわりである。

セッションが終わり外に出た途端、暗闇の中であんなに頼り切っていたアテンドをあっという間に放り出してしまう大人がいる。すぐに携帯の電源を入れ、メールをチェック。そんな様子もアテンドはしっかり「見て」いる。

子どもたちは違う。暗闇そのままに、明るいところに出てからもずっとアテンドとふれあい、言葉を交わす。普段、ケータイやパソコンのモニター越しに無言のコミュニケーションを重ね、世界でもっとも孤独を感じているはずの日本の子どもたちが、ここでは声と感覚をフルに使って生のコミュニケーションを楽しんでいる。

今、小学4年生は授業で「障害者体験」をする。視覚障害者の話を聞き、アイマスクをつけて校内を歩く。不便さを肌で感じることは、障害者理解のために有効ではあるだろう。しかし「不便だね」「かわいそう」で終わるなら、健常者が「強者」であり障害者が「弱者」であるという見方を無意識に刷り込みかねない。

強者が弱者の立ち位置に「降りて行く」垂直的関係から脱すること。健常者と障害者がお互いの特長を知り、お互いが生きる世界を対等な水平的関係で理解すること。

そのために、全国の小学4年生が、アイマスクでなくDIDを体験できたなら。

温かい暗闇の中で、目の見えないアテンドたちと魂の握手を交わすなら。

そのような体験をした子どもたちが大人になった時、日本は少しだけ変われるかもしれない。

アテンドとスタッフがみんなで焚火をした時の写真が映し出される。

金井さんの情熱の炎は、ガスバーナーのような派手な炎ではない。それは焚火の炎だ。パチパチと小さく弾けながら、しかしすぐに消えることなく、いつまでも穏やかに燃え続ける。

やがて、炎のまわりに人々が集まってくる。輪になって座る人々の冷えた身体を、じわり、芯から温めていく。

ソーシャル・エンターテイメントを日本に根付かせていくという、先人のいない「暗闇」を、手探りで、五感を最大限に働かせながら歩み続けてきた金井さん。

講演の終盤、この日本でDIDを続けて行くことの困難さを、金井さんは繰り返し訴えた。常設展も来年の三月で2年の期間が終わってしまう。残された時間は少ない。先は見えない。

アテンドは語る。「目が見えないことは不便だが、不幸ではない」。

この言葉に倣って言ってみる。「この日本でDIDを継続していくことは、困難だが、不可能ではない」。

金井氏はこれからも淡々と、しかし着実に、道なき道を手探りで歩んでいくだろう。

暗闇をじんわりと温めながら。

(白澤健志)

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