KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2011年05月20日

「お座敷」は、日本文化の集約センター 紗幸さん

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文化人類学(社会人類学)とは、人間の生活様式全体(生活や活動)の具体的なありかたを研究する学問である。
そのために、文化人類学者は、対象とする人々や社会にその一員として入り込み、共に暮らし、同化することで、さまざまな生活事象を体験・観察し記録していくのである。
例えば、アマゾン奥地で、原始的狩猟・採集生活を続ける原住民族を調査するために、彼らと一緒に茅葺きの小屋に寝起きし、キャッサバやピラニア、昆虫を食べ、幻覚剤に酔い、死と再生の祭りに参加する。
それが文化人類学者である。
15歳の時、一年間の交換留学生としてオーストラリアからやってきた紗幸さんは、もう一年、さらに一年と滞在期間を延ばして慶應大学を卒業した。
その後は、オックスフォード大学でMBAと人類学の博士号を取って学者になった。
もう一つの顔では、テレビプロデューサーとして比較文化ドキュメンタリー制作にも携わってきた。
日本文化に親和性を持ち、人類学者で、ドキュメンタリー制作者、という紗幸さんが、そのクロス領域として、日本の花柳界に興味関心を持ったのは自然なことだったのかもしれない。
外国人が日本で一度会ってみたいと思う人気No1は、いまも「ゲイシャ」であり、日本文化の象徴として、純粋な興味関心の対象である。
花柳界は、前近代的な因習が色濃く残り、猥雑な側面もあったので、日本の学者が研究対象とすることは少なかった。
しかしながら、花柳界の、ある側面を切り離して捉えることができれば、日本を代表する文化であることは誰もが認めることであろう。
日本人と外国人の両義的存在である紗幸さんは、それが躊躇なく出来た。


外国人が、芸者の世界に飛び込み、さまざまな体験をする姿をドキュメンタリーとして撮る。それが、紗幸さんが当初考えたことであった。
しかし、「芸者になろうとして分かったこと」は、そんな安易な気持ちではけっして受け入れてもらえないという花柳界の現実であった。
その壁を乗り越え、「芸者になってわかったこと」は、彼女達(芸者衆)は、けっしてカメラの前で本当の姿を見せることはないという真理であった。
この段階で、路線変更を余儀なくされた紗幸さんが取った道は、どっぷりと芸者になりきることであった。
一年間の修業と莫大な投資の末に、浅草芸者40人の末席に列なることが出来た彼女は、どうしても90度のおじぎが出来ずに何度も叱られたという。
新年の顔合わせでは、40人の「お姉さん」に、序列の順番で挨拶をしなければならないという厳しい上下関係に戸惑った。
ただ、厳しくはあっても、楽しい。
日本で大人になり、社会人になった紗幸さんには、日本文化の特徴を濾過器にかけて絞り出したような芸者の世界にすっかり魅了された。
そんな紗幸さんが、三年間の芸者生活を経て、はっきりと見えているものがある。
いままさに絶滅せんとする花柳界の現実である。
ひとつの文化が消えようとしていく姿を参与観察できるのは、文化人類学者としては、滅多にないチャンスである。
一方で、浅草芸者のひとりとしては、死活問題である。
昭和の初めに、全国で八万の芸者衆を抱えていたという日本の花柳界は、まぎれもなく「ポピュラーカルチャー」の代表であったと紗幸さんは言う。
いま、東京の芸者は、約五百人。
「ハイカルチャー」な存在へと階層移動をして生き残るしかない。
それは「芸者さんが、演歌に合わせて踊ることではない」と紗幸さんは断言する。
コンテンツは変えてはいけない。しかし経営は変えなければいけない。
おそらくは芸者で唯一のMBAホルダーでもある紗幸さんならではの至言です。
紗幸さんによれば、花柳界の「お座敷」は、日本文化の集約センターである。
建築、絵画・調度、料理、器、舞踏、邦楽、唄、所作、言葉etc、「お座敷」には、日本文化のあらゆるもの揃っている。
日本文化の体験、講義にこれほど相応しい場所はない。
「自国の文化を何も知らずに、海外の文化ばかりを勉強しようとする」
「そんな先進国はない」

紗幸さんは、日本人に対してしっかりと意見をぶつけてくる。
そこまで言われたら皆さん、一度「お座敷」を体験してみませんか?
一人二万円の予算で仲間を募れば、紗幸さんが体験ツアーを企画してくれるそうです。
「夕学五十講」特別編 『「お座敷」を通して日本文化を知る』 講師:紗幸さん
こんな講座ツアーに賛同される方は、是非ご連絡ください!!
この講演で応募いただいた「感想レポート」はこちらです。
・体験から得るもの(大明神/品質管理/29歳/男性)
・日本初の西洋人芸者が見た花柳界(COOL/会社員)
・伝統を守る上でたいせつなもの(申年男/会社員/50代/男性)
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/5月20日-紗幸/

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