KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2017年01月17日

王道ではないけれどこれも日本の魅力!

山内 久未

前回ご紹介した浅草寺をはじめ、築地市場、秋葉原・・・人気の定番スポットは東京をはじめ全国にいくつもありますが、何を面白いと思うかは人それぞれ。特に外国人旅行者の方々は日本人とは見ているポイントがだいぶ違うように感じます。
今回は、「え?ここ?」と私が驚いてしまったエピソードをご紹介したいと思います。

Coolな秘密基地つき!?日本のマンション

まだ福岡でガイドをしていたころのお話です。オーストラリア人ご夫妻と一緒に博多駅周辺の御供所(ごくしょ)と呼ばれるエリアのウォーキングツアーにご一緒しました。
放生会で有名な筥崎宮へのお供え物を調達する地域だったことが地名の由来で、弘法大師が開いたと言われる「東長寺」、栄西禅師が開いた日本最初の禅寺「聖福寺」、博多山笠で有名な「櫛田神社」など、空襲を逃れた由緒ある有名寺院がずらりと並んでいます。博多駅から歩いてすぐとは思えないその佇まいからは、福岡がかつてアジア諸国と日本を繋ぐ外交の玄関口だった歴史が感じられ、私のお気に入りのエリアの一つです。

この日はプライベートツアーなので、のんびり歩きながらのご案内。お二人はそれぞれの寺社の見どころを熱心に聞いてくださり、どうやら無事にツアーを終えられそうでよかった、と胸をなでおろしたツアー終盤、あとは博多駅に向かうだけというところでご主人の足がピタッと止まりました。その目はある一点をじっと見つめたまま、動こうとしません。感嘆の声で、ご主人がつぶやきました。

「Kimmy…!あの最高にCoolでかっこいいビルディングはなんだい?!」

今日一日見て回ったどんな寺社仏閣よりも大興奮している様子です。
ん?と見上げると、目の前にはごくごく普通のマンションしかありません。このcondoがどうしたの?(英語ではマンション=豪邸、という意味なので、一般的な日本のマンションはcondominium といいます)

「あれだよ!あれ!あ!動いた!すごいなー!まるでSF映画の基地じゃないか!」

それはマンションに併設されている機械式の立体駐車場。スイッチ一つで車が上下に動いて出入庫する姿に大興奮したご主人は、その後も
Wow!
Fantastic!
Amazing!

と叫びながら、少し引いている奥様と私を尻目に、少年のように目をきらきら輝かせて写真を撮りまくります。
考えてみればオーストラリアのように広大な土地がある国では平面式が当たり前ですものね。日本に暮らす私たちにはなんてことのない光景ですが、きっとご主人の頭の中では、スターウォーズかサンダーバードのテーマ曲が流れていたに違いありません。

シローさんが日本で必ずすること

マレーシアからいらした伊東四朗さん似のビジネスマン(以下、シローさん)。お一人で来日され、出張の合間にツアーへ申し込まれました。
その日は紅葉シーズンまっただ中。福岡県郊外にある、雷山千如寺大悲王院という県内有数の名所で色鮮やかなカエデの紅葉を楽しみました。その後は牡蠣小屋での海鮮バーベキュー、有名ラーメン店の工場見学など、予定していた観光をすべて終え、残り2時間は大型ショッピングモールでフリータイムです。男性お一人だし、ショッピングをお手伝いしようかしら?と思い、どこか行きたいところはありますか?とお聞きしたところ、予想外の答えが返ってきました。

“I want to get a haircut.”

え?ええ??散髪???

“Yes. Beauty hair salon!

びゅ、びゅーてぃーへあさろん…
(大変失礼ながら)シローさんの外見からはおよそ想像もつかない単語が飛び出したことに、完全に思考停止してしまった私。

聞けばシローさん、お仕事で月に1度は来日していて、あるとき立ち寄った日本の美容院の技術の高さに大変感心し、それ以降来日の度に髪を切るのを定番にしているのだとか。

あわててスマホで美容院を探して予約をとり、一緒にサロンへ向かいます。担当の美容師さんは英語が話せず、突然現れた外国人のおじさまを前に困惑。しかたがないので、ここはにわか通訳です。サイドのくせっ毛をどうにかしたい、トップにボリュームが欲しい、前髪のこのへんにポイントカラーをアッシュグレイで入れたいなど、観光ガイドではまず使わない英語に悪戦苦闘しながらもなんとかカット終了。こざっぱりとしたシローさん、「これで娘にダサいと言われなくて済むよ~」と嬉しそうに帰っていかれました。

そういえばランチのとき、ビールを飲みながら「最近思春期に入った娘が難しい年頃でねぇ・・・」とこぼしていらしたシローさん。思えば私の父も、会話があまりなかった頃は海外の出張先から絵はがきを送ってくれていました。あの絵はがきたちが、今こうしてガイドとして世界中の人と触れあいたいと思ったきっかけかもしれません。髪を切った自撮り写真を娘さんへ照れくさそうにMessengerで報告するシローさんが、なんだか自分の父をはじめとした「ニッポンのお父さん」たちと重なり、微笑ましく思えたのでした。

シローさん、次回はぜひ娘さんと一緒にプライベートで日本を旅行できますように!

山内 久未(やまうち・くみ)
慶應丸の内シティキャンパスで2年間ラーニングファシリテーターとして多くのプログラムを担当。退職後、約2年間の勉強生活を経て2015年春より通訳案内士(通称:通訳ガイド)として日々奮闘中。
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