KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2017年10月10日

なぜ日本を選んだの?

山内 久未

暑い夏も終わり、秋。涼しい風と穏やかな日差しを楽しめる今は外国人観光客にとっても最適な季節です。通訳ガイドとして日々お客様と接する中で、実はずっと気になっていることがありました。それは、旅行中ではなく、日本に来る“前”の事。お客様はどうして私をガイドとして選んでくださったのか、そもそも何を期待して日本に来ることを選んだのか。

今回はそんな、私たちが知らない“YOUが日本に来る前のお話”についてご紹介したいと思います。

世界最大の旅行サイトでわかった、トホホな日本の現状

私がお会いしたお客様(特に欧米)のほとんどが必ずと言っていいほど見ている、世界最大の旅行サイト TripAdvisor。世界49の国と地域で書き込まれる口コミ総数は5億3500万件を超えるというから驚きです。

TripAdvisorは毎年「トラベラーズチョイス™ 世界の人気観光地ランキング 2017」なるものを発表しています。サイトに投稿された旅行者からの口コミ評価や予約関心度をもとに、旅行者が高く評価した観光都市・島のランキングです。日本中の至るところでこれだけ多くの外国人観光客を目にする上に、東京オリンピックまであと3年を切った今、日本の都市はさぞかし上位に入っているだろう…と期待して見てみると、何とも残念な結果が分かりました。

TripAdvisor2017年3月21日プレスリリース資料より抜粋

がーん。これだけ観光立国が叫ばれている昨今にもかかわらず、なんと東京、京都も上位25都市圏外。アジア地域のみに絞ったランキングでさえ東京が10位、京都が20位と、東南アジアの都市を追いかける位置にいることがわかります。

「いやいや待てよ。これは地理的に遠い欧米人に限った話であって、お隣の中国からはどどどーっと爆買い目当てのお客様が来ているじゃないか」と思いたくなるのですが、以前、中国の旅行市場に詳しい方にお聞きしたところ、中国人の間で最も人気がある観光地は、今や日本ではなくバンコクなのだそうです。都市部に住む裕福な層の爆買い熱が一巡し、モノ消費からコト消費へと需要が移っている今。物価が安く、食べ物が美味しく、人が親切で、ビーチリゾートから歴史ある仏教文化、ナイトライフまで盛りだくさんに楽しめるタイが大人気なのだとか。日本の最大のウリである?春の桜も、最近では台湾や韓国にも美しい名所がいくつもあり、国全体でインバウンド誘致に力を入れていて、日本の強大なライバルになっているそうです。

日本を選んだ、シンプルな理由

このようにしてみると、お客様にとって日本は数多ある旅行先の内の1つでしかないことを実感します。確かに、お客様に「どうして今回のバカンスに日本を選んだのですか?」と聞くと圧倒的に多いのは「なんとなく」という答え。アジアで他の国には行ったけど日本はまだだったから、出張で来日したことがあるので今回は家族と観光で、などという声が多く、TV番組でよく目にするような「日本に昔から憧れていて、日本に来るのが夢だった!」という外国人は、実は少数派なのかもしれません。

通訳ガイドとして来日されたお客様に日本の良さを伝えたいと常々思っていますが、その前の段階の、「日本を選んでもらうため」に何かできることがあるのではないかと、そんなことを考えずにはいられません。

なぜ私がガイドに選ばれたのか?

何か新しい仕事を任されたとき、「なぜ私が?」と疑問を抱いたことはありませんか?
自分は人からどのように見られ、どんな成果を期待されているのか。知りたいと思いつつも、日々の業務の中でストレートにそれを聞く機会というのは意外とないものです。ましてや今の私は会社員時代と違って、人事評価もなければ上司との面談もありません。
そこで今回、直接お客様とやりとりができるマッチングサイトだからこそ、これまでお客様に聞いてみたかった質問を思いきってぶつけてみました。

「たくさんいるガイドの中から、なぜ私を選ばれたのですか?」

気がつかなかった意外な「ウリ」

お恥ずかしい話ですが、これまで「通訳ガイドとしての、自分のウリ=強み」というものをなかなか見つけられずにいました。英語が上手なわけでもなく、歴史に詳しいわけでもなく、茶道や華道もできないし、着物は旅館の浴衣ですら上手く着ることができません(書いていてだんだん悲しくなってきました…)。強いて言うなら、元添乗員だったことぐらいですが、仕事をいただく旅行会社向けのアピールにはなっても、直接ご案内するお客様にはあまり関係のないことです。

そんな思いをぐるぐる巡らせている私に、お客様から返ってきた答えは予想外のものでした。

「そうねえ。女性だし、若いし、子どもの面倒をよく見てくれそうだったから。」とCarolynさん。

小さい子ども連れの旅行だから、女性で体力のありそうな人がいいかなと思って」とGabrielさん。

それはつまり…ガイドというよりベビーシッター役ってこと?!

ガイドとしての力量や知識ばかりに目が向いていた私は、それを聞いて目がテンになりました。と、同時に、これまでの3組を振り返ってとても納得したのです。

3組の共通点は確かに「子ども連れの家族旅行」でした。今回はたまたま「子どもの世話」というポイントでガイドを探し、私を選んでくださった皆様。きっと他の場面では違う選択をするでしょう。歴史をじっくり学びたい時は博識そうなベテランガイドを選ぶでしょうし、夜の新宿を歩いてみたければ、頼りになりそうな男性ガイドを選ぶかもしれません。

意外な自分のウリを知って嬉しくなったと同時に、「自分が今回の旅行で必要としているサービスはなんなのか」をしっかりと把握し、それに即した選択をする、3組のお客様のサービスの受け手としての成熟度合いに感服しました。

やっぱり大切な「クチコミ」

もうひとつ、嬉しい驚きがありました。
「実はガイドは数年やっているんだけど、このサイトを使うのはこの春が初めてで…」と話すと、何組かのお客様が「じゃあレビュー(口コミ)を書いてあげるよ!」とおっしゃってくださったのです。「こういうのは最初が肝心だからね。いいレビューがついて、もっとKimmyのご指名が増えたら嬉しいな!」と温かいお言葉をくださり、SNSへの写真の掲載も快くOKしてくださいました。

TripAdvisorのようなサイトによって、簡単にクチコミ情報が手に入るようになった現代。日本全体も、一個人のガイドとしても、もっともっと努力をしていかなくてはいけません。数ある旅行先の中から日本を、大勢のガイドの中から自分を選んでもらうには、どんな情報をどんな風に発信していくべきか。そして、旅行を存分に楽しんでもらい、「また日本に来てKimmyに会いたい」と思っていただけるにはどうすればよいか。

壮大なチャレンジではありますが、まずは一人一人のお客様に対してこれまで以上に全力を尽くしていこう、そんな決意を新たにしたのでした。

山内 久未(やまうち・くみ)
慶應丸の内シティキャンパスで2年間ラーニングファシリテーターとして多くのプログラムを担当。退職後、約2年間の勉強生活を経て2015年春より通訳案内士(通称:通訳ガイド)として日々奮闘中。
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