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異文化コミュニケーションの「軸」

2018年09月11日

山内 久未

東京オリンピック・パラリンピックまでとうとうあと2年になりました。
普段使っている駅や空港で。試合を観に行った観戦席で。あるいは行きつけのカフェやレストランで。多くの日本人にとって、これまで以上に外国人の方と触れ合う機会が増えるのは確実でしょう。

中には「ちょっと道を聞かれただけでもドギマギしてしまう~!」という人もいるかもしれませんが、たとえどれだけカタコトやジェスチャーだらけの英語だとしても、ちゃんと相手の行きたい場所を示してあげることができ、にっこり笑って “Thank you!” と言ってもらえたら、その瞬間って、やっぱり嬉しくありませんか?

ついでに “Have a nice day!” なんてこちらも去り際ににっこり笑顔で返してあげられたら、なんだか自分も小さな国際交流ができた達成感でちょっぴり幸せな気分。声をかけた方も、かけられた方も、どちらもほっこり幸せになる場面がオリンピックをきっかけにたくさん生まれるといいな、と最近つくづく感じます。

必要なのは英語力・・・ではない!

せっかくですから、道案内だけでなく、日本のことをより深く知ってもらいたいですよね。そのために必要なのは、TOEICのスコアでも英検の級でもありません。

たとえばもし、いつかどこかの場面で知り合った外国人にこんなことを聞かれたら、皆さまはなんて答えますか?

「お寺と神社って何が違うの?結局のところ“日本の宗教“って仏教と神道、どっちなの?」

「座禅って最近アメリカの西海岸でも流行ってるけどヨガの瞑想と何が違うの?」

「なんで茶道ってあんな狭い部屋でみんな静かに黙々とやるの?足は痺れるし・・・」

通訳ガイドとしてお客様と接していると、上のような質問に対して、外国人の皆さまは日本人全員が当たり前のように答えられると思っていることに気づかされます。ところが、日本人として大変恥ずかしいのですが、私自身はガイドを始めるまで、これらのことを考えてみたこともありませんでした。慌てて「日本の宗教」「座禅」「茶道」それぞれをいくらネットや本で調べても、上の質問に対するそのものズバリな答えは載っていません。

実は、ガイドにとって一番必要だと私が思うのは、語学力以上に、こういったお客様がふと感じる素朴な疑問に対して、日本文化を立体的に語れる力ではないかと思うのです。ガイドという仕事に限らず、これからますますグローバル化が進む社会において、多くの日本人に足りないのは英語力ではなく、自国の文化を自分の言葉で語れる力だと、個人的には思いますし、もちろん私自身、どちらもまだまだ絶賛修行中です。

“Kimmy、君はどう思う?”

さらに、外国人との会話はほとんどの場合、ただのQ&Aだけでは終わりません。
例えば先日。お寿司屋さんでスイス人のお客様のガイドをしながら、突然こんなことを聞かれました。

「Kimmy、日本人ってinnovationが苦手?得意?君はどっちだと思う?」

(私の心の声:「へ?お寿司を食べながら、いきなりイノベーションの話題???」)

「う、うーん。残念だけど苦手なんじゃないかしら。」

「でも日本のSONYはinnovativeな会社だと思うよ。違う?」

「確かにWalkmanはinnovativeな商品でしたよね。でもやっぱり、特に最近の日本人はimprovement(改善)は得意だけどinnovationは苦手だと思いますよ。」

「なるほど。確かにTOYOTAのKAIZENはすごいよね。じゃあ日本からはもう昔のSONYみたいな企業は出てこないのかなぁ?でもDr.Yamanakaみたいに学術分野でInnovationを起こしている日本人もいるよね。なぜ企業にはそれができないんだろう?Kimmy、君はどう思う?」

ガイドになり、多くの外国人と接するようになって一番びっくりしたのは、このように「Kimmy、君はどう思う?」を必ずと言ってよいほど聞かれること。

「Kimmyはブッダと神道の神様と、どちらを信じているの?

「トランプ大統領の、この間のイランに対するコメントについて、日本人はどう感じてるの?Kimmy、君はどう?

「最近は外国人のSumoレスラーも増えてきているらしいけど、それについて日本人であるKimmyはどう感じてるんだい?

「この間、個人のDNAを解析するサービスに申し込んで唾液を送ってみたんだよ。とても興味深い結果だったんだ。ねぇKimmy、君は自分のDNA解析をしてみたいと思う?

これらはすべて、ガイド中に私が実際に聞かれた質問です。
お寿司を食べながらだったり、浅草を散策しながらだったり・・・そんな時に飛んでくる、素朴な疑問の矢の数々。ビジネス、時世、文化、スポーツ、科学・・・それらは自分がいつも関心を寄せている得意分野とは限らず、いつどこから飛んでくるかわかりません。

外国人の皆さんはもちろん、意地悪でこのような質問をしてくるわけではありません。こういった会話を通じて互いの意見を交わし、考えを伝え合うことで、より相手の国のことを良く知ろうする、彼らにとっての異文化である日本を理解するための、大切なコミュニケーションなのです。

多くのビジネスパーソンにとって、リベラルアーツの重要性が見直されつつある昨今。どんな矢が飛んできても、「私は〇〇だと思います。ではあなたは?」と、むしろこちらもその会話を楽しむことができるよう、そのための軸をしっかり持つことが大切だと実感します。
 

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2016年から2年以上にわたってお付き合いいただきました「Kimmyの通訳ガイド日記」、今回が最終回になります。というのも、実はKimmy、今秋に第一子を出産予定のため現在ガイドを産休中なのです。(いま、大きくなったお腹を抱えながらこの原稿を書いております)

こどもの面倒を見ながらどうやってガイドに復帰するのか?おしんみたいにおんぶしながらガイド?それともベビーカーで子連れ狼スタイル?
しばらく現場を離れて、語学力やガイド知識を維持することができるのか?というか、そもそも産休も育休も期間のないフリーランスガイド、どうやって仕事復帰するの??

悩みと不安を挙げればキリがありませんが、出産も子育ても、人生の中ではきっと貴重な経験。次の「Kimmy、君はどう思う?」に必ず役立つだろう!と信じて、たくさんのことを赤ちゃんと一緒に経験しながら、いつかママさんガイドとして復帰する日まで、日々を楽しんでいけたらと思っています。

これまでの2年間、拙い日記をお読みいただき有難うございました。思わぬところで「読んでるよ」と声をかけていただいたり、自分で読み返してみて「あーこのお客様、今頃どうしてるかな」とふと懐かしくなったり。私にとっても大切な場所でした。

きっと東京オリンピックの頃には、私も復帰してお客様をお連れしてガイドをしている・・・はずです。この日本のどこかで、汗をかきかきお客様をご案内している通訳ガイドを見かけたら「あ、もしかしてKimmyかな?」と思い出してくださる方がいれば、こんなに嬉しいことはありません。

See you again somewhere in Japan!
ありがとうございました!

山内 久未(やまうち・くみ)
慶應丸の内シティキャンパスで2年間ラーニングファシリテーターとして多くのプログラムを担当。退職後、約2年間の勉強生活を経て2015年春より通訳案内士(通称:通訳ガイド)として日々奮闘中。

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