KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2007年01月30日

“考え抜く”習慣をつけよう(1)

「ロジカル・シンキングを実践するために最も重要なことは?」
と問われれば、私はこう即答します。
「思考停止に陥らず、いい意味であきらめ悪く“考え抜く”習慣をつけることです」
そのためには、メディアや他者の言うことを鵜呑みにせず、自分の頭で考え、納得できなければ何度でも問いかけることが重要です。そして自分に対しても(他者に対して以上に)、しつこく何度でも問い続けなければなりません。
そう、“考え抜く”とは、実は“問い続ける”ことなのです。
では、何を“問い続ける”のか?
私は、以下の『4つの疑問符』を問うことをお勧めしたいと思います。
(1) Why?(なぜ?)
(2) True?(ホント?)
(3) So What?(それで?)
(4) Another?(他には?)
今回から4回に渡って、これら『4つの疑問符』を問う意味とそのポイントについて、お話しさせていただきます。
まずは「Why?」から始めましょう。


(1) Why?(なぜ?)
これについては、前回(1/22)のエントリーでも意味とポイントを解説しましたので、ここでは事例をひとつご紹介しましょう。
トヨタ自動車の“カイゼン”を語る際に、欠かせないキーワードとして「なぜを5回繰り返せ」があるのをご存じの方も多いでしょう。
Why①「なぜここの原価が低減できてないの?」
   →「この部品の仕入れ値が下がらないからです」
Why②「ではなぜその部品の仕入れ値が下がらないの?」
   →「部品メーカーとしては、これ以上下げられないらしいです」
Why③「なぜ部品メーカーは下げられないと言っているの?」
   →「どうも歩留まりがなかなか改善しないみたいで」
Why④「なぜ歩留まりが改善できないんだと思う?」
   →「一度先方の工場に行ったんですが・・・製造工程より開発工程に問題があるのかも・・・」
Why⑤「なぜ開発工程に問題があると思ったの?」
   →「試作から検査までひとり何役もこなしてるって話でしたし、PCもCAD専用のようで」
いかがでしょうか。この例は確かにできすぎかもしれませんが、ここまで原因を突き詰めて考え(考えさせ)れば、真因(問題の真の原因)に迫ることができるのを、少しは実感いただけたと思います。
この例でも②あたりで問うのをやめれば、「そうか、じゃあ別のもっと安いメーカーを探せ」となってしまうかもしれませんが、そうした対症療法は何度も通用するとは限りません。しかし⑤まで問うことにより、「そうか、じゃあ一度ウチで使ってるシミュレーションソフトを紹介してみたらどうだ?」という“WIN-WINの解決策”を提示できるかもしれないのです。
また、トヨタ生産方式に詳しい方のお話しによれば、「『なぜ?』を2~3回訊くのは誰でもやる(筆者註:それすらできていない人が多いです)が、それではわかりきっていることや、経験からすぐ言えるような答しか返ってこない。4回以上訊くと、答をすぐ思いつかなくなるから、人は必死に考えるようになる」そうです。
私はこれこそが、思いつきや経験則に安易に飛びつくという“表面的な思考”から、目に見えていない部分をあきらめずに探求する“本質的な思考”に転換させるための示唆だと考えます。
子供の頃は誰しも「なんでなんで?」と、大人達に始終問いかけていたはずです。
新入社員の頃も、「なんでこんなことやるんだろう?」と議論に思ったことが多かったはずです。
ところが大人達や上司から、「そういうものなの!」とか「いいからやれ!」とか、酷いときには「しつこい!うるさい!」と言われるため、「考えなくて(考えない方が)いいんだな」となり、結果的に思考停止に陥る癖がついてしまうのです。
この思考停止の癖は間違いなく“悪い習慣”です。
多少ウザいと思われようが、納得できなければ「Why?」を問いましょう。
組織での立場や体面が気になるのであれば、少なくとも自分自身には「Why?」を問いましょう。それも5回くらいを意識してみましょう。
思考を止めない。この“良い習慣”を、「Why?」を問うことから始めてみてはいかがでしょうか。

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