KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2009年08月28日

変えたいのなら変わりましょう

 「朱を動かすには赤くなれ!」
リーダーたるもの、朱を動かすためならば、青の美しさを懇々と説くよりも、いったん、赤くなってしまおう。変革は、その方が早道だ。
  田嶋 雅美(たじま・まさみ) 経営コンサルタント。
  (日経BPOnlineより)

この名言の出所である「朱に交われば赤くなる」とは、「交流する相手によって人は善人にも悪人にもなる」という意味の諺で、元は中国の故事成語「近朱者赤、近墨者黒(朱に近づけば赤くなり、墨に近づけば黒くなる)」から来ていますが、今ではどちらかというと「悪い友達とは付き合うなよ」のようなネガティブな意味で使われることが多いようです。
私が研修やセミナーで「思考とコミュニケーションの悪い癖は組織の悪しき習慣に染まるからだ」と伝える時も、この言葉をたまに使います。
このブログでも『思考停止を生む環境とは』というタイトルでお話ししましたね。
さて、この田嶋さんの言葉で重要なのは、「赤くなる」ではなく「赤くなれ」という部分。
つまり「いつの間にか染まってしまう」のではなく、「意識的に色を変えろ」と言っているわけですね。

確かにどんなに正論を述べていても、またそれを理路整然と伝えていても、それで人が動くとは限りません。
「頭では分かっても心では納得していない」からです。
あなたも誰かから説教された時に、「おっしゃる通りなんだけど従いたくない」と感じたことはあるはずです。
ところが我々は逆(従わせようとする方)の立場になると、そんな自分の経験を忘れて「こいつ理解力ないなあ。なんべん同じ事言わせるんだ」と思ってしまいます。
また、その際に時と場所をわきまえず、いつもの調子で上から目線や専門用語乱発などもやってしまうことも多いのです。
かく言う私もそのひとり。
前職で部下や後輩を指導する際、そして上司や顧客(!)にもの申す際に、「お前(or あなた,御社)のために言ってやってるんだから」という姿勢だったことが何度あったことか。
余談ですが講師を始めてからはそんな経験は無いのです。
少しは成長したのか、それとも職業柄無意識的に気をつけているのか・・・なぜでしょう?(笑)
自分が成果を上げていると、結果だけでなく成果を上げたプロセスにも我々は自信を持ちます。
そうして『自分なりのスタイル』を確立することは素晴らしいと思いますが、そのスタイルを押し通すことが正しいとは限りません。
確かに「これが自分のスタイルだから」と貫き通すのは一見カッコイイです。
しかしそんなものは自分のプライドを満足させるだけで、結果が伴わなければなんの意味もないのです。
ましてそのスタイルが目的達成の障害になっているのなら、それは害悪ですらあります。
ああ、昔の自分に言いたいです。「何様だお前」と。
いや、忠告してくれた方はいるのです。事業部長からも「お前の言ってることはわかる。ただな、もう少し上司を上司として扱え」と言われました。
ところがその時の私は、「なんか事業部長に褒められた」と思っていたのです。
なんと鈍感だったのでしょう。
だから田嶋さんの、「本当は青がいいと思っていても、押しつけては相手は青くなってくれないよ」は、かなり私に刺さりました。
よくよく考えてみれば(あまり考えなくても)、コミュニケーションのテクニックとしてのミラーリングやペーシングとは、「話すスタイルを相手に合わせる」ことであり、これも「意識的に赤くなる」ことです。
効率を考えれば、自分のスタイルである早口での会話が良い(つまりこれが『青』)と思っていても、あえて相手のスタイルであるゆっくりとしたリズム(これが『赤』)で話した方が、説得がうまくいったり、多くの情報を相手から引き出せたりします。
皆さんも小さな子供と話す時、はかがんで「~でしゅか?」のような子供言葉で話したことがあるはずですが、これもミラーリングやペーシングの一種なのです。
そしてこの「意識的に赤になる」とは、コミュニケーション・テクニックだけの話ではありません。
リーダーとしては働き方や態度など、「行動で語る・背中で語る」ことも重要ですが、そういう部分も「意識的に周囲に合わせる」ことで、共感を得て結果「青の方が本当は良いことを理解してもらう」ことに繋がります。
周りが作業服ばかりのところにアルマーニのスーツで乗り込んでもダメ。
調和を重んじる組織で、一人で毎度毎度他人にかみついていては、たとえそれが正論だとしてもやっぱり人はついてこないものです。
だから最初は少し我慢してでも「周りに合わせる」ことで共感を得、そして少しずつシンパを増やして改革の土壌作りをした方が、結果的には早道という場合も多いのです。
これ、以前このブログでも話した『“Tempered Radical”を創りたい』にも繋がることです。
自分の組織、また仕事のパートナーである外部の組織に完全に満足している、ということはあり得ません。
もし満足している人がいたとしたら、その人はたぶん何の向上心もない人でしょう。
もちろん「しょうがない」と諦めることも選択肢の一つですが、少なくともこんなブログを読んでいただいている皆さんは、間違いなく『改革派』でしょう。
そして「変えようとしているけどなかなか変わらない」というジレンマをお持ちの方も多いでしょう。
そんな時、この「朱を動かすには赤くなれ!」を思い出してください。

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