ファカルティズ・コラム
2009年09月05日
“番宣番組”について考える
メディア論においてしばしば見かけるキーワードに、『コンテンツの広告化』があります。
「本来は人を笑わせたり感動させるという目的を持ったコンテンツのはずなのに、目的が広告になってしまっている」状態のことです。
本日はその具体例について考えてみましょう。
最近、土日の昼間の番組を中心に“番組宣伝のための番組(番宣番組)”が多いと思いませんか?
「今夜ついに○×△!」
といった感じで、出演者やワンシーンをチラチラ見せつつ、その夜の番組がいかに見逃せないかを延々1時間に渡って宣伝する番組が。
ご丁寧にCMタイムまで商品広告よりも番組広告が多かったりします。
これ、典型的な「コンテンツの広告化」ですね。
では、なぜこのような番組が増えたかと言えば、最も大きな理由はTV局の『スポンサー収入の激減』でしょう。
未曾有の不況の中、企業がコストである広告宣伝費のカットに走るのは仕方のないことです。
従来はTV局が自主規制していたパチンコ業界のCMが増えたのも、「背に腹は代えられない」ということですし、『ひな壇芸人』方式のバラエティ番組が増えたのも、低コストで番組を成立させるためにやむなくやっているのです。
しかしそれだけでも足りない。
メーカーであれば工場の操業停止などで、小売りであれば店舗の閉鎖で、コストを減らすことはできます。
ところがTV局は・・・昼間に電波を止めるわけにはいきません。
極端な言い方をすると、「何でもいいから番組を流す」必要があるわけです。
低コストな番組といえば過去のドラマなどの再放送も考えられるわけですが、これは平日の夕方で既にやっていますし、土日の昼間はスポーツ中継なども入りますから、やはりドラマのような帯番組は向かないのです。
そこで出来たのが、この“番宣番組”なのですね。
またこの手法では、宣伝してもらう方の番組のスポンサーにこっちでもスポンサーになってもらう、ことも可能ですから、ある意味良くできたシステムとも言えるでしょう。
さて、私はこのTV局のやり方を批判しているのではありません。
こうした工夫を我々は参考にすべきだと思うのです。
そしてもちろん私は“番宣番組”そのものを参考にしようと言っているのではありません。
「昼間に電波を止められない」という制約(縛り)があったからこそ、そこから“番宣番組”という工夫が生まれたのであれば、
『あえて縛り・禁じ手を設定し、自分を追い込んで解決策を考える』
ことをやってみても良いと思うのです。
「こういう時はこうするもの」という経験則があっても、あえてそれを禁じ手として封印する。
そうすることで、必然的に安直な考えはできなくなります。
たとえば来年度の営業施策を考える会議で、「とにかく今までやったことのある施策は全てNG」という縛りで議論させるのも良いでしょう。
そうして考えさせた上で、過去の施策も合わせて実効性と実現性のマトリクスで選択すればよいのです。
結局は昨年と同じ施策に決まったとしても、この時出た新たなアイデアは将来活かせるかもしれませんし、何より参加者全員が「ちゃんと考えて議論した」経験が必ず生きてきます。
ところで、コンテンツの広告化には他にも様々なパターンが存在します。
昔からあるのは、「ある役者を売り出すために作られるドラマや映画」でしょう。
また、土日の朝の『特撮ヒーロー番組』も典型的なコンテンツの広告化です。
「戦隊→仮面ライダー→プリキュア」という3つの番組は、実のところ「1時間半に渡るバンダイの広告」ですから。
そもそも・・・
いや、これを語りはじめたら止まらなくなりそうです。
ということでこの『特撮ヒーロー番組』については、いずれマーケティングの観点から語ってみたいと思いますのでお楽しみに(笑)
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劉 慶紅
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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