ファカルティズ・コラム
2009年11月25日
政策の論理性をチェックする
ちょっと前(11/9付)のニュースです。
菅直人副総理兼国家戦略担当相は8日、東京都内で記者団に対し、中長期の経済成長戦略を年内にも策定する意向を表明した。「雇用、環境、子ども、景気の『4K』を柱にした成長戦略を考えたい」と語った。11月中に閣僚委員会を開いて副大臣クラスによる検討チームを設置し、本格的な作業に入る方針。
【毎日新聞ニュースサイト】
さて、みなさんこれを読んでどう考えましたか?
政府の方針として、「中長期的な経済成長戦略を、景気・雇用・子供・環境の4つに分けて考える」と言っているわけですが、ここで「ふーん、そうなんだ」や「おお、その通りだ。頑張ってくれ」では思考停止ですね(笑)
このブログを読んでいただいている方なら、「ん? ちょっとオカシイんじゃないの?」と、その論理的整合性に疑問を持たれたはずです。
では、まずは「この4つでMECE(モレやダブリはない)か?」と考えてみましょうか。
ここで「雇用は景気に左右されるはずだから、ダブリがあるのでは?」と気づかれた方もいるでしょう。
また、「環境分野の重要性は理解できるけど、医療分野がモレているのが気になる」と考える方もいるかもしれません。
次にイシューが『中長期的な経済成長戦略』であることに着目すれば、「景気や雇用って、中長期的というより短期的に今すぐなんとかすべきテーマでは?」という名辞矛盾を指摘することもできるでしょう。
さらにそこから「そもそもこの4項目の抽象度が揃っていないから違和感がある」とか、「雇用は『増やす』ことを考えるのだろうけど、子供は? 『増やす』なら経済政策とは別次元だろうし・・・」と、言葉の定義や表現の具体性(私のよく言う「主語・述語・目的語の明確化」)に問題があることにも気づくはずです。
こう考えていくと、「4Kという耳障りの良い表現で、わかりやすくした「つもり」のアドバルーンなんじゃないの?」という穿った見方すらしたくなります。
さて、いかがでしょうか。
他にもツッコミどころはあるでしょうが、こうしてニュースの“論理性”をチェックするだけで、政策の検討プロセスやその伝え方の問題点など、様々なことに気づくはずです。
今回はタマタマその題材が民主党の政策だったわけですが、これに限らず常にこうした姿勢で情報に接していれば、その情報に振り回されずに自分の頭で冷静に考えられるようになります。
人の話を鵜呑みにすることも、騙されることも回避できるでしょう。
これを意識する、つまり普段からこの情報の見方をトレーニングしておけば、適切な答を適切に出し、自分の意見をきちんと言葉にすることができるようになります。
国の政策だけでなく、ピジネスにおける顧客や上司、関係各部門の主張を、その論理的整合性に注意しながら聞いてみましょう。
ポイントは今回のように「MECEか?」「イシューに沿っているか?」「言葉の定義や主語・述語・目的語は明確か?」の3つです。
論理思考のトレーニングは、別に日々ロジックツリーを作ることでしかできないわけではありません。こうした「いつでもちょっとした心がけでできることを実際にやってみる」ことの地道な積み重ねが重要です。
そんなにハードルの高いトレーニンクではないはずですので、ぜひやってみてください。
ところで、このようにして政策の基本方針が決まったら、次のステップはどうなるかご存じですか?
自民党政権においては、多くの案件はこの後各省庁、つまり官僚が各項目別に検討し、まとめていました。
たぶん民主党でもここのプロセスは大きく違わないと思いますが、私はこのシステムそのものは問題視していません。素人の政治家が考えるより、その道のプロである官僚に任せた方が良い場面も多いはずですから。
ただこのシステム、今回のケースで言えば「4Kがそれぞれ別々の部署で検討される」ことになります。その道の専門家毎に局や部課が分かれているわけですから当然ですね。
そう、だからこそ政策の重点項目がMECEになっていないと、同じ内容を複数の部署が検討するというムダが生まれ、なおかつ全く異なる、場合によっては相反する具体的施策が出てきたときに再度調整するというさらなるムダを生んでしまうのです。
ここでは言えませんが、以前ある中央官庁の方とある政策について議論していたところ、その事実を認めていました。曰く、「縦割り組織の致命的問題点」とのこと。
民主党は『政治主導』をうたっていますので、こうした以前のシステムの問題を解決することも考えているのかもしれませんが、それにしてもやはり政策の論理性くらいはちゃんとチェックしてから発表してほしいものです。
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