ファカルティズ・コラム
2009年12月06日
「見えなくなる化」が進行中?
「見える化」。
皆さんもよくご存じの言葉です。
トヨタ生産方式におけるカンバンやアンドンはその代表でしょうし、ファシリテーション・グラフィックによる議論の「見える化」も、最近ようやく広がってきました。
稟議システムなどの組織内ワークフローも、ITを活用した「見える化」がコンセプトですし、実に様々な分野で、この「見える化」が進展しています。
今や『業務の生産性向上の最重要キーワード』と言っても過言ではないでしょう。
しかし、業務の「見える化」の重要性が認知されていながら、その真逆の「見えなくなる化」が進行中、と言ったら皆さんはどう思われますか?
さて、我々の仕事で「見えなくなる化」が進んでいるものってなんでしょう?
以前は確かに見えていたはずなのに、いつの間にか見えなくなったものとは・・・
前述の「ITによる見える化」と矛盾するようですがが、『手作業』という形で見えていたのに、IT化によって逆に「見えなくなった」業務があるはずです。
特に普及の著しいクラウドコンピューティングでは、目の前(といってもコンピュータ室ですが)にあったサーバーやストレージすらもベンダーのデータセンターに吸収され、ハードウェア自体も「見えなくなる化」が進んでいます。
その結果何かトラブルが発生したとしても、全てはブラックボックス化していますから、ベンダーに全て任せるしかない。
杞憂かもしれませんが、トラブルの原因をユーザーに押しつけられないとも限りません。
IT投資のコスト削減はできても、自社の根幹に関わる業務をクラウドに依存すべきかどうかは、慎重に検討すべきでしょう。
しかし私がそれ以上に心配している「見えなくなる化」が2つあります。
それが“生々しさ”と“個性”です。
IT化、特に電子メールの普及に伴って、職場内での会話は相対的に減少しました。また、電話の呼び出し音も減っています。まあ、当然のことです。
しかしちょっと思い出してみてください。
メールが普及する以前は、受話器に向かってどなっている人や、逆に相手からは見えないのにペコペコ頭を下げながら謝っている人がいたはずです。
もちろん今でもゼロにはなっていませんが、そうした風景を以前より見なくなっていませんか?
こうした風景があるからこそ、上司や同僚が「どうしたんだ?」とか「まあまあ」とか、フォローしたりたしなめたりしていたのではないでしょうか。
ところがメールのやりとりが主流の現在、こうした「今本当にどのような状態なのか」という“生々しさ”が見えなくなっていると思うのです。
メールというツールが入ってきた「だけ」で、仕事のやり方も劇的に変わってしまいました。
当然マネジメントのやり方も違ってくるはずで、だからこそコーチングやファシリテーションのスキルは「今の時代のマネジャー」に必須だというのがおわかりいただけるでしょう。
“生々しさ”の「見えなくなる化」にどう対処するべきか、これはマネジャーだけでなく、全てのビジネスパーソンの課題でしょう。
そしてもうひとつ、「見えなくなる化」が進んでいるのが、“個性”です。
ERPやワークフロー、ナレッジマネジメントに代表される業務の標準化とIT化によって、仕事は確かに効率的になりました。無駄や人為的ミスは減り、業務の出来映えの個人差も小さくなりました。
しかしその副作用として、仕事が無機質化している側面も見逃してはいけません。
標準化とIT化で「誰でもできるようにする」ことは、「自分じゃなくてもできる」ことの裏返しであり、「自分ならではのやり方」や「自分らしい成果」がなくなることでもあります。
仕事の出来映えに大差がない。
そればかりか仕事の進め方も決まっており、その通りやるしかない。
こんな仕事、本当にやりたいですか?
誤解して頂きたくないのですが、私は「個性を消す仕事のさせ方はやめよう」と言いたいのではありません。
業務効率は重要です、それを無視して「自由にやらせろ」ではリスクが高すぎます。
私が言いたいのは、こうしたITも駆使して標準化した仕事をやらせる場合には、必ず『個性を発揮でき、かつ裁量権を最大限与えた仕事』も別に用意すべき、ということです。
私は『オシゴトとして割り切ってワーカーに徹する仕事』と、『やりがいが感じられ、プロセスも楽しいと感じられるような仕事』の2つがビジネスパーソンには必要だと考えています。
どちらか片方では、「つまらない」か「気が抜けず疲れる」だと思うのです。
実は、この「見えなくなる化」のエントリーは、Twitterでのある方のつぶやきにインスパイアされて考えたものです。
ね? Twitterって触発ツールとして「使える」でしょ?(笑)
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