KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2009年12月12日

「競争優位」とは?

「競争優位」とは、一般的に「或る業界において、他社が簡単に真似することができない、あるいは真似しようとしないような方法や戦略を実行する能力」と定義されています。
そしてこの競争優位の有る無しを測定するツールとして使われるのが、オハイオ州立大学のジェイ・B・バーニー教授が提唱した“VRIO”というフレームワーク。
ポーターの5フォーシズと同様に、組織のコアコンピタンスを分析する視点を提供するフレームワークと言って良いでしょう。
V=Value(価値)
→自社の経営資源は顧客や社会に価値を提供できているか?
R=Rareness(希少性)
→ありふれていない自社ならでは経営資源はあるか?
I=Inimitability(模倣困難性)
→自社の経営資源は他社が真似できないものか?
O=Organization(組織)
→今後もV,R,Iが実現できる組織になっているか?
(解説はわかりやすく言い換えてあります)

ある総合商社の事業戦略のワークショップにおいて、受講生達がこのVRIOを使って自社のコアコンピタンスを考えていたところ、「模倣困難性が見つからない」という声が多く聞かれました。
確かに「これって他社もマネしようと思えばできるんじゃないか?」と考え始めると、メーカーと違って技術を売り物にしにくい商社では、この模倣困難性の高い自社の経営資源を見つけることは至難の業かもしれません。
しかし簡単にマネされるようなコアコンピタンスでは、よしんば競争優位が築けたとしてもそれは一過性のものであり、持続的な競争優位とは言えません。
早稲田大学大学院商学研究科(ビジネススクール)の根来龍之教授も、「競争優位とはマーケットで1位であり、かつそれが持続的であること」と定義しています。
さらに言えば、競争優位の定義に「他社が簡単に真似することができない、あるいは真似しようとしないような」というセンテンスがあることからも、模倣困難性なくして競争優位を確立するのは難しいとも言えるでしょう。
そうすると「結局は案件に投資する資金力で全てが決まってしまうのか?」と、少し暗い気分にもなってしまいます。
ある受講生は、模倣困難性(Inimitability)という言葉から、「ウチにはアイ(愛)が足りない」と自虐的なまとめまでしていました(笑)
しかしこれは商社だけの話ではありません。
技術を売り物にできるメーカーにしても「技術は金で買うことができる」と考えてしまえば、「要はお金を持っている企業規模の大きい会社しか競争優位を確立できない」と結論づけることもできるでしょう。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
本当にお金さえあれば、つまり大企業ならなんでも模倣可能なのでしょうか?
実はそうではありません。


人材派遣大手のスタッフサービスは、『スピード』をコアコンピタンスに位置づけています。
以下、同社のWebサイトから引用します。
————————————-
派遣のニーズは非常に即日性が高く、「今すぐ人材が必要」というご要望が大半を占めるという当社の調査結果から、スタッフサービスでは2つのスピードサービスを実現。
営業担当者が25分以内に訪問し、ご要望をもらさずお伺いする『Arrival25』。
独自の人選システムを駆使することにより、業界最多の登録スタッフの中から2時間以内に最適な人材を選出する『2時間人選』。
「今すぐ人材を」という即日性の高い派遣ニーズに対応すべく、業界最速のスピードサービスをご提供しています。
————————————-
現在、同社への企業からのオーダーのなんと7割が「3日以内に派遣してほしい」というものだそうです。
そのために同社は首都圏を54のエリアに分け、それぞれに営業担当者を配置。加えて受付専門のテレフォンセンターや情報システムを駆使して、この『スピード』を実現させています。
また、中小企業でも部品レベルであれば模倣困難な技術をコアコンピタンスにできることは言うまでもありませんが、
それを自社のコアコンピタンスと認識し、今の市場のニーズに合った製品に応用できなければ、宝の持ち腐れ以外のなにものでもありません。
これらのことから見えてくるのが、「ウチは何がコアコンピタンスなのだろう?」と考えていてはダメということです。
「既にあるコアコンピタンスを探す」というより、「コアコンピタンスを作る」ことが、持続的競争優位を実現するキーワードなのです。
スタッフサービスにしても、「タマタマ他社よりもスピードが速かった」のではなく、それを支える仕組みも構築しながら、時間を掛けて『スピード』というコアコンピタンスを「作って」きたのです。


そしてコアコンピタンスを「作る」ために必要なのが、『選択』、つまり絞り込みです。
あれもこれもコアコンピタンスにしようと思っても、経営資源が限られている以上できるはずもありません。


「何を自社のコアコンピタンスにすべきか」を考え、選択する。
「そのコアコンピタンスを使ってどの市場で戦うべきか」を考え、選択する。
「コアコンピタンスを確立するたには何をどうすべきか」を考え。選択する。
この作業こそが、持続的競争優位を築くためには必須です。


ぜび、自社のコアコンピタンスについて考えてみてください。
また、「自分はそんな立場じゃないよ」という方は、“自分自身の”コアコンピタンスを考えてみてください。
いずれ考える立場になった時の練習にもなりますし、なにより自身のキャリアを考える際

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