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ファカルティズ・コラム

2010年02月03日

魅力的な会社について心理学的に考えてみる

「良い人材を集めるにはどうしたらよいのだろう?」
企業の採用担当者にとっては、永遠の悩みでしょう。
「やはり給与が」
「福利厚生も重要」
「いやいや企業ブランドの方が」
「やりたいことができるかどうか、だよ」・・・etc
どれも間違ってはいないでしょう。
そもそも学生にしろ転職希望者にしろ、企業のどこに魅力を感じるかは人それぞれ。
だからといって全てのニーズに対応することなど不可能ですから、やはりこの問いは終わることなく繰り返されるのでしょう。
しかし何にフォーカスすれば良いのか、ヒントだけでもほしい。これが採用担当者の本音だと思います。
そこで本日は、”企業の魅力”という言葉に着目し、『魅力』に関する心理学の理論であるニューカムの『ABXモデル』を使って考えてみたいと思います。

社会心理学者のT.M.ニューカムが提唱した『ABXモデル』では、対人関係において「相手に魅力を感じる」要因を、「AさんとBさんとの関係」だけでなく、「AさんとBさんの共通の対象X(その場で話題になっている人や物、事象)」も加味して考えます。
元々は対人コミュニケーションへの適用を目的に考えられたモデルではありますが、企業も“法人”と呼びますし、メディアの発達により「企業のコミュニケーション能力」の重要性は万人が認めるところですから、このモデルを企業に適用するのも間違ってはいないはずです。
では、まずは「AさんとBさんとの関係における魅力を感じる要因」ですが、ニューカムはこれを“賞賛”“尊敬”“返報性”の3つだと言います。
“賞賛”とは相手の特性に対して感じる魅力を意味し、具体的には「相手の容姿や性格」に対して、「ああ、素敵な人だ」と思う感情です。
「服装や仕草がカッコイイ」とか、「優しそうな人だなあ」などですね。
“尊敬”は相手が有する能力や立場に対して感じる魅力であり、自分に欠けた部分を補完してくれそうと感じることです。
「さすがプロ!」や「学ぶところが多い人だなあ」などがこれで、“賞賛”に比べるといくぶん打算的とも言えます(笑)。
もうひとつの“返報性”ですが、これは相手が自分に抱いている好意に対して感じる魅力です。
それが事実か勘違いかは別として、人というものは自分に好意を抱いている人に対して好意を抱きやすいものです。
「あのこ、お前のことが好きらしいぜ」と聞いて、今までなんとも思っていなかった女の子が、急に可愛く見えてきたという経験はありませんか?
では次に、「AさんとBさんの共通の対象Xを介して感じる魅力」について考えてみましょう。
ニューカムはここでは“行動の類似”と“意見の一致”を挙げています。
“行動の類似”とは、「Xという共通の経験がある」ことを意味します。
具体例を挙げると、「出身が同じ」「同じ遊びに昔ハマっていた」「よく忘れ物をする」といった共通点が両者にあるということです。
「おお、君も塾員かね」とか、「そうそう、アレ面白かったですよねー」など、こうした“行動の類似”によって急に相手に親近感を抱くことってありますよね。
“行動の類似”が「過去の事実という共通点」によって感じる魅力だとしたら、“意見の一致”とはその言葉の通り、「Xに対する意見(考え方)が同じ(少なくとも似ている)」であることで相手に感じる魅力です。
自分の考えに、「ですよねー」と同意されて嫌な人はいないでしょう。そして「ああ、自分と同じベクトルを持った人だな」と感じれば、相手に魅力を感じ始めるのも道理です。

さて、上記5つの「魅力を感じる要因」の存在を知っていれば、相手との心理的な距離を一気に縮め、早期に信頼関係を構築することに応用できるわけですが、今回のイシューは「採用担当者として企業の魅力をアピールする」ですから、これを法人にも応用可能かどうかがポイントです。
“賞賛”はやはり「企業イメージ」「知名度」「業界シェア」など、企業として「他社より優れている点」を明確にし、ピンポイントでアピールすることでしょうか。アピールポイントは極力定量化してわかりやすくするとともに、「入社したことにプライドが持てる」ような伝え方もポイントでしょう。
“尊敬”を企業に適用するとしたら、それは「入ったらお得だ」と感じさせることでしょう。
給与は“賞賛”ともダブるかもしれませんが、「福利厚生」や「教育制度」などがこれに該当するでしょう。
“返報性”は、企業という立場だと不特定多数に対しになるため適用は難しそうですが、1対1の関係も作れる企業説明会などの場面では伝えるでしょう。月並みですが「あなたみたいな人に入ってほしい」と言われて嫌な人はいないはず。ここでのポイントは、企業対人というより、人対人という関係において、ABXモデルを応用したコミュニケーションを取ること。
同様に“行動の類似”も、企業説明会など1対1で話す場面での活用を考えた方が良いでしょう。
最後の“意見の一致”は使えるはずです。たとえば「我が社はあなた達と同じように○○に大きな危機感を持っており、そのために・・・」のようなメッセージを伝えることは可能でしょう。
ただ、そのためには自社に応募してくる(してほしい)人材の共通的な考え方を押さえること、そしてそれに安直に同調したように見せないことが必要です。対人コミュニケーションでも、相手の意見に単に同調していたのでは、「お調子者」と見られてしまいますから。


さて、長々とABXモデルについて語ってきましたが、これを全て応用してはいけません(笑)
なぜならば「我が社に魅力を感じてもらえるのならなんでもやる」というのは、『戦略がない』ことを意味するからです。
Webや情報誌で自社をアピールするとしたら、“賞賛”“尊敬”“意見の一致”の「どれが一番アピールできる要因か」を考えましょう。
他社と差別化できること、堂々と「こういう会社だ。来たいヤツは来い」と言えることは何なのか。
万が一それが見えてこないとしたら、正直良い人材の採用は難しいかもしれません。
しかし「無かったら作ればいい」のです。
今回は人事の採用担当者向けのメッセージに見えるかもしれませんが、私は全てのビジネスパーソンに対してお話ししているつもりです。
会社に魅力を感じてもらうのは、何も採用担当者だけの仕事ではありません。
というか採用担当者は“賞賛”や“尊敬”、“意見の一致”を「伝える」ことが仕事です。
“賞賛”や“尊敬”を得るための会社の差別化ポイントを作るのは、その企業の全従業員の使命なのですから。

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