KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2010年08月06日

思考力と運動能力の共通点

私は論理思考やファシリテーションという、所謂ビジネススキルの講師を務めています。
そこでは『スキルを身につける』ということについてこう説明しています。
「スキルとは『技能』のことです。この技能とは講義を聴いて、あるいは本を読んで知識として憶えただけでは取得することはできません。アタリマエですが、知っていることとできることは違うからです。だから知識を得たら練習するしかないのです。そしてこれはビジネススキルだけではなく、スポーツや芸術など、全てのスキルに共通です。知識を元に練習して少しずつカラダで憶える、これが『スキルを身につける』プロセスです」
言葉にすると至極当然のことなのですが、意外とこれを分かっている人が少ないというのが私の印象です。
そしてさらにここから専門である思考力について考え、ある仮説を立てました。
それが「思考能力と運動能力は共通点が多い」ということです。
そしてその共通点は大きく4つあることが見えてきました。

第1の共通点は、「生まれ持った才能によって個人間で格差がある」ということです。
これはある意味残念なことなのですが、認めざるを得ない事実です。
どんなに野球が好きで、他人の何倍も努力したとしてもイチロー選手のようにはなれません。
これは生まれ持った体格などのフィジカル面だけでなく、センスの問題です。
思考力についても同じです。
受験勉強を寝る間を惜しんでやらなくても、学校の授業を受けているだけで難関校に易々と通ってしまう人がいます。
頭の作りが違うとしか考えられないほど、思考力についても「生まれ持ったセンス」は厳然として存在します。

しかしだからと言って落胆する必要はありません(笑)
「諦めずに練習すればある程度のレベルにはたどり着ける」、という第2の共通点があるからです。
イチロー選手のレベルは不可能としても、諦めずに日々練習を続ければ試合に出ても恥ずかしくないレベルくらいにはなれます。
水の恐怖を克服さえすれば、泳げない人のほとんどが泳げるようになります。
体育の授業とは、そもそも「誰でもそこそこのレベルになるために」存在しているはずです。
「創造的な人材が揃っている」と言われる会社は、創造的思考力の高い人を採用しているという側面も確かにあるのでしょうが、採用時点でそれを明確に測定することは不可能です。
実はこの「創造的な人材が揃っている」大きな要因は、「日々の仕事で鍛えられている」からです。
ある企業では会議で他人と同じ意見を言うと、「人と同じ事しか言えないのなら会議に出ている意味はない」とまで言われるそうです。
こんな環境で仕事をしていたら、創造的思考力が鍛えられるのは当然でしょう。
だから天才の域までは不可能だとしても、訓練で思考力は必ず伸ばせるのです。

そして3つ目の共通点が、「個性を活かせる得意分野が必ずある」ということです。
身体的ハンデでとにかくスポーツができないということでも無い限り、運動の中でも得意分野と不得意分野があるのが普通です。
私の場合は、「長距離は苦手だけど短距離走なら」でした。
今は見る影もありません(笑)が、高校まではずっとリレーの選手。でも校内マラソン大会では常に後ろの方でヒーヒー言ってました。
また、サッカーや野球と言った球技も不器用さのために苦手でした(それなのになぜか卓球部だった時代も(笑))が、なぜか柔道は得意でした。
皆さんも思い当たる節があるはずです。
思考力の場合はスポーツと違って明確な種目があるわけではありませんから、我々はこの『得意/不得意』をあまり意識していないだけです。
でも少し考えてみてください。
あなたは、考え始めると深くそのことを掘り下げて考えるタイプですか?
それとも深く考えずにポンポンとたくさんのアイデアを思いつくタイプですか?
この両方とも「イエス」とはならないはずです。
やはり思考も得意分野や『癖』があるのです。
だからたとえば深く緻密に考えるのが苦手なら、「とにかく短時間でたくさんの答を出す」力を鍛え、伸ばしていけば、他人と差別化できるのです。

さて、そして第4の共通点です。
それは「鍛え続けるのを怠る(サボる)と錆び付く」という点です。
半年もゴルフクラブを握っていなかったら、誰でもそれ以前より下手になってしまいます。
「1週間練習を休むと、それを取り戻すのに3か月かかる」などと言われることも多いように、どんな名選手であっても、そしてスキルを最低限維持するためだけでも、この練習を続けなければなりません。
逆にベテランほど不可避である肉体的衰えをカバーするために、若手の頃より練習量を増やしたりもします。
論理思考の研修に参加し、講義で知識を得て演習で練習することでコツが飲み込めてきた。そして研修最後の演習では自分でも驚くほど質の高いアウトプットを出すことができた。
これは間違いなく、論理思考のスキルが研修を通じてレベルアップしたと言えます。
しかしながら職場に戻ると仕事が待っている。研修直後には「学んだことを仕事で使ってみよう」と思っていたのに、忙しさに紛れて忘れてしまう。研修直後の“熱さ”も次第に冷める。
こうしてせっかく学んだことを使わなかったらどうなるでしょうか。
ある日ふと思い出し、学んだことを使って考えてみようとしても、研修の後半ではできていたことができない。結局時間がかかるだけ。
「なあんだ、やっぱりあれは研修だったからか。意外と使えないな」と自分をなかば強引に納得させる。
講師としては甚だ残念なのですが、非常に多いのです。こういうケース。
かく言う私も経験ありますから(笑)
思考は習慣です。
今回の冒頭でも、そして第2の共通点「諦めずに練習すればある程度のレベルにはたどり着ける」でも述べたように、「練習し続けるからこそ身につく」のです。
「頭ではなく体で覚えたモノは忘れない」と言いますが、そこまでに行くには膨大な量の、それこそ一日も欠かさない練習を通じて「カラダに叩き込み、定着させる」ことが前提条件です。
イチロー選手がバッターボックスに入ったときの動きが毎回全く同じなのは、それをルーチンとして大事にしているからです。
ルーチンをいくつもいくつも(私たちが通常見ることがない練習においても)自身に課しているからこそ、彼はスキルをカラダで覚えることができたのです。
あのルーチンは決してゲン担ぎなどではないのです。
ですからお願いです。
研修やセミナーはスキルを身につけるきっかけに過ぎません。
そこである程度のレベルまで行ったとしても、「完全に身についた」ことにはなりません。
私も完璧ではなく、日々修行だと思っています。(そもそもゴールなどないのです)
そして研修やセミナーは、ゴルフで言えば“打ちっ放し”でしかなく、そこでできたからといって、本番であるゴルフコース、つまり仕事の現場で使って成果が上げられなければ何の意味もないのです。
だから仕事の現場で使い続けてください。
さて、その時のコツですが・・・
長くなったのでそれは別の機会に(笑)

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