ファカルティズ・コラム
2010年10月02日
ロジックツリーでは斬新な答が出ない?
私は以前のエントリーで、『「ロジカルシンキングはもう古い」と言う人は、「ロジカルシンキング=ロジックツリー」という誤解がある』と述べました。
ロジックツリーに対する批判がロジカルシンキングへの批判にすり替わっているとも言えます。
では、どのような批判がロジックツリーに対してあるかと言えば、多くは「斬新な発想が出てこない」というものでしょう。
酷い人は「ロジックツリーで考えるとみんな同じ答しか出てこない」とまで言います(笑)
そしてロジカルシンキングを、その中でも「重要なツール」としてロジックツリーを位置づけ、教えている私も、その批判に異論を唱えるつもりはありません。
確かにロジックツリーは万能の思考ツールではありませんから。
ロジックツリーの最大の弱点は、批判されている通り「突拍子もない答(たとえばアイデア)が生まれにくい」という点です。
モノゴトを直線的にMECEに切り分け、ザクザクとパーツに分解するロジックツリーは、斬新な発想をするには少し不向きなのです。
本来世の中の様々な事象は複雑に関係し、結びついています。カオス理論でよく使われるバタフライ効果(「ブラジルで蝶が羽ばたくとテキサスで竜巻が起こる」のように、ごく小さな動きもそれが結びつけば時間の経過の後に大きな動きを生む、という事実を象徴的に表現した言葉)を例に出すまでもなく、世の中の因果関係は「○○と△△が関係していたとは!」と驚くことだらけです。
この複雑な事象をロジックツリーは切り分けて単純化してしまうのです。
幹が何段階にも枝分かれし、美しく整理された自然の樹木(ツリー)に見えていても、実は遠い枝と枝、末端の実と実を繋いでいた糸を切り離した人工的な樹木だったのです。
たとえば原因分析する際に、ツリーで内的要因と外的要因の2つに分けて考えるとしましょう。
これ、一見MECEな切り口ですよね。
しかしながら、内的要因は本当に外的要因に影響されていないのでしょうか?
社内外との連携における問題点は、内的/外的どちらで取り扱うべきでしょうか?
ロジックツリーは「これは外的要因と内的要因の2つしかないと割り切ろう」というところからスタートします。
その結果、複雑に結びついている糸を一本を除いて断ち切ってしまうのです。
なぜそんなことをするのか?
それはこうして単純化(割り切り)せずに複雑な事象を複雑なまま考えようとすると、時間がいくらあっても足りないからです。
「バカな奴は単純なことを複雑に考える。普通の奴は複雑なことを複雑に考える。賢い奴は複雑なことを単純に考える」
とは稲盛和夫氏の名言ですが、この「複雑なことを単純に考える」ためのツール、賢く考えるためのツールこそロジックツリーなのです。
「でもロジックツリーからは斬新な答が出てこないって言ったはずだよね? それで賢い奴がって矛盾してない?」とお考えでしょうか?
「ロジックツリーからは斬新な答は出ない」「ロジックツリーは賢い奴が使うツール」、この2つは全く矛盾しません。
なぜならば、斬新な答ではない、つまり「アタリマエの答」すら我々は出せないことが多いからです。
具体例で見てみましょう。
「マイカーのガソリン消費量が減ってきているのはなぜか?」を考えてもらうと、すぐ出てくるのは「ハイブリッドなどでクルマの燃費が良くなっているから」です。
こうした「思いつきベース」でも確かに答は出ますが、どうしても答の量は限られます。
これをツリーで「単純化」して考えるとどうなるでしょう。
「マイカーのガソリン消費量減少」を「1台平均のガソリン消費量減」と「マイカー台数減」に分け、さらに「1台平均のガソリン消費量減」を「平均燃費の向上」と「走行距離の減少」に分け、さらにさらに「走行距離の減少」を「マイカー使用頻度の減少」と「長距離運転の減少」に分けて・・・
こうして考えれば、「家族や会社での旅行が減っている」や「飲酒運転取り締まり強化でクルマの使用頻度が低下」などもポンポンと出てきます。
でも、ツリーを使って出てきたこれらの答は決して斬新なモノではありません。
言われてみれば「確かにそれもあるかもね」というある意味アタリマエな答です。
でも、こんな言われれればアタリマエな答すら「我々は出せていない」のが現実なのです。
それで後から思いついて、あるいは他者から指摘されて「そりゃそうだよな」「なんでこんなことも思いつかなかったんだろう」と後悔したことの無い人はいないでしょう。
仕事において「本当に斬新な答が必要」な場面は、実はそう多くはありません。
いや、ロジックツリーで出したアタリマエの答ですら、人によっては斬新に思えるかもしれません。
突拍子もない答を見つけようとする前に、「アタリマエの答をきちんと見つける」ことが先決です。
それすらもできていないのに「斬新な答を出す」ことなんてできないと思いませんか?
登録
![夕学講演会](/wp-content/themes/kmcc_renew/images/magazine/logo_sekigaku.png)
人気の夕学講演紹介
![](/wp-content/themes/kmcc_renew/images/magazine/recom_img_sekigaku.png)
2024年7月19日(金)18:30-20:30
不易流行の経営学を目指して
~稲盛経営哲学を出発点として~
劉 慶紅
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
日本経営倫理学会常任理事
稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
![夕学講演会](/wp-content/themes/kmcc_renew/images/magazine/logo_sekigaku.png)
人気の夕学講演紹介
![](/wp-content/themes/kmcc_renew/images/magazine/recom_img_sekigaku2.png)
2024年7月23日(火)18:30-20:30
『VIVANT』とテレビ局社員
福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
私にとっての道は、TBSにありました。『VIVANT』は、同じような夢を持つ若者たちの道標になってほしい、そんな思いも込めてチャレンジした作品です。日本のドラマ界、映画界を目指す皆様、夢はあるけど方法がわからない皆様の一助になればと願っております。
![クロシング](/wp-content/themes/kmcc_renew/images/magazine/logo_xing.png)
![](/wp-content/themes/kmcc_renew/images/magazine/recom_img_xing.png)
いつでも
どこでも
何度でも
お申し込みから7日間無料
夕学講演会のアーカイブ映像を中心としたウェブ学習サービスです。全コンテンツがオンデマンドで視聴可能です。
登録