KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2011年05月20日

『権威付け』の是非

今月からスタートした私の新しい講座に『ビジネスプロフェッショナルの説明力』があります。
私たちは様々な場面で他者に「説明する」ことが求められますが、これがなかなか上手くいかないことで悩んでいる方も多いでしょう。
そこで説明上手になるためのスキルを学んでもらおう、というのがこの講座の趣旨です。
ポイントは「アタマとココロの両方で納得してもらう」ことで、論理的、つまり筋の通った理屈で説明する手法と、共感的、つまり相手の感情に訴えて説明する手法を学んでもらいます。
さて、講座の初回はそのどちらでもありません。
「説明の本題に入る前に、いかにして耳を傾けてもらう環境を作るか」をテーマにしました。
どんなに良い説明の内容と伝え方であったとしても、その前の自己紹介や雑談で反感を持たれてしまっては、相手は本題に耳を傾けてくれないからです。
そこで私がお話ししたのは、対人心理学の理論とその応用でした。
アッシュの印象形成実験から見える初頭効果の利用や、ニューカムのABXモデルを使った相手との距離の縮め方、そして感情伝達におけるノンバーバル情報の重要性を支えるメラビアンの法則…
皆さんなかなか熱心に、そして興味深く聞いていただきました。
そして、いや、「しかし」と言うべきかもしれませんが、私は講座の最後にこんな話をしました。

「さて…私は今日、何人もの心理学者の実験や理論を通して、耳を傾けてもらうための環境作りのポイントをご紹介しました」
「ここでちょっと考えてみてください。もし私がこれら心理学者の話を全く出さずに同じ説明をしたとしたら、皆さんは私の講義に納得してくれたでしょうか?」
講座の参加者の皆さんの目は、「こいつは何を言っているんだ?」と言っているようでした。
私はこう続けました。
「これが『権威付け』です」
「あー」「なるほどねー」
皆さんから声が漏れました。


説明における『権威付け』。
誰もが使いますし、よく使われています。
小学生ですら、「だって先生が言ってたし」と言います。
非常にポピュラーな説明のテクニックのひとつと言っていいでしょう。
自分ではない、誰かの権威の力を借りて説得力を増そうとしているわけです。
私の仕事などは、まさにこの権威付けが重要なツールと言えるでしょう(笑)
しかし私自身は、このテクニックが嫌いでした。
「虎の威を借る狐」のように思えたからです。
「プライドが許さない」と言ってもいいでしょう。
しかし、あるところからその考えを改めました。
「より上位の目的を達成するための手段として有効ならば活用すべき」ということに気づいたからです。


私がやっている『講義』のような説明だけでなく、全ての説明には共通の目的があります。
「相手に納得してもらうこと」?
確かにそれもありますが、その先、納得してもらった後が重要です。
そう、「納得ずくで『動いてもらう』こと」が全ての説明の共通目的です。
「説明した通りに作業をしてもらうこと」であったり、「説明によって自分の過ちに気づき、行動を改めてもらうこと」であったり、「説明を聞いて自社に発注してくれること」であったり…
説明の目的、最終的なゴールは、「上手く説明すること」でもなければ「相手を納得させる」ことでもなく、「何らかの望ましい動きをしてもらうこと」なのです。
私の仕事で言えば、「研修や講座の参加者が納得して学んだことを仕事や生活で活用すること」であり、「さらなるスキルアップのための努力を続けること」が説明のゴールなのです。
では、そのゴール(目的)と私のプライド、どちらが大事でしょうか。
考えるまでもないはずです。
こうして私は『権威付け』というテクニックを活用する道を選びました。
私にとっての最大の目的は、私の研修・講座参加者のスキルアップであり、そのスキルを活用することによる活躍であり、その結果としての組織の活性化、最終的は日本経済への貢献です。
こう考えると、私個人のプライドなんか、本当に本当にちっちゃい。何の意味もないとはこのことです(笑)


ただ、私は説明における全ての『権威付け』を肯定しているわけではありません。
説明によって「他人を動かそう」とする方向が間違っているのなら、それは批判すべきです。
たとえば「やらなくてよいことをやらせようとする」場合、「相手を動かしたことによって多くの人を悲しませたり困らせたりすることになる場合」などです。
また、それこそ単に「虎の威を借る狐」のように自分を大きく見せたいだけの場合なども、『権威付けの悪用』と呼んでいいでしょう。


私から皆さんへのお願いはふたつです。
説明する際、「正しい(本当はあまり使いたくない表現ですが)目的のためであれば、プライドを捨てて権威付けというテクニックを活用してください」ということ。
そして説明を受ける際は、「権威付けの悪用に目を光らせ、正しい判断をしてください」ということ。
残念ながら、権威付けによって相手の説明を鵜呑みにしてしまう人は意外と多いのです。
権威というハロー効果に目を眩ませられないように気をつけましょう。
肩書きや知名度なんて、その人の限られた一面でしかないのですから。

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