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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2011年06月21日

フレームワークを道具として「使い倒す」

以前このブログで「あえてSWOTを擁護してみる」というエントリーを書きました。
その冒頭で私は、「それを使いこなすための知識やスキルがないのに「この道具はダメ」とか「この道具は自分に向いていない」と貶すのは早計だ」と述べました。
そうして前回はSWOTに絞ってこの主張を展開したわけですが、これ、実はどんな道具にも当てはまります。
たとえば包丁という道具にしても、素人がいきなりプロの料理人と同じようには使いこなせません。
でも、プロと同じようには使えなくても、素人は素人なりの使い方で役に立てればよいはず。
これは戦略ツール(道具)であるSWOTも、そして他のフレームワークでも同じ事です。
でも、そもそも『道具』って何なのでしょうか?

辞書で『道具』をひくと、「物を作ったり、何かをしたりするために用いる器具の総称」と説明されているわけですが、では、何のために私たちは何かする時に器具を用いるのでしょうか。
それは、「なんらかの作業を効果的・効率的に行うため」のはず。
たとえば畑を耕す際、鍬や耕耘機という道具を使えば、素手と比べて確実に短時間で耕せます。これはつまり「効率的に作業ができる」ということ。
そしてさらに素手と比べてより土を細かく砕いたり、深く耕すことができる。これは「効果的に作業ができる」ということですね。
これは全ての道具に当てはまります。
そうでないと道具を使う意味などありはしません。
画家が使う絵筆にしても、「これはより細い線が引ける」など一本一本別の目的があるから道具として使い分けています。
そしてこれは「考える」という作業についても同じ事。
様々なフレームワークこそ、「効果的・効率的に考え、答を出す」ための道具なのです。
フレームワークを使えば早く(つまり効率的に)答が出せ、そしてたくさんの良い(つまり効果的に)答が出せる。
とても便利な「考える道具」、それがフレームワークです。
しかし、フレームワークは道具であるが故に、他の道具と同様の「使いこなすための基本原則」が存在します。


まず第一に、「道具を使うことそのもの」を目的にしないこと。手段の目的化は本末転倒であり、至極当然ですね。
ところが、意外にこの原則を守らない人や組織が多いのです。
たとえば毎年中期計画でSWOT分析を「やること」で満足してしまう経営企画部門などはその典型です。
分析とは、それが活かされなかったら単なる時間の浪費でしかありません。


そして第二に、「道具毎の取り扱い方法」を正しく理解すること。
トリセツ(取扱説明書)は一度は目を通しましょう。SWOTであれば、「単純に強みと弱みを分けずに、必ずその二面性を考える」などがちゃんとトリセツに書いてあります。
こうした重要なポイントを押さえないと、道具はその力を発揮できないばかりか、時に危険なオモチャと化してしまいます。


そして第三の基本原則が、「基本を押さえたら自分なりに応用する」ということ。
要するに「使えそうなら別の目的にもアレンジして転用せよ」ということです。
道具は「作った人がなんのために作ったか」よりも「使う人がそれをどう役立てたか」が重要です。
もちろん道具の中には、危険性の観点で絶対に他の目的に使ってはならないものも存在します。
しかし、考えるための道具ではそんな心配は無用です。
どんどん自分なりに工夫して、様々な目的やシーンで活用しましょう。
前回ご紹介した『キャリア戦略を考える道具としての自分自身のクロスSWOT』なども、まさに他の目的に対する道具の転用例です。
また、事業/商品戦略を考える際に使われているPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)なども応用範囲の広い道具です。
たとえば、マトリクスの横軸『自社の市場シェア』を『自社の顧客シェア』に置き換え、縦軸『市場の成長性』を『顧客の投資額の伸び』に置き換える。
ここで本来のPPMであれば自社の商品や事業をプロットし、『花形商品』や『金のなる木の事業』などを明らかにしていくのですが、このPPMでは自社の顧客をプロットしていきます。
これ、実は「営業部門が販売戦略を考えるために担当顧客のポジショニングを明らかにする」ためのPPMです。
このプロセスで『花形顧客』や『問題児の顧客』が見えてきます。
どの顧客に注力すべきか、その時の具体的施策は何か。『負け犬の顧客(その顧客に対して自社が負け犬という意味です。念のため)』からはそろそろ手を退こうか…などが議論できます。
個々の営業マンは、どうしても担当顧客に愛着が湧いてしまいますから、時にはこうして営業部門全体で客観的に顧客を俯瞰してみることは重要です。
他にも、企業の成長戦略の方向性を検討する道具であるアンゾフのマトリクスを、個人の成長戦略の検討に応用することなども可能です。


ほら、フレームワークってこうして考えると、なかなか「使いでのある道具」だと思いませんか?
そして「楽しく考えるための道具」でもあると思いませんか?
「○○とハサミは使いよう」などと言いますが、「この道具使えない」なんて言っているヒマがあるのなら、自分の頭を使って使い道を考えるべきでしょう。
道具って本当に「使い倒してナンボ」なのですから。

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