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ファカルティズ・コラム

2012年01月23日

明確に相対化して考えてみよう(後編)

先週に引き続き、「主観的かつ感覚的(つまり直感的)に考えるだけでなく、時には徹底的に相対化して考える」ことについてお話ししてみようと思います。
前回はまず「直感の源泉にさかのぼってみよう」ということで、直感的に答を出したとしても「自分の直感の拠り所は何か」「それはどのような知識と経験から形成されたのか」「その知識と経験は今でも通用するのか」を考えてみよう、という提案をさせていただきました。
それによって自分自身の『考え方の癖(傾向)』や『自分に足りない知識と経験』が明確になり、そして『直感の精度を高めるためにすべきこと』が見えてくるからです。
ということで、今回は「時には明確な比較対象を設定して考えてみよう」という提案です。

前回冒頭で「絶対評価とは比較対象を曖昧にしたある意味いい加減な評価」、よって「真の絶対評価など存在しないのではないか?」と問題提起(というほど大げさではありませんが)させていただきました。
であれば「明確な比較対象を設定し、徹底的に比較する」ことこそ、「いい加減に考える」ことの対極にあると言えるでしょう。
もちろんその目的は「どちらが良い/悪いかを決める」、つまり評価すること(だけ)ではありません。
そこからヒントをもらうのです。考えるための切り口を見つけると言っても良いでしょう。


さて、相対化して考えるためには当然比較対象が必要になりますが、皆さんはその比較対象をどうやって見つけていますか?
ここからは具体例で考えてみましょう。
自社の商品についてマーケティング企画を考えなければならないとしたら…そう、直接の競合商品の中から比較対象を見つけようとしますね。
そして競合商品と「どう差別化するか」を考えます。
組織のグローバル化におけるポイントと具体的施策を考えるとしたら…もちろんグローバル化の成功事例(時に失敗事例)となる他の企業が比較対象となります。
そして(成功事例を比較対象とするなら)、選定された当該企業と自社との違い(Gap)を明確にし、Gap分析を行ったりしながら、グローバル化の施策を考えるわけですね。
この2つの例からわかるように、比較対象とこちら側(本来の思考対象)との間には、何らかの共通点があることが大前提です。
前者には[同等機能を持つ]、後者には[グローバル化を志向している]という共通点があるわけですね。
ですから比較対象を明確化する活動は以下のステップで行うことになるはずです。
1. 思考対象の何を比較したいのか(ここではそれをΣとします)を明確化する
2. 思考対象と共通するΣを持つ対象を複数洗い出す
3. その対象群の中から、適切な対象を絞り込む

適切な対象を絞り込む際の基準は様々です。
マーケティングであれば[自社商品より売れている商品]や[直接の競合商品]にする場合が多いでしょうが、時には[全く異なる分野だが、顧客の得られるベネフィットは同等の商品(言い換えれば、お金の使い道としては同じ商品)]を比較対象にすることも出来ます。
そこに唯一の正解はありませんし、現状の環境とその変化によってもどれが適切かを明確にするのは不可能です。あえて言えば、「分析の仕方を学び経験を積むことで蓋然性の確度を上げる」ことしかないでしょう。
「比較して(つまり相対的に)考えるのってそんな面倒くさいやり方が必要なの?」と思われますか?
しかしこの方法、少なくとも「本当にこれは比較対象として適切なのだろうか?」を考えなければ、そこから出てきた答えもまた不適切なものとなってしまいます。
たとえば比較する競合企業を見誤ってしまったら、不適切な戦略を立案してしまうことにもなりかねません。
そしてもう一点、比較する際に注意すべきことがあります。
それは思考対象と比較対象の”定義”を明確化することです。
たとえば「アニメと特撮の比較」について議論する際、それぞれの定義が不明確なままだとどうなってしまうでしょう。
そう、各自の持つアニメと特撮の定義(イメージ)が異なるため、「かみ合わない議論」「主観の押し付け合い」になってしまうのは火を見るより明らかです。
しかしそういうケースは多いですよね。
だから『変身ヒーローもの』のアニメと特撮に限定する、などの定義が必要になるわけです。
これをやらないから「”アニメ”の比較対象は”実写”では?」みたいな意見が後から出てしまい、さらに議論が迷走したりします(笑)


さて、相対化して考える際の比較対象が「直接的な比較対象」ばかりとは限りません。
たとえば『自動車業界のチャネル戦略』を考える時、自動車業界内の2社の比較はもちろん可能ですが、これを家電業界と比較してもいいはずです。

「自動車業界のA社を家電業界のX社と見なしてみよう」
「そうすると自動車業界B社に当たるのは家電業界のどの会社なのか?」
「それがY社だとして、Y社とB社を比較すると何が見えてくるのか?」

こうして「何かに置き換えて考える」、このブログで私が何度も取り上げている『メタファー思考』も相対的に考える際のひとつの手法なのです。
また、業界内の個々の比較だけでなく、業界そのものを相対化させて考えることもできます。
「家電業界も以前は『系列下』がチャネル戦略の中心だった」
「しかし今や大手の家電量販店がチャネルの中心であり、系列は既に崩壊している」
「とすると自動車業界の系列も永遠とは言えないのでは?」
「家電業界における大手量販店は自動車業界では何か?」
「既にオートバックスや中古車のサンキョウなど、系列を超えた新車販売を行うチャネルがある」
「では、ヤマダ電機とオートバックスの共通点は?」

のように、次々と新しい問い(疑問)が生まれ、今まで見えていなかったことが見えてきます。


比較対象を広く探し、定義を明確にした適切な比較対象を選択する。
メタファーを使って別の世界(業界/ジャンル)の何かに置き換えても良い。
そして共通点・相違点を見つけながら徹底的に相対化して考える。
時にはこうして「今まで思いつかなかった」自分なりの答を見つけていくのはたいへん楽しい行為だと思いませんか?

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