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ファカルティズ・コラム

2012年02月03日

問題解決と”縁”の考察、そして拡がり

今朝facebookで、ある方の投稿に「まさに縁(えん)ですね」とコメントしました。
そして投稿が済んだ後、私は「ん?」となったのです。
「そういえば、よく使うけど”縁”ってなんだろう?」
そしていつものように国語辞典を引きました。
すると、非常に興味深いことが見えてきたのです。

“縁”を国語辞典で調べると、私の知っている意味が当然のように書いてあります。
曰く「そのようになる巡り合わせ」「関係を作るきっかけ」「血縁的・家族的繋がり」、そして「人と人との関わり合い」。
ちなみにこれを「えにし」と読むと、基本的に「男女間の関わり合い」を意味するのだとか。
しかし国語辞典にはもうひとつ、仏教用語としての意味が載っていました。
「結果を生じさせる直接的な原因に対して、間接的な原因。原因を助成して結果を生じさせる条件や事情」
「なんなんだこれは?」
私は今度はWikipediaを当たります。
そこで行き着いたのが、この『縁起』について解説したページです。
詳しくは直接上記ページを見ていただくとして、そこにはこう記述してあります。
——————————————-
 ある結果が生じる時には、直接の原因(近因)だけではなく、直接の原因を生じさせた原因やそれ以外の様々な間接的な原因(遠因)も含めて、あらゆる存在が互いに関係しあうことで、それら全ての関係性の結果として、ある結果が生じるという考え方である。
 なお、その時の原因に関しては、数々の原因の中でも直接的に作用していると考えられる原因のみを「因」と考え、それ以外の原因は「縁」と考えるのが一般的である。
——————————————-
私は直感的に「この考え方は使える!」と感じました。

『因果関係』とは読んで字のごとく「原因と結果の関係」を意味する言葉です。
ビジネスにおける問題解決(もちろんビジネス以外でも)においては、まず原因を明らかにすることが何よりも重要なのはよく語られます。
なぜならば、たとえば「商品Aの売上が落ちている」という問題が提示されているとして、その問題の原因分析を行わなかったらどうなるかを考えてみてください。
はい、「とにかく売上を伸ばす」ことが課題として設定され、様々な手が売上向上策として実施されるでしょう。
しかし打ち手が全て当たることなどありえません。
中には全く効果がなかった打ち手もあれば、確かに売上を伸ばすには有効だったものの、コストがかかり過ぎて却って利益を減らしてしまう施策もあるかもしれないからです。
そんな無駄を生み出さないために原因分析が必要です。
原因をピンポイントで特定し、そこに手を打つ。そうすればより効果が期待できるとともに、ヒト・モノ・カネ・時間という経営資源の無駄遣いも防げます。
ただ「ピンポイントで」という言葉は使いましたが、世の中の様々な事象は非常に複雑な構造になっていますから、実のところ「ある問題に対して原因がひとつしかない」というケースは希です。
複雑な現代のビジネスにおいてはなおのこと。
ですから私たちは原因分析で問題の原因(かもしれないと思われる)候補を幅広く仮説として洗い出した後、それらを各種情報(データという定量情報やヒアリングなどの定性情報)に照らし合わせて検証することで真の原因、つまり真因をいくつかに絞り込んでいきます。
しかし問題の原因をいくつかに絞り込んだ後も悩みは残ります。
「さて、優先順位はどう考えればいいのだろう?」という悩みが。
なぜならば、絞り込んだとはいえ『重点的に経営資源を投入すべき原因』と『補完的に手を打つべき原因』を明確にしなければ、やはり問題解決の生産性が最大化できないからです。

もうお気づきでしょう。
この悩みを解消するきっかけになり得るのが、”縁”です。
私なりにこの”縁”の概念を活用すると、真因特定は以下のステップで行うことになります。


1. 仮説検証絞り込んだ原因(と考えられる事象)を解決すべき問題(と定義された事象)が置かれたテーブルの上に並べる。
2. 各事象の間に矢印を引き、シンプルなインフルエンス・ダイアグラム(因果関係図)を試行錯誤しながら作成する。
3. 問題に対する”因”がどれで”縁”がどれかを考える。


ここでひとつ問題になるのが上記『3.』をどうやって考えるかですが、これに関しては描いたダイアグラムの『矢印』に着目すれば良いでしょう。
つまり「どの事象が起点になっているか」「どの事象から矢印が多く出ているか」「どの事象に矢印が多く集まっているか」といった観点でダイアグラムを見るのです。
それによって各事象の中から”因(最も直接的な原因と考えられるもの)”と”縁(因が起こる条件または因を促進すると考えられるもの)”が浮かび上がってきます。
この真因特定のプロセスと考え方については、今後様々なケースで検証してみたいと思います。


さて、今回気づかされたのは、この”縁”という概念の重要性だけではありません。
西洋から導入された合理的な問題解決手法だけでなく、そこに今回の仏教のような東洋思想を組み合わせることの有効性に、私は大きくインスパイアされました。
またそれは問題解決手法だけでなく、様々な分野への応用可能性も。
さらにそれは『東洋と西洋』という組み合わせだけでもないはずです。

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