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ファカルティズ・コラム

2007年04月26日

「トヨタ4半期で初の世界首位」の考察

トヨタ自動車の2007年1~3月期の世界販売台数(ダイハツ工業、日野自動車含む)が、前年同期比109%の約234.8万台となり、1931年から年間首位を守っていた米ゼネラル・モーターズ(GM)の226万台(前年比103%)を、4半期ベースとはいえ初めて上回り、ついに世界一になりました。
地域別の販売台数を見ると、最大市場の米国で60万台強、欧州で33万台弱、アジアは28万台強と、いずれも前年比120%に迫る伸び率です。
主要メディアはこの原動力として、「中国を中心とするアジア市場の拡大」「低燃費と信頼性を売りにした小型車による米・欧でのシェア向上」「米国を中心とした高級ブランド『レクサス』の好調」を挙げています。
さて、皆さんも既にこのニュースに触れていると思いますが、ここから何を考えましたか?
「日本メーカーがトップ! うれしいなあ」というのは、心情的には理解できますが、それではまだ考えているとは言えません。
「日本でもトヨタ一人勝ちの構図がより強まるな」・・・まずまずです。
「今後業界全体で、燃料電池車やディーゼルハイブリッド等の技術競争が進むだろう」
「今後さらに自動車業界のM&Aが加速するのでは」

・・・なかなか広く、深く考えていますね。これくらいはビジネスパーソンなら考えてほしいところ。以前の4週連続のエントリー(考え抜く習慣をつけよう)でお話しした、「So What ?」「Another ?」を問い続けていればできるはずです。
そしてできれば、
「でも、国内はどうなんだ? 軽自動車の躍進に普通自動車は押されているはずでは?」
「とすると、特にダイハツの伸び率と比率はどうなっているのかな?」
「レクサスも日本国内では苦戦していると聞いているけど、ホントに好調なのか?」
「GMも抜かれたとはいえ、単独では伸びてるわけで、他の理由もあるのでは?」

という疑問も持っていただきたいと思います。
それも“自分の頭で考える”ためには必要不可欠であり、またそうした疑問がきっかけとなって、我々は初めて情報収集の必要性に気づくからです。
・・・講師モード(笑)はほどほどにして、このニュースから私なりの切り口で考えたことを、以下に述べてみたいと思います。


私がこのニュースを聞いた時、最初に考えたのは、「今年首位に立つのは既に確実視されていたし、この結果はまあ当然だな。でも、日本国内の状況はどうなっているんだ?」でした。
ということで早速トヨタのWebサイトを見てみると、本年1~3月期の国内販売台数は、69.4万台と前年比95%。その内訳はトヨタ48.2万台(同91%)、ダイハツ19.6万台(107%)、日野1.5万台(92%)とのことでした。
この数値から逆算すると、グループで前年比▲3.6万台販売台数が減少しており、その内訳はトヨタ▲4.8万台、ダイハツ+1.3万台、日野▲0.1万台であることがわかります。
4月はじめのニュースで既報の通り、ダイハツは軽自動車の分野で33年間トップであったスズキを抜いたわけですが、それでもトヨタの台数の落ち込みはカバーできなかったことになります。さらに軽自動車と普通自動車との価格差を考えると、トヨタの国内販売の落ち込みは、昨今の景気回復の流れに逆行しているとさえ言えます。
しかしここで日本自動車販売協会連合会のデータを調べると、2006年度の新車販売台数(軽自動車除く)は、前年度比92%の359万台で、1977年度以来の低水準に落ち込んでいることがわかります。
つまり国内においては、普通自動車の市場は年々縮小しているわけです。
そう考えると、米国・欧州・アジアにおけるトヨタの躍進も、「販売の拡大はもはや国内ではなく、海外に求めざるをえない」という論理が見えてきます。
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「そんなことはトヨタ首脳は既に言ってるじゃないか。スズキが軽自動車首位をダイハツに譲ったのも、鈴木会長の『今後は軽自動車のラインを減らして、海外での普通車販売に力を入れる。』という発言から当然のなりゆきだったわけで」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。
しかし、そうした各社トップの発言を『知らなくても』、前述のようにデータから推察することができる。これ、重要なポイントです。
つまり、たとえ情報が少なくても、論理的に考え抜けば答にたどり着くことも可能になるのです。
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さて、ここで「そうか、やはり今後は海外だよな」で思考停止してしまってはいけません。もう少し「So What ?(それで?)」を自分に問いかけてみましょう。
「さらなる燃費と信頼性の向上を狙って、海外展開を進めるべき」「小型車で米国車を、レクサスで欧州車(BMW・メルセデスベンツ等)を駆逐しようと考えている?」等々、様々な考えが浮かんでくるはずです。
私はいちユーザーの視点でこう考えてみました。
「日本市場が今後軽視されるのでは?」
お気づきの方も多いと思いますが、年々自動車が巨大化しています。これは3列シートのミニバンが人気というだけでなく、今まで5ナンバーだったクルマが、幅1.7mを超えて続々と3ナンバー化しています。実は私の愛車も昨年モデルチェンジ(形の上では旧車種廃止で新規車種リリース)され、幅が6cm拡大されてしまいました。
メーカーは「安全基準への対応」「走行安定性の向上」といった理由を説明していますが、明らかに欧米メーカーへの追随です。(具体例を挙げると、フォルクスワーゲン・ゴルフに合わせて、国内外各メーカーの競合車種は巨大化しています)
この狭い日本の狭い道路で、本当に車幅の拡大が必要なのでしょうか?
車幅だけの話ではありません、クルマのデザインや内装、走りの質感なども今後は“欧米人の好み”に合わせて作られるようになるかもしれません。
「欧米で売ることを前提に新車を開発し、それを『日本でも売る』という形になりつつあるのではないか?」
これがこのニュースから考えた、私の個人的な懸念です。
日本のメーカーが世界トップになったことは、素直に誇りに思っても良いでしょう。しかし、諸手を挙げて快哉を叫ぶのは、「考えが甘い」とも思うのです。

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