ファカルティズ・コラム
2012年04月13日
ブランドとイノベーション
既報の通り今、日本のエレクトロニクスメーカーが苦境に陥っています。
重電部門を持つ日立製作所・東芝・三菱電機は家電部門のリストラの効果もあって踏みとどまっていますが、所謂弱電メーカーは総崩れの状況です。
2011年度最終赤字(見込み)はパナソニックが▲7800億円。
シャープが▲2900億円。
ソニーは2月時点では▲2200億円との予想でしたが、今月に入って▲5200億円と下方修正しました。
そしてNECが▲1000億円。
ソニーとNECは、1万人規模のリストラも発表しました。
さて、ここで皆さんにお伺いしたいのですが、これら4社の苦境のニュースにおいて、どのメーカーの現状に驚きましたか。また、どのメーカーの今後が心配ですか?
個人的には、エルピーダ破綻も含めて古巣であるNECの今後が心配ですが、この問いの答は人によって異なるでしょう。
私のような「公私において自分(自社)と関係が深い」というのもあるでしょうし、人によって驚いたり心配したりするポイントは異なりますから。
しかし一般的な日本人という視点で見ると、やはりソニーとパナソニックが上位で、次いでシャープ、そしてNECというのが「驚きと心配のランク」ではないでしょうか。
では、なぜそのランクなのか。
私は、ヒトコトで言えば「ブランド力の差」だと考えます。
米国のコンサルティング会社が今年2月に発表した日本企業のグローバルブランドランキングのベスト10は下記の通りです。
1. トヨタ
2. ホンダ
3. キヤノン
4. ソニー
5. 任天堂
6. パナソニック
7. 日産
8. レクサス
9. 東芝
10.コマツ
以下電機メーカーに限定すれば、13位にシャープ、17位に三菱電機、22位に富士通となっており、残念ながらNECは30位以内には入っていません。
エレクトロニクス企業の赤字決算に対する「驚きと心配のランク」と見事に符合します。
さて、このブランド力を今まで伸ばしてきたものこそ、『イノベーション』だったはずです。
コストパフォーマンスの高さで世界を席巻した自動車産業は言うに及ばず、日本のエレクトロニクス産業も様々なイノベーションを興してきました。
私たちの記憶にも、ソニーのウォークマンやシャープの液晶テレビなどがイノベーションの事例として鮮明に残っているはずです。
こうしたイノベーションで勝負してきたはずの日本のエレクトロニクスメーカーが苦境に陥っている。
これは彼らが「イノベーションを興せなくなっている」事実を如実に表しています。
そして彼らを追い抜き、ランキング上位に台頭してきた海外メーカーがアップルでありサムソンでありHPでありレノボです。(ちなみにIBMはランキング上位の常連です)
また、エレクトロニクスの分野をハードウェア以外にも広げると、グーグルや百度、フェイスブックやアマゾンのようなインターネットサービス、そしてオラクルやSAPというアプリケーションベンダーも日本メーカーより上位にいます。
◆過去の栄光でブランドをなんとか維持してきた日本メーカー。
◆イノベーションによってブランド価値を高めた海外ベンダー。
というはっきりした構図がそこにあります。
また、
◆韓国・中国企業の躍進
◆ソフトウェアに弱い日本企業
という傾向も明確です。
こうしてブランドをイノベーションという視点で見ると、苦境にあえぐ日本メーカーは今後も厳しい戦いを強いられるでしょう。
なぜならば、イノベーションは以前も述べたように「量が質を生む」と割り切って試行錯誤することが重要だからです。
これには時間とお金がかかります。
結果として、ブランドは一朝一夕に高めることは難しいのです。
ですから時間とお金を節約する、つまり効率的にV字回復を目指すのであれば、これまで以上の選択と集中が必要不可欠です。
「自分達はどの分野でイノベーションを興し、食っていくのか」
これを明確にし、ブレないようにすることです。
以前も述べたように「継続が力なり」を曲解して単に続けることは危険ですが、トップが変わるたびに朝令暮改で重点分野をコロコロ変えていては、あまりにも時間とお金の無駄遣いです。
特にソフトウェアの分野で、ビジネスモデルまでも考慮に入れた新商品開発が必要です。
国際規格の取りまとめに時間がかかり、またOSや主要コンポーネントが既に他社に押さえられているハードウェアでは短期的な差別化は難しいからです。
日本のITベンダーのソフト開発の常套手段である、「特定顧客のシステム開発で新規開発したプロダクトを他社にも売る」という安易なプロダクト事業は、既に限界なのです。
もちろん、その選択と集中が必ず成功する保証はどこにもありません。
市場のニーズや規模を見誤ったり、戦略がいくら良くても実行段階、つまり戦術に問題があれば失敗するのは明確であり、それが企業の存続すら脅かすことになるでしょう。
それが嫌ならば、大きな変革無しにだましだまし既存事業の延命を図り、緩やかな滅亡を目指すしかありません。「とにかく自分がつとめている間は無難に」という選択肢もあるのです。
「経営判断を誤った」と失敗した時に非難されるより、「経営判断しなかった」と後から非難されるのを選ぶ、とも言えるでしょう。
しかし本当にそれで良いとは誰も思わないはず。
であればリスクを取って「ベットする」しかないのです。
そうでなければ、近い将来「なぜあの時ベットしなかったのか・・・」と後悔するだけですから。
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劉 慶紅
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
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