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ファカルティズ・コラム

2012年06月01日

ハードルとその先のゴール

KGIとKPI。
BSC(バランススコアカード)をちょっとでもかじった方ならご存じのはず。
KGI(Key Goal Indicator)は『重要目的(目標)達成指標』。
KPI(Key Performance Indicator)は『重要業績評価指標』などと訳されます。
“Indicator”とは”指標”を意味する他、”測定器”や機械類の”メーター”などの意味もありますから、要するにKGIとは「目的が達成できた(ゴールにたどり着いた)かどうかを判断するモノサシ」のこと。
では、KGIとKPIの違いは?
「業績も目標(ゴール)のひとつ」と考えれば、単に表現の違いのようにも感じられます。
しかしこのKGIとKPIは根本的に違います。
陸上競技というメタファーを使うなら、
■ KGI:ゴールテープが張られている「場所」
■ KPI:ゴールへのルートに設置された越えるべきハードルの「高さ」
なのです。

もっと抽象化すれば、KGIは「成果の定義」であり、KPIは「プロセスの定義」のこと。
具体例を挙げてみましょう。、
<営業部門>
 KGI:本年度の売上高5億円
 KPI:上期中に新規顧客開拓10社
<生産部門>
 KGI:本年度の製造原価を20%低減
 KPI:本年度の不良品率を50%低減
仕事以外でも挙げてみます(笑)
<婚活>
 KGI:来年には結婚
 KPI:今年は合コンに20回参加
<ダイエット>
 KGI:年末の体重70kg
 KPI:週2回のジム通い
これらからおわかりのように、KPIとは「これが達成できなければKGIの達成なんか無理」という、前述した「越えるべきハードルの高さ」を明確化したものなのです。
※しばしば「KPIはKGIのマイルストーン」と説明される場合がありますが、マイルストーンととらえると、たとえば先のダイエットの例では「KPI:6月末に体重75kg」も成立してしまいます。次元の異なるKPI候補を比較するのは困難ですから、私はKPIはマイルストーン(の場所)よりハードル(の高さ)としてとらえた方が良いと考えています。


さて、KGIの設定、つまりゴールの明確化が重要なのは誰でもわかります。
どこに向けて走って良いかわからない真っ暗闇の中のレースは、誰も走りたいとは思いません。
どこまで走ればよいかわからないレースでは、ペース配分をどうしていいかわかりません。
だからたどり着くべきゴールを見える化する。
どちらの方向にゴールがあるのか、そしてどのくらい遠くにゴールがあるのかがわかって、私たちはようやく走る気になります。
しかしゴールだけが示され、「これをとにかく頑張って達成しろ(達成しよう)」では、途中にどのような障害(ハードル)があるか、そしてどのようなルートでゴールに向かうべきかがわかりません。
これでは走っていて不安になりますし、本当にゴールにたどり着けるかどうかもわからない。たとえたどり着いても、とんでもない回り道をしてしまうかもしれません。
だからハードルとしてのKPIが必要になります。
しかしハードルは障害物であり、こんなもの無い方が楽にゴールにたどり着けるように思えるかもしれません。ただ、ハードルが見えているからこそ、どのようなルートで走れば良いかがわかる点を見逃してはいけません。
そしてそもそも仕事や人生において、目的達成のための障害(ハードル)があるのは必然です。


では、KGIとKPIの重要性がご理解いただけたところで、次にそれらを設定する際のポイントについて考えていきましょう。
まず大前提ですが、それは上記具体例からもわかる通り「極力定量化すること」と「時期を明確化すること」です。
目標とする金額や率、回数など、数値化して定義しなければ、「ゴールに届いたかどうか」の判断ができません。目盛りのないモノサシはモノサシとして機能しないのです。
もちろん「コミュニケーションの活性化」のような定量化しにくい目標もあります。しかしそうしたケースでも、たとえば「明らかに会議で発言する人が増えた」など、「どのような状態がコミュニケーションが活性化したと言えるのか」を極力明確化すればいいのです。
そしてその数字を「いつまでに達成するのか」も明確にすべきです。
なぜならば、私たちは納期のない課題は優先順位を下げてしまい、結果的に「やらずに終わる」か、やったとしても「時機を逸する」ことが多いからです。
次に留意すべき点は両指標の『実効性と実現性』を評価すること。
わかりやすく言えば、「その先の目的に対して最も適切な目標なのか」、そして「ハードルとしてちょうど良い高さか」を問うことです。
実効性とは「効果があるかどうか」。KPIで言えば、様々な指標の選択肢の中で「何が最もKGIの達成に直結するのか」を考えるということです。
「ハードルがあるからゴールまでのルートがわかる」と言いましたが、そのハードルを置く場所を間違ったら、ゴールになかなかたどり着くことはできません。
たとえば売上高の目標を達成するには「新規顧客を増やす」ことが重要なのか、それとも「商談の成約率を上げる」方が近道なのか、それを考えずして思いつきでKPIを設定すべきではないのです。
これはKGIについても同様です。
いかにこれが「ゴールを定義する」ものだとしても、企業や人はあるゴールにたどり着いたらそれで終わり、ではありません。ゴールの先にはぼんやりとした理想や希望、最終目的があるはず。
企業で言えばそれは経営理念、個人で言えば将来像など、それらに対してこのKGIはふさわしいのかを考えるべきです。
婚活にしても、結婚が最終ゴールというわけではありませんよね(笑)
その意味では、このKGIこそ「最終目標にたどりつくためのマイルストーン」と考えるべきでしょう。
そして実効性とともに評価すべきなのが実現性、ハードルの高さです。
低すぎるハードルは苦もなく越えられますが、その分ゴールが却って遠くなります。ダイエットするのに月一回のジム通いでは、たいして体重は落ちないのです。
逆に高すぎるハードルでは苦労しても越えられず、やる気も失って結果的にゴールにたどり着けません。いかに製造原価を下げるのが目的だとしても、不良品率ゼロ%を目標にしてしまっては、ただの絵に描いた餅です。
これらはKGIでも同様で、低すぎる売上や体重の目標、高すぎる原価低減率や早すぎる結婚の納期を設定しても仕方ないのです。
「楽ではないが頑張ったら越えられそう」なハードル、そして「けっこうキツいけど自分(達)の力なら届く」ゴールを設定することが重要です。


KGIとKPI。
どちらも私たち「曖昧さを許容する」日本人、特にビジネスパースンにとって今だからこそ必要なモノサシではないでしょうか。

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