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ファカルティズ・コラム

2012年11月30日

『選択基準の多様化』から考察する

『GoodGuide』という米国で今人気のWebサービスがあります。
GoodGuideのWebサイト
日用品を中心に、家電から自動車まで、様々な商品をジャンル別に採点・ランク付けし、消費者の購買を支援するサービスを提供しています。
ここまでならAmazonや価格.com、@cosmeなどと大差無いように思えますが、それらが購買者の採点(つまりクチコミ)であるのに対し、GoodGuideではサイト独自の採点という点で異なります。
そうすると今度は「ITmediaやレスポンスのようなサイト独自の評価を公開する専門ニュースサイトと何が違うのか?」ということになってしまいます。
それではこんなに人気が出るわけもありません。
GoodGuideがこれら既存のWebサービスと根本的に異なる点は、その『採点項目』なのです。

さて、あなたは日用品であれ家電であれ、何かを購入する際「何を基準に」いくつかの候補からひとつの商品を選択していますか?
「そりゃあ、より安いもの、つまり価格を基準に」
「それと機能や品質、使い勝手など、つまりは性能も基準に」
当然ですね。
やはり価格と性能、つまり『コストパフォーマンス』を選択基準として使うのが一般的でしょう。
しかしGoodGuideでは、コストパフォーマンスは採点項目に入っていません。
GoodGuideの採点項目は以下の3つです。


1. Health
まずは健康。身体に害がないかどうかです。使用している成分などからそれを採点しています。
2. Environment
次に環境。CO2排出量や化学薬品など、製造過程や廃棄時の地球環境への影響を採点しています。
3. Society
そして社会。フェアトレードやコンプライアンス、動物実験の有無や労働環境など、社会に対しての企業姿勢を採点しています。


こうした3つの項目を10点満点で採点し、それをランキングという形で消費者に提供しているのです。
最近ではスマートフォンのアプリもリリースし、お店でスコアを確認してから商品購入、というニーズにも対応しています。
いかがでしょう。なかなか面白いサービスですね。
残念ながら現時点では日本市場には対応していませんが、日本でもリリースされたら「使ってみたい」という方も多いのではないでしょうか。


さて、このサービスが人気ということで見えてくるのが、『消費者の選択基準の多様化』です。
従来の商品単体の『コストパフォーマンス』だけでなく、健康や環境、そして社会性という、企業の姿勢までもが選択基準、つまり『購買のモノサシ』に加わってきたと言えるでしょう。
以前ご紹介した『コーズリレイテッド・マーケティング』の拡がりも、それを裏付けています。
では、なぜこのような『選択基準の多様化』が起こってきたのか。
従来こうした論点に対しては、『価値観の多様化』でひとくくりに説明されることが多かったのですが、それだけではどうにも説明がつきません。
私はこの『選択基準の多様化』の背景として、『消費者のリスク意識と社会貢献意識の高まり』があるように思うのです。
わが国の震災や原発問題もその代表例ですが、近年、全世界的に様々なリスクが顕在化してきました。
それは地球温暖化を中心とした環境問題であり、貧困や格差、水と食糧にエネルギー問題、そして国際紛争や国家レベルの金融危機など、20年前とは比べものにならないほど、私たちは様々なリスクを「我がこと」として考えなければならない時代になっています。
これらの情報が容易に入手できるインフラが、インターネットやモバイル環境で整備されたことも大きいでしょう。
そんな時代において、消費者が様々なリスクを回避/軽減しようとしたり、「なんとか力になりたい」と考えることは自然な流れ。
そこにハマったのがGoodGuideのサービスなのです。
GoodGuideの採点項目である『健康』はリスク回避、『社会』はそのまま社会貢献、そして『環境』は間接的リスクの軽減および社会貢献に当たることを考えると、この3つの採点項目は非常にうまいポイントを突いていると言えます。


さて、『選択基準の多様化』とその背景としての『消費者のリスク意識と社会貢献意識の高まり』に「なるほどね」となるだけでは意味がありません。
ここで「ということは?」と考えてみてください。
そうすることで、たとえば「リスク意識の高まりに対応するために、我が社のマーケティングをこう変えた方がよいのでは?」のような、この情報を「役立てる」ヒントが思いつくのです。
他者(他社)から「学ぶ」とは、その成功や失敗を表面的にとらえて真似したり反面教師にすることではなく、その背景を探り、そこから本質を読み解くことから「では自分はどうすべきか?」を考えることなのですから。

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