ファカルティズ・コラム
2013年04月18日
PPMを応用する
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)というフレームワークがあります。
ボストンコンサルティングが1970年代に開発した手法で、市場の成長性と市場シェアという2軸で構成されたマトリクスに自社の事業や商品を位置づけ、主に経営資源の選択と集中を検討するツールとして活用されます。
たとえば、「金のなる木の事業から得られたキャッシュを問題児の事業に投資して、花形に育成しよう」「負け犬の事業から、そろそろ撤退しようか」といった具合です。
「事業戦略を単純化しすぎる」などの批判は当然あるものの、それでもなかなか使い勝手の良いフレームワークであることは確かです。
ところでこのフレームワーク、少し工夫すれば別の用途にも使えることをご存じでしょうか。
どうしてもPPMというと、事業のポートフォリオを考える経営トップや、商品のポートフォリオを考える事業部長レベルのツールと考えがちです。
今回私がお薦めしたいのは、これを営業部門で使うというアプローチ。
名付けてCPM(カスタマー・ポートフォリオ・マネジメント)です。
B2Bのビジネスでは、業種別の営業体制を取っている企業が多いでしょう。
そうした営業部門では、マーケティングの観点から「顧客の選択と集中」を考えなければなりません。
「どの顧客にヒト・モノ・カネをかけるのか」。これを考える際にこのフレームワークを使うのです。
PPMの縦軸と横軸、その『市場』を『顧客』と読み換えたマトリクスに、顧客を位置づけます。
顧客が売上増などで成長しており、かつその顧客の投資(たとえば自社がIT関連であればIT投資)に対する自社のシェアも高ければ、その顧客は『花形顧客』です。
優秀な営業マンや営業マンの人数、そして潤沢な接待費を費やすに値する顧客です。
顧客成長性(これは『○○投資の伸び』としても良いでしょう)は低くても、顧客シェアが高ければ『金のなる木の顧客』ですから、やはりそれを維持するためにもある程度のヒト・モノ・カネの投資が必要ということがわかります。
顧客成長性は高いものの、顧客シェアが低ければ『問題児の顧客』ですから、5フォースを使った競争環境の分析と自社の強み・弱みを勘案した上で、花形顧客にすべく既存の花形以上の投資をするか、あるいは優先順位を落とすかを決めなくてはなりません。
顧客成長性と顧客シェアともに低ければ、あまり期待できない『負け犬の顧客』(顧客に負け犬とつけるのは失礼です(笑)から、これは自社が『負け犬』と考えてください)ですから、「先方からオファーが来ない限り、こちらから積極的な売り込みはやめよう」などの判断も必要になるでしょう。
いかがでしょう。
意外と使えるフレームワークだと思いませんか?
また、B2Cのマーケットであっても、セグメンテーションされた顧客層をこのフケームワークに位置づけることにより、今後のターゲット層を検討するツールとしても使えます。
さて、私が今回最も言いたかったことは、単に「CPMを使おう」ということではありません。
「フレームワークは柔軟に活用しよう」
これが私が言いたかったことです。
フレームワークの軸や要素を読み換えてみる。
それによって活用できる分野は格段に広がります。
PPMに限らず、たとえば経営戦略でよく使われるSWOT分析なども、自分を対象に行いうことで、自身のキャリア戦略を考えることができます。
フレームワークなど、ただの道具です。
王道の使い方をマスターすることは、使い方の基本を押さえるために必須ではありますが、一度マスターしてしまったら、あとはどのように変化させようが、どのような分野に活用しようが、それは使う我々の自由です。
ぜひ、様々なフレームワークを「新しい使い方を開発する」くらいの気持ちで使いこなしてください。
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慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
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