KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2013年12月12日

学習コンテンツも「商品」です

人材育成に携わる者であれば、チェックしておくべきWebサイト。
ここ慶應MCCでも『ラーニングイノベーション論』をご担当いただいている、東大の中原先生のブログに、先日こんなエントリーがポストされました。
『クオリティは高いんだけど、人が集まらない研修コンテンツ!?』
研修に限らず、確かに「中身は良いのに人が集まらない学習コンテンツ」があります。
MCCのプログラムでも、それに悩む担当者が(笑)
しかし、中原先生も書いておられるように、それは学習コンテンツの企画サイド(講師含む)が、「中身は良いと勘違いをしている」場合が多いのも現実でしょう。
要するにプロダクトアウト発想で、学習者の「ニーズを読み間違えている」ということ。
ですから中原先生も、商品開発に喩えてこの問題を切っておられます。
いや、本来「喩える」必要もなく、学習コンテンツは正真正銘の『商品』です。



『商品』とは、もちろん商う(売る)ための品物を意味しますが、その対価(見返り)は、直接的な貨幣だけに限定する必要はありません。
たとえば、社内講師で研修をやったとして、その対価は「成長した社員が将来生み出す価値」で良いはずです。
また、商品とは「顧客に価値を提供する財やサービス」と定義することもできますから、学習者という顧客に価値を提供する学習コンテンツも、間違いなく『商品』です。
であれば、もっと根本的に、学習コンテンツという商品のマーケティングを考えるべきだと思うのです。


ということで、「人が集まらない学習コンテンツ」の問題点を、マーケティングのフレームワークでである4Pで考えてみます。


<Product>
まず商品戦略という視点では、コンテンツそのものに問題がある場合があります。
学習者のニーズやレベル感は合っているか、という根本的なものから、講義と演習のバランス、講師の知識やファシリテーションスキルなど、「商品コンセプト」や「商品の機能・品質」について、細かく見ていく必要があります。
また、消費財の商品戦略にパッケージデザインや商品名などが含まれることを考えると、コンテンツの「ネーミング」が適切かどうかも考えるべきでしょう。
コンテンツのターゲットである学習者が、「これは自分のための研修だ」と思える、そして何を学べるのかがひと目で理解できるネーミングでなければ、どんなに内容が良くても人は集まりません。


<Price>
次に価格戦略の視点では何を考えるべきでしょう。
まず、単純にコンテンツの「価格設定」に問題がある場合があります。
要するに「コストパフォーマンスが低い」と見られていないか、ということです。
また、Priceを顧客のコストと広義にとらえると、「会場までの距離や時間」「日程・時間」の問題も考慮すべきでしょう。


<Place>
チャネル戦略の視点では、「学習コンテンツを提供するルート」を考えるべきです。
社内研修で言えば、集合研修かEラーニングか、という「学習形態」や、「会場の立地条件」などがこれに当たります。
また、商品戦略に入れた「講師の選択」も、同じコンテンツでも、講師によって人の集まり方が違う場合がありますから、チャネル戦略として考えることもできます。


<Promotion>
最後のプロモーション戦略の視点では、まず「告知の方法」について考えることができます。
イントラでのプル型の告知か、メールを使ったプッシュ型の方が良かったのか、あるいはもっとクチコミをすべきだったのか、と言う風に、考えるべきことはいくつもあります。
これに加え、社内研修であれば、学習者の上司へのオリエンテーションも重要なプロモーション戦略の具体策です。


こうして様々な視点で考え、学習コンテンツを開発/改善していくべきなのです。
しかし、実は4Pで考える前に、企画サイドがやるべきことがあります。
それはまさに学習コンテンツ以外の、通常のマーケテイングで4P(マーケテイングミックス)の前にやるべきこと。
そう、現状分析とターゲティング、そしてポジショニングです。
今、我が社と我が社の社員を取り巻く外部環境はどうなっているのか。
何が追い風(機会)で、何が向かい風(脅威)なのか。
また、我が社と我が社の社員の特性は何で、それは「強み」なのか「弱み」なのか。
この現状分析をやらずして、本来4Pのような具体的手段は考えられません。
要するにSWOTを作り、現状を多面的かつ正しく「見る」のです。
これができたら、次は「どういう人達の学習ニーズにフォーカスすべきか?」という対象者を明確にする。
これがターゲティングです。
そしてポジショニング、具体的には、競合商品である書籍や他の研修など、他のコンテンツとの差別化を考えます。
ただ、研修の競合が他の学習コンテンツ「だけ」とは限りません。
たとえば「現状の業務」も、「どちらの方に時間を費やすべきか」という点で、実は学習コンテンツの競合です。
土曜日の研修なら、「遊び」や「家族との団らん」も立派な競合となります。


こうして「マーケティングコンセプト」を明確化し、その具体的実現策を4Pで考えるべきなのです。
そうすれば必ずや「人の集まる学習コンテンツ」が…
と単純にいかないことは、世の中の「ちゃんとマーケティングしたはず」の商品がコケた例をいくつも見ていることから、容易に想像できます(笑)
しかし、少なくとも成功確率が上がることは、これも歴史が証明しています。
また、コケた商品の「ちゃんとしたマーケティング」も、本当に「ちゃんとしてた」かどうかは怪しいものです(笑)

メルマガ
登録

メルマガ
登録