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ファカルティズ・コラム

2014年01月17日

対象に「届くメディア」と「伝え方」

日経BP Onlineにこんな記事がありました。
『100本作って反応なし! お粗末 「子ども事故防止」サイト』
私もここで取り上げられている産総研のサイトを見てみましたが…
確かに、これは典型的な「ダメ動画サイト」と言わざるを得ません。
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では、なぜこのサイトはダメなのか。
その理由は大きく2つあります。
それを説明する前に、記事中で紹介されている、もうひとつの「ダメ動画サイト」も見てください。
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さて、このふたつの「ダメ動画サイト」の共通点はなんでしょう?
「ダメ」とは目的の達成に対して効果が低い(無いとまでは言わないが)ということ。
目的はどちらのサイトも「啓蒙」、つまり「正しい知識を伝えることで、子供の事故に気をつけたり、放射線をむやみに怖がらないなど、適切な行動をとってもらう」ことにあるのは明らかです。
ここでのポイントは、「誰を啓蒙したいのか」です。
そもそも「啓蒙」とは、乱暴な言い方をすれば、「無知が故に間違った行動を取る人々に、正しい知識を与えて適切な行動が取れるようにしてあげる」ことです。
とすると、啓蒙すべき対象は「無知で意識が低い人」、つまりある意味蔑称としての「大衆」です。
ここで考えてみてください。
そうした「大衆」が、わざわざ産総研や放医研のサイトを見に来るでしょうか?
わざわざ探してここにたどり着くような人は、そもそも意識が高い人がほとんどですから、それは本来の対象ではありません。
そう、このふたつのサイトがダメな理由の第1は、「公開場所の選択を間違っている」ことです。
なぜYoutubeやニコニコ動画など、集客力の高いサイトでチャンネルを作って公開しないのでしょうか。
Youtubeやニコニコ動画を「楽しむ」ことを目的とした人が、「たまたま」見つけて動画を見る、という行動を想定しないのが不思議です。
もちろん、自前のサイトが一概にダメなわけではありません。
SEOを駆使して、検索結果の上位に自サイトがくるようにすれば、Youtubeほどでなくても、ある程度の対象が閲覧するのを期待できます。
しかし試しにいくつかのキーワードで検索してみたのですが、両サイトが検索結果の1ページ目に来ることはありませんでした。
やはりそれでは「ダメ」です。
せっかく良い商品が自社にあっても、人通りの少ないところに店を開いたら、全然売れないのと同じ事です。
商品である以上、チャネル(この場合はメディア)のことを考えないのは「ありえない」のです。


そしてもうひとつの「ダメな理由」は、「動画にする意味が薄い」ことです。
放医研の動画は、動画と言ってもメインは完全に「文章」です。
残念ながら、動画はそれを「ちょっとイメージしやすくする」程度の効果しかありません。
また産総研の動画も、別に静止画でも伝える内容は変わらないものがほとんどです。
残念ながら、単に「今は動画がトレンドらしい」程度の意識で作られていると言わざるを得ません。
では、ここで記事で取り上げた「良い動画」の例である、タイの禁煙啓蒙動画を見てください。
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いかがでしょう。これなら、「動画にする価値」があると思いませんか?
このタイの動画と、ふたつのダメ動画サイトとの違いは、「物語の有無」です。
単に「こうですよ」とか「こういうことに気をつけましょう」と言われても、私たちは「なるほどね」で終わります。
アタマで理解しても、心が震えません。
「自分ごと」として、リアルにイメージすることができないのです。
そして、よりリアルに「自分ごと」としてイメージさせ、心を震えさせるのが「物語」です。
動画ではありませんが、なぜ「ザ・ゴール」や「100円のコーラを1000円で売る方法」がベストセラーになったのか。
それはこれらの本が、小説形式で書かれていた、つまりそこに「リアルに自分ごととイメージさせる物語」があったからです。
確かに物語を紡ぐのは簡単ではありません。
読んで、見て、面白いように登場人物を配置し、様々なエピソードを創作し、その中に自分の伝えたいこと、メッセージを埋め込んでいくのは、そもそも小説を書くのが好きな人以外にとっては、とても面倒くさい作業です。
しかし物語は創作だけではありません。
自分の体験談や、過去の著名人のエピソードを使って、自分のメッセージを伝えた経験は、あなたにもあるはずです。
私自身も、講義ではできるだけ自分の体験談や、企業事例などの具体例を盛り込み、その具体例を物語形式で話すようにしています。
そうすると、やはり参加者の「腑に落ちた感」が違ってきます。


今回は「ダメ動画サイト」を題材としましたが、ここから私たちが学ぶべきは、
◆伝えたい何かがあるなら、どのようなメディアを使うべきか。
 →メールか電話かFace to Faceか、あるいはイントラか?
 →伝えたい相手に適切なメディアを選択する。
◆どのようにして伝えると、「自分ごと」としてリアルにイメージしてもらえるのか。
 →「物語」はそこにあるか?
 →相手に応じた「心に響く」伝え方を考える。
ということだと思うのです。

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