ファカルティズ・コラム
2014年03月20日
仕事における『キュレーター』を目指そう
先日、某テレビ局での研修の後、担当者の方と食事をご一緒させていただきました。
その方は元々ラジオの仕事をやられており、また同年代でもありましたので、中学・高校時代のラジオ番組の話題で盛り上がりました。
話題が音楽に及び、私は「渋谷陽一さんは私のハードロックの師匠でした」と懐かしく振り返りました。
「あ、NHK-FMのヤングジョッキーですね」
「ですです。チープトリックやヴァン・ヘイレンはそれで聴くようになりました」
「チープトリックなんかは日本で先に火がついて、それが逆輸入されてアメリカでも売れたんですよね」
「最近よく使われる言葉で言えば、渋谷陽一さんって、私たちにとって洋楽の『キュレーター』だったのかもしれませんね」
『キュレーター』とは、元々は図書館・美術館・博物館などの学芸員を意味しする言葉で、各分野の高い専門知識を持ち、展示会などを企画するのも彼らの重要な仕事です。
そんな彼らには、専門知識に裏打ちされた「目利き」と、膨大なコンテンツを「整理・選別」し、「わかりやすく提示」する能力が求められます。
それが「キュレーション能力」です。
そして今、このキュレーション能力を有したキュレーターの重要性が、広く情報メディアの分野において叫ばれています。
その背景は、やはりインターネット、そしてTwitterをはじめとしたソーシャルメディアの普及でしょう。
今、私たちはネットを通して膨大な情報の洪水に飲み込まれています。
事実や有益な情報も多いものの、不確かな情報やデマ、憶測や極論、そして社会通念上不適切な情報や個人への誹謗中傷も、ほとんど区別されることなく雨のように降り注ぎます。
ソーシャルメディアを火元としたデマの拡散や、突然の「炎上」も、この情報の洪水が原因です。
「何を信じればいいのか?」
「自分にはどんな情報が必要なのか?」
これを個人が全て自己責任で行うのは、不可能な時代なのです。
ここまで情報の洪水が激しくなかった時代では、新聞やテレビがキュレーターとしての機能を果たしていました。
しかしネットが普及し、それにgoogleに代表される検索機能が加わることにより、私たちは「自分の知りたい情報だけを探す」ようになりました。
その結果、「広い見識」を持たない人が多くなってしまったことも、キュレーターが必要とされる理由でしょう。
「NAVERまとめ」や数多の「2chまとめ」サイト、そしてtogetterやBLOGOSなどは、ネット上のキュレーターとして機能し、増え続けています。
ではここで、本来の意味である「人」としてのキュレーターに着目してみましょう。
映画や音楽の評論家は、昔も今もキュレーターであることは明らかです。
そして今、社会や政治の状況について、最も信頼されているのが池上彰さんでしょう。
彼がキュレーターとして信頼されているのは、そのキュレーション能力の高さにあります。
NHKの記者として培った専門知識はもちろんのこと、様々なニュースの中から「知っておいてほしいこと」を選別し、さらにそれを子供でもわかるように(当然NHKの「週刊こどもニュース」の経験が大きいでしょうね)、比喩を交えてわかりやすく伝える能力は、現時点では「敵無し」と言ってよいでしょう。
また、彼が他のアンカーマン(ニュースショーのメインキャスター)と根本的に異なるのが、ニュースを伝える際の「中立性」です。
多くのアンカーマンが、イデオロギー的にかなり右か左に偏っており、自身の価値観に基づく主張を行うのに対し、彼はほとんど主観的な意見を述べません。
政治家などへのインタビューにしても、あくまでも「視聴者の代理」として質問し、突っ込みを入れます。
これもまた、彼がキュレーターとして信頼される大きな要因でしょう。
さて、このキュレーター、私たちの「仕事」という視点で見ると、どう考えるべきでしょう。
まず言えるのが、「自分が信頼できるキュレーターを持つべき」ということでしょう。
仕事に関わる様々な情報を、「社内の誰から」あるいは「どのようなメディアから」入手すべきか。
あれこれと自分で情報収集するのは、あまりにも非効率的。
「こんな時は○○さん」「こんなときはこのサイト」、という人やメディアとしてのキュレーターをあらかじめ分野別に決めておき、その人/メディアから概略を入手。そこからの深掘りは自分でやる、というのが、賢い情報収集法です。
ただし、「なんでもかんでもキュレーター頼り」では、ただの「教えてクン」になってしまいますから、そこは注意したいところです。
そして、それ以上に重要なのが、「自分がキュレーターになる」こと。
特にチーム等の組織を率いるリーダーには、キュレーション能力が必須と考えます。
メンバーが情報の洪水の中で溺れてしまったら、業務効率は著しく下がります。
様々な情報を取捨選択し、メンバーにとって必要な情報をわかりやすく伝える。
時には「それなら○○を読んでみたら?」とアドバイスする。
そのためには当然、仕事に対する広く・深い専門知識が必要です。
ということは知識を鎮撫化させないための「継続的な情報収集と分析」を行わねばなりませんが、自分ひとりの情報収集には限界がある。
ここで、先に述べた「自分が信頼できるキュレーターを持つ」ことが重要な意味を持ちます。
そうして他社の力も借りながら、情報に対する「目利き」能力を養うのです。
また、わかりやすく伝えるためのコミュニーション能力も重要です。
伝えたいことをロジカルに整理し、時にはメタファー(比喩)やストーリーテリングも駆使しながら相手にとって「わかりやすく」「自分事として」伝えるのは、リーダーの必須スキルとすら言えます。
加えて、池上彰さんのように中立的であることも意識すべきでしょう。
モノゴトの片面しか見ないのでなく、正負両方の側面をしっかり認識し、語る。
それがリーダーとしての公正、公平な姿勢を見せ、メンバーからの信頼に繋がります。
そしてこうしてキュレーターとしての能力は、単にメンバーから信頼されるだけでなく、上司や顧客、取引先から重宝され、信頼を勝ち取ることにも直結します。
「この人に相談したら大丈夫」と思ってもらえたら、それはかけがえのないパートナーとして認識されたことになるからです。
あなたもぜひ、キュレーション能力を磨き、仕事におけるキュレーターとして活躍してください。
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福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
私にとっての道は、TBSにありました。『VIVANT』は、同じような夢を持つ若者たちの道標になってほしい、そんな思いも込めてチャレンジした作品です。日本のドラマ界、映画界を目指す皆様、夢はあるけど方法がわからない皆様の一助になればと願っております。
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