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ファカルティズ・コラム

2007年06月22日

「風が吹けば桶屋が儲かる」の論理(前編)

「風が吹けば桶屋が儲かる」
江戸時代から続く笑い話としてご存じの方も多いと思いますが、この話は因果関係という論理構造によって構成されています。
風が吹く
 ↓
砂埃が舞って人の目に入る
 ↓
町中に目が不自由な人が増える
 ↓
角付け(かどづけ:軒先で三味線を弾いて稼ぐこと)を生業とする人が増える
 ↓
三味線の需要が増える
 ↓
三味線には猫の皮を使うので、猫が乱獲されて激減する
 ↓
天敵の猫が減ると、ネズミが増える
 ↓
増えたネズミに桶がかじられて、町中の桶が使い物にならなくなる
 ↓
桶の注文が殺到する
 ↓
桶屋が儲かる
いかがでしょう?
「こじつけだろうそんなの」とか、「それだったら三味線屋の方が儲かるのでは?」など、確かに突っ込みどころ満載です。
ですが、我々は本当にこれを笑い飛ばすことができるのでしょうか。
これに近い論理を、深く考えずに受け入れてしまっていないでしょうか。


たとえば『少子化問題』について考えてみましょう。
「少子化は国内労働力の低下を招き、国力を衰退させる」というのはよく聞かれる論理ですが、これも「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じ因果関係で影響を説明しています。違うのは、「労働力減少」が間に入っている、つまりほんの少し説明が具体的になっているだけです。
ところが、少子化における主張に対しては、なんとなく納得してしまう人が多いのではないでしょうか。
では、ここで考えてみてください。
少子化は国内労働力の低下に直結しますか? 間に入る事象はありませんか?
そういう視点で考えてみると、「少子化」→「人口減少」→「日本人労働者の減少」→「国内労働力低下」という連鎖が見えてくるはずです。
ですが、「日本人労働者の減少」→「外国人労働者の増加」という連鎖もあるはずで、そうすると、「国内労働者の減少」に疑問符が付きます。(もちろん「外国人労働者の増加」の是非については議論の余地がありますが)
また、国内労働力の低下も本当に国力の衰退に直結するのでしょうか。そもそも国力の高低を評価する基準や指標は何なのでしょうか。GNP? それともGDP?
抽象的な言葉でなんとなく煙に巻かれているだけではありませんか?
そして、事象の連鎖は一方向にしか繋がらないものではないはずです。
たとえば、「人口減少」からは「日本人労働者の減少」にしか矢印が引けないわけではなく、「消費者減少」にも繋がりますし、さらにそこから「国内需要の減少」→「供給過剰」→「デフレ加速」という因果関係も考えられるはずです。
そうすると、「労働者の減少より消費者の減少の方が国内経済に与える悪影響は大きいのではないか?」という考えも浮かんでくるかもしれません。
他にも人口減から「税収減」→「公共事業縮小」→「地方の建設会社倒産件数増加」も、悪影響として出すことが可能ですし、逆に巡り巡って「森林伐採の減少」→「CO2排出削減」という好影響も考えられるはずです。
こうして事象の連鎖を広く・深く追いかけていけば、様々なことが見えてくるわけで、これもまた『自分の頭で考える』ことなのです。
「風が吹けば桶屋が儲かる」を笑うのであれば、少子化問題への浅い主張に対しても、鵜呑みにすることなく、「それは論理の飛躍が多いよ」と指摘できるようになりたいものです。
さて、次回はこの因果関係という論理構造を、日々の仕事や生活に活かすということについて、もう少しお話しさせていただきたいと思います。

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