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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2014年04月25日

自己肯定感を高め、自信をつけさせる

前回、『弱虫ペダル』を題材に、リーダーシップについてお話ししました。
その中で、主人公のいる千葉総北高校の金城主将の、チームと戦略における各メンバーの「位置づけ」を明確にする、つまり「役割を与える」という特徴的なリーダーとしてのスタイルをご紹介しました。
主人公の小野田クンは、もともと自分に全く自信がありません。
友達はいないし、毎週秋葉原にひとりで出掛けるオタクです。
最近よく使われる言葉で言えば、とても『自己肯定感』の低い人材です。
しかしこんな彼も、鳴子や今泉という同じ一年生との関係から、そして金城や巻島、田所という上級生から与えられた役割によって、自分の自転車の才能に目覚め、そして自己肯定感を高め、レースで力を発揮できるようになります。


しかし、この『自己肯定感』とはそもそも何なのでしょうか?



自己肯定感とは、読んで字のごとく「自分を肯定する感覚」のことですから、少なくとも「自分はダメなヤツじゃない」と思えることでしょう。
しかしそうすると「『自信』と何が違うの?」という疑問が湧いてきます。
ここからは私なりの解釈になりますが、『自信』は「ある/ない」で表現するのに対し、『自己肯定感』は「高い/低い」という表現をすることに着目してみました。
つまり自信は絶対評価であり、自己肯定感は誰か、あるいは過去といったなんらかの基準に照らし合わせた相対評価であるという点が違います。
もっと言えば、自信は根拠なく持つことができますが、自己肯定感には根拠が必要なのです。
ですから、自己肯定感の低い小野田クンのような人がそれを高めるのは難しいのです。
なぜならば、彼には「友達がいない」からです。
もちろん自分なりに基準(たとえば仕事であれば作業時間とか)を設けて、それをクリアすることで自己肯定感を高めることも不可能ではありません。
しかしそんなことを自発的にできる人は、そもそも自己肯定感が低いとは考えにくい。
小野田クンだけでなく、ビジネスパーソンでもそうした「自分自身で自己肯定感を高められない」人は多いのです。
ですから、自己肯定感を高めよう、あるいは誰かの自己肯定感を高めてあげようと思ったら、それには周りの協力が必要です。
周囲が、「お前自分が思っているよりよくやっているし成果も出している」ことを伝えることで、「自分は役に立っている」と認識させる。
あるいは金城主将のように、「これはお前にしかできない」と明確に役割を与える。
これらに共通するのは、「居場所を作ってあげる」ことです。
「自分はここに居ていいのだ」
「自分は必要とされている」
そもそも、人は周りとの関係無しに自己認識はできません。
「自分が何者なのか」は、家族や仕事仲間、あるいは同好の士の存在があるから認識できるのです。
こうして周囲が居場所を作り、自己肯定感を高めてあげる。
それによってある人材がモチベーションを高め、結果的に組織に貢献してくれます。
「もっと自信持てよ」だけでは足りないのです。


ただ、モチベーション理論では、周囲からの期待や報酬(物理的インセンティブだけでなく、褒めるという形のないものも含む)によって高める『外発的動機』より、「仕事そのものが楽しい」といった『内発的動機』の方が持続性が高いと言われています。
実は小野田クンも「一緒に走るのが楽しい」や「(ペダルを)回せば回すほど前に進むのって楽しい」という内発的動機も、自転車に真剣に乗るようになってから芽生えてきました。
ですから、居場所を作ってあげることで外発的動機を高めることと併せて、たとえ部分的な作業ひとつでも、「仕事自体が楽しい」と感じさせることも重要です。
では、どうやってそれを感じさせればよいのか?
そこで有効なのが、コーチング的なアプローチです。
「何やってる時が面白かった?」や「仕事してて時間を忘れるのって何してる時?」と聴き、気づかせてあげるのです。
また、「なんか楽しそうにやってるなあ」という指摘も良いでしょう。
こうした取り組みによって、「自分はこれが楽しいんだ」となれば、それは自分の得意分野にもなりやすい。
つまりこれは『自信』をつけさせることになるのです。


「居場所を作ってあげる」ことで自己肯定感を高め、「楽しいことに気づかせる」ことで自信を付けさせる。
これは人材マネジメントの両輪とも言えるのではないでしょうか。

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