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ファカルティズ・コラム

2014年12月22日

情報メディアの潜在的情報ニーズへの対応

新聞や雑誌といった既存の紙メディアの不振が続いています。
新聞を例に取れば、10年前、2004年の約5,300万部から、2013年度は約4,300万部と、10年足らずの間に1,000万部、20%近くも発行部数は減っています。
その背景としてインターネットや、スマートフォンをはじめとしたモバイルメディアの普及があるのは当然です。
手軽に、そして無料で情報を得ることが可能なメディアがある。
だから邪魔になる、そして有料である新聞・雑誌など不要。
至極当然の「破壊的イノベーションによるパラダイムシフト」と言えるでしょう。
しかし本当に「競争環境の変化」だけが理由なのでしょうか?




我々は本当に情報に対してお金を払う、その優先順位が低下したのか?
そうとは言い切れません。
日本最大の料理のレシピサイトであるクックパッドのプレミアム(有料)会員は、2010年には約20万人でしたが、2014年度の途中で130万人を突破しました。
同様に、ニコニコ動画の有料会員も、2010年の100万人から、昨年6月には200万人を突破しました。
また、会員システム以外でも、LINEのスタンプやソーシャルゲームのアイテムなどにお金を払う「都度課金ユーザー」も増えています。
これらの事実は、「本当に欲しい情報には、顧客はお金を払う」ことを意味しています。
そしてこれは、「不要な情報にはお金を払いたくない」と言い換えることができます。
あなたは、新聞や雑誌の記事を隅から隅まで読みますか?
たぶんそういう人は少数派でしょう。
多くの人は、自分が興味のあるジャンルをセレクトし、そしてそのジャンルの記事にも優先順をつけ、じっくり読む記事と斜め読みする記事を取捨選択し、そして読んでいるはずです。
これは「読まない記事にもお金を払っている」ことになります。
「新聞や雑誌なんてそういうもの」と私たち、特に中高年層は思いがちですが、「そんなもったいないことはやりたくない」と考える人たちが増えています。
様々な情報のバンドル(「束ねる」および「セットで売る」の意)を「無駄」と感じる人たちは、新聞や雑誌から離れるのは至極当然なのです。
また、テレビの視聴率低下の傾向と併せて考えれば、「情報は能動的に取りに行くものであり、受動的に待つものではない」という意識変化も、新聞・雑誌が振るわない背景と考えることができます。


とは言え、こうした(特に若い人の)傾向には、異を唱えたいところではあります。
バンドルされた様々な情報に受動的に触れることには、メリットも多いからです。
メディアを問わず、たとえ興味が無くても「たまたま目に付いた」情報が、自分や組織にとって大きな価値があった、というケースはたくさんあります。
これは別に仕事だけの話ではなく、たまたま見た新聞のテレビ欄で、見たかった映画が今夜放映されるのがわかって録画予約ができた、などというケースは多くの人が経験しているのではないでしょうか。
このように、選り好みせずに情報のシャワーを浴びることは、私たちにとって必要なことなのです。


ただ、こうして「イマドキの若い人たち」に説教をしていても始まらないのも、また確かです(笑)
となると、新聞や雑誌は、というより新聞社や出版社はどのように方向転換をすべきか、これを考えなくてはなりません。
もちろん、そこに唯一の正解などありません。
そして各社とも、コンテンツのデジタル化を始めとした、様々な試みを行っています。
しかし私なりに考えると、ひとつの方向性が見えてきました。
キーワードは「アンバンドル」「パーソナライズ」「キュレーション」です。
「アンバンドル」とはバンドル、セット販売の逆で、今までセット売りしていたものをモジュール化し、バラ売りをすることを意味します。
「パーソナライズ」とは、特定の個人向けにするということ。
そして「キュレーション」とは、このブログでも何度かお話ししているように、情報の収集・整理を代わりにやってあげることです。
この3つのキーワードを組み合わせると、たとえば「自分専用の新聞や雑誌」が可能となります。
現在はそれに近いことを、GunosyやSmartNewsなどのキュレーションメディアが行っているわけですが、「本当に自分のための情報が精選されている」というレベルにはほど遠いのが現状です。
であれば、コンテンツ元である新聞社や雑誌社にも、いや、コンテンツ元ならではのキュレーションメディアの可能性が残されていると考えています。
そして個人的には、(誰がやるかは別として)今後のキュレーションメディアでポイントとなるのが、「潜在的情報ニーズの提案機能」だと考えています。
キュレーションメディアを利用するにあたっては、まず自身のプロフィールとともに、自らの興味・関心ある分野を登録することになります。
しかしこれで届けられる情報は、自身の「顕在的情報ニーズ」に合致したものだけであり、「そうそう、こういう情報も必要だったんだよ!」とユーザーが感じるような「潜在的情報ニーズ」は満たしてくれません。
顕在的情報ニーズを満たしながら、潜在的情報ニーズも満たしてくれる。
そんな情報メディアがあれば、誰しも利用しようと思うのではないでしょうか。
この「潜在的ニーズを満たす」のは、情報メディアだけでなく、全ての商品・サービスのマーケティングにおけるキモと言えます。
当然課題は多いです。
何を元に個人の潜在的情報ニーズを探るのかという点。またそのプロセスにおけるプライバシーの問題。そして外れを繰り返せば、結局「ただのバンドル」と見なされてしまいますから、その精度を上げる技術も重要です。
しかし不可能ではないようにも思うのです。
どこかが早く実用化してくれないものでしょうか。

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