ファカルティズ・コラム
2015年02月27日
カフェとノマドとWiFiと
先日ネットでこんな記事を見つけました。
『カフェ占領する「ノマド」批判に反論 「ネット環境で客を呼んでいるのは店だろ?」』
ある調査によると、カフェやファミレスなどで仕事や勉強をしている人に「家や会社でやってほしい」と思うと答えた人が32.3%という結果が出たとのこと。
これに関してネットでは、「マナーの問題」「空気読め」などの想定通りの意見に加え、「『空いた時間もMacbookを使って仕事をしているオサレな自分』をアピールしたいだけ」のような、所謂「ノマド批判」が多く見られました。
また一方では、「長くいようが客の自由」「店側の問題」「電車なら文句言われないのに理不尽」など、ノマドを擁護する意見も当然ありました。
最近のカフェやファミレス、ファストフード店などの外食産業では、電源コンセントや携帯キャリアやISPのWiFiが完備された店も増えてきてますから、PCやタブレットなどで「腰を落ち着けて仕事や勉強する」環境が増えているのは紛れもない事実です。
私自身としては、ノマドという働き方については「他人事だけどそれもひとつの方法論として認める」という立場です。
また、このブログでマナーについて語るつもりもありません。
よって本日は、マナーやノマドの是非という視点でなく、「マーケティング」の視点で考えてみたいと思います。
結論から述べます。
「単なる客サービスでWiFiやコンセントを店が提供するのは愚策」
これです。
過去のエントリーでも書きましたが、企業の重要指標である「売上高」は、「客数」と「客単価」のかけ算で考えることができます。
外食産業であれば、この「客数」はさらに「店舗数」と「一店舗あたり客数」のかけ算に分解できます。
売上高を伸ばそうと思ったら、理想は「客数も客単価も増やす」ですが、これは簡単ではありません。なぜならば、客数を増やす近道は値引きなどの「低価格化」であり、そうすると客単価は減ってしまうからです。
ただし、客単価を上げて一店舗あたり客数が減ったとしても、店舗数が増えればトータルの客数を増やすことは可能です。これも当然のロジックですね。
しかしながら、成長市場ならまだしも、日本の外食マーケットは飽和状態であり、拡大路線で成長してきたマクドナルドやワタミが、店舗数を減らす傾向にあることはご承知の通り。
よって店舗数の拡大による客数と客単価の両立も、正直現実的とは言えません。
もちろん画期的な新商品などで、客数と客単価双方を増やすことも不可能ではありませんが、外食産業ではそれも難しいのが現実です。
このように、残念ながら(外食に限らず)客数と客単価はトレードオフの関係になりやすいのです。
であれば企業がある事業の売上拡大という命題に対して考えるべきは、「客数と客単価のどちらを重視して売上を伸ばすか」。
ちなみに、わざわざ「ある事業の」と但し書きをつけたのは、企業が複数の事業やプランドを有している場合は、事業・ブランド毎にその方針を変えることが可能だからです。「この事業は客数重視、この事業は客単価重視」という具合にポートフォリオを組んで、全社として売上拡大を目指せばよいわけですね。
話を本題に戻しましょう。
カフェやファミレスなどが、客席にWiFiやコンセントを設置したら、それは客数と客単価、どちらにプラスに働き、どちらにマイナスに働くでしょうか。
はい、「客数にはマイナスに働く」のは当然ですね。
充電には時間がかかりますし、PCやタブレットでWiFiに繋いで操作していたら、客の回転率が落ちるのは自明だからです。24時間営業の店でも、1日は24時間より増えませんし、席数も決まっていますから、ひとりの滞在時間が長ければ、それだけ1日の客数は減ってしまいます。
では、「客単価にはプラスに働く」のか?
これは「期待できる」というレベルで、確実に増えるとは言いにくい。長居をすることで注文数が増えれば、客単価を増やす(客単価は商品単価と注文数に分解できる)ことに繋がりますが、長居をする客が全員注文数が増えるとは言い切れないからです。
それこそ記事にあるように、コーヒー一杯で何時間も粘る人もいますから。
以上のことから、「客席にコンセントやWiFiを完備するのは、客単価を重視した店舗である」という仮説が立てられます。
しかし考えてみてください。
あなたが利用したことのあるコンセントやWiFiのある店は、本当に客単価重視の店ですか?
たとえばマクドナルドは?
もうおわかりですね。
安さが売りの店、つまり客数重視の(はずの)店で、これらの設備を行うのは、重視しているはずの客数を自分達で減らしていることになるのです。
自分で自分の首を絞める。まさに愚策としか言いようがありません。
だから私がこの記事にコメントするとしたらこう言います。
「マナーとかノマド論は置いておいて、店に対して迷惑かどうかは考える必要なし。なぜならば、それは店の自業自得だから」
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