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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2015年08月12日

ソリューションからビジョンへ

私事ですが、夏休み中にも関わらず出勤しています。
そんなことはどうでもいいですね。ちょっと愚痴りたかっただけです(笑)
さて、私の専門であるマーケティングや新規事業開発において、情報収集は不可欠です。
特に技術動向、その中でもICT(Information and Communication Technology)については、全ての産業に深く関わるという点、そしてその進歩のスピードが速いという点において、こまめに最新の知識を仕入れておく必要があります。
ですから書籍やネットだけでなく、積極的に展示会やセミナーにも行くようにしています。
しかし、そうした展示会やセミナーに参加し、様々な企業のブースに立ち寄り、話を聞く中で、私の中で次第にある危機感が芽生えてきました。
その危機感とは、「日本企業は、これらの技術を戦略ではなく、戦術レベルでとらえているのではないだろうか」ということです。





これはどういうことか。
まず、戦略と戦術の違いという視点で考えてみましょう。
そもそも、戦略(Strategy)と戦術(Tactic)は、その階層と時間軸が異なります。
課題のレイヤー(階層)としては戦略の方がより上位、つまり戦略を実現するための具体的手段が戦術であり、それはいきおい戦術の方が短期的、戦略はそれより長期的な課題であることを意味します。
各ICT企業のブースに展示されているソリューションからは、「既存の顧客ニーズに今応えよう」という姿勢は感じられても、「今後顕在化するであろう(つまり今は潜在的な)ニーズに応えよう」という姿勢が感じられないのです。
つまり顧客の短期的課題、つまり戦術レベルでの問題解決(ソリューション)にとどまっており、中長期的課題、つまり戦略レベルでの先見性(ビジョン)に欠けるのです。
そしてそれは顧客に関してだけでなく、提供するICT企業も戦術レベルで競うだけで、戦略レベルでの差別化が実現できていないのです。


では次に、技術トレンドという視点で考えてみましょう。
さて、ICT系における昨今のキーワードは何でしょうか。
数年前なら、「クラウド」でしょう。しかしこれは今や一般大衆にも浸透し、完全にインフラとして定着しました。
その後はやはり「ビッグデータ」であり、それに加えて「AI(Artificial Intelligence:人工知能)」、「IoT(Internet of Things:全てのモノがインターネットに繋がる)」そして「ロボット(ドローンや自動運転車も含む)」でしょう。
これらのキーワードは、独立した技術でありながら、密接に関連しています。
従来のPCやスマホだけでなく、監視カメラや様々なセンサーに駅の自答改札、そして家電や自動車までもがインターネットに常時繋がっている『IoT』が実現する。
それら様々なインターネット端末からは膨大なデータが収集され、そこからヒトの行動パターンなど、様々な知見を得るという『ビッグデータ』の活用が進む。
コンピュータはそうしたビッグデータを基に、「こういうときはこう考えるのがベター」のように、自己学習を行って勝手に賢くなって『AI』が発展する。
そうしたAIに加え、工学的な技術が進歩することで、「自分で考え、複雑な行動を取る」ことのできる『ロボット』が進化する。
またロボットも当然独立したインターネット端末として、様々な情報を収集し、次のビッグデータ活用に繋がる。
ですから構造的には、「IoT→ビッグデータ→AI→ロボット→IoT」というサイクルとして、これらの技術はとらえることができます。
となれば、これらのキーワードは単独で考えるべきものではなく、その組合せで考えるべきです。
しかしながら、ICT各社の取り組みを見ていると、「IoT:スマホで家電をコントロール」「ビッグデータ:売上データから需要予測」「AI:コンピュータによるジョブマッチング」「ロボット:受付案内ロボット」のように、単独の技術、そうでなくてもせいぜい2つの技術の組合せによるソリューションがほとんどを占めています。
では、なぜそうなってしまうのか。
その理由としては、やはりどうしても「今すぐできる自社の得意技術を活用したソリューション」から考えてしまうからだと思います。
ここからも、日本企業が中長期的視点に欠けた「戦術レベル」に終始していることが見て取れます。
自社に無い技術が必要ならば、どこかと組めばいいし、場合によってはその分野に特化したベンチャーを買収すればよいのです。
GoogleやAmazonが、今どのような動きをしているか、知らないわけではないはずですから。


私はソリューションを、そして戦術の重要性を否定しているわけではありません。
しかしソリューションと戦術は、あくまでも道具です。
その上位レイヤーには、「ビジョン」と「戦略」があるはずです。
日本のICT企業には、今一度各社それぞれ異なる「ビジョン」と「戦略」を明確にしてほしいのです。
トヨタやマツダを見てください。
日本の自動車メーカーには、それぞれ異なる、そして欧米企業のどこも真似できないようなビジョンや戦略があります。
ICT系、ひいてはエレクトロニクス産業全般でもそれができないはずがないのです。

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