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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2015年11月13日

顧客は「何に」お金を払うのか

もうすぐ、「スターウォーズ」の最新作が公開されます。
あなたは観に行きますか? 私は…「気が向いたら観に行こうかなあ」と思っています。
ファンの方、申し訳ありません(笑)
では、「行くに決まってるじゃん」という方、それも自分のお金で観に行く方にお尋ねします。
あなたは、あの映画を観に行くという行為の「何に」お金を払うつもりなのですか?
「いや、楽しみにしてたから、だけど?」
うーん、そういう答を効きたいわけではないのです。
たとえば…、「ハン・ソロのその後を確認したい」から、お金を払って観るのでしょうか。
それとも、「流行はとりあえず押さえることで、会話のネタを仕入れたいる」から?
あるいは、「映像に圧倒されたい」から?
単に「観る」のでなく、お金を払うに値する、どのような「価値」を求めているのですか?





「そんな小難しいこと考えてねーよ」
はい、申し訳ありません。別に楽しみにしている人を不快にさせたいわけではないのです。
しかし、こうしたことを考えることこそ、商品やサービス、そして事業の開発や営業・マーケティングに関わる人間に、等しく必要だと思うのです。
そう、顧客は「何に」お金を払うのか、ということに。
「顧客はドリルがほしいのではない、穴が開けたいからドリルを買うのだ」とは、マーケティングの格言として有名ですが、まさにこの原点に立ち戻るべきです。
「観客はスターウォーズが観たいのではない、○○をしたいからスターウォーズを観るのだ」ということです。
この「○○」に様々な「顧客にとっての価値」を表現した言葉が入るわけですね。


では、別の質問です。
iPodはどのような「顧客にとっての価値」を提供したから、ヒットしたのでしょう?
「外出先でも好きな音楽が聴けること」?
「ジョギングしながら音楽が聴けること」?
でも、これらは先駆者であるウォークマンでも既に実現していた「価値」ですよね?
「iPodならでは」の価値って?
こうした「顧客価値」を考える際のコツが、この商品/サービスによって、顧客は「何ができるようになる」のか、そして「何をしなくてよくなるのか」を考えることです。
こうした考えれば、いくつもの「iPodの顧客価値」が見えてきます。たとえば…
◆所有している音楽すべてを外に持ち出せる
はい、もともとiPodのコンセプトは「リスニングルームを外に持ち出す」でした。
今までの携帯音楽プレーヤーでは、自分でカセットテープやCD、MDに「編集して格納する」ことが必要でした。
しかしそうした外部メディアでなく、内蔵のハードディスクを使ったiPodでは、まさに「所有している音楽すべてを外に持ち出す」という価値を提供したのです。
そう考えると、それはこうも言い換えられます。
◆面倒くさい編集をしなくてよくなる
他にも、iPodにはハードデイスクの特徴を活かしたランダムに曲を流す「シャッフル」という機能があります。これはつまり、
◆自分専用のラジオ局を手に入れることができる
という価値も提供していたわけです。
そしてここがポイントなのですが、これらの価値は、今まで誰も(つまり他の携帯音楽プレイヤーが)提供していなかったのです。
そう、これらはAppleだけが気づいた「顧客の潜在的ニーズ」だったのです。


本ブログでは、以前から何度か、この潜在的ニーズには言及してきました。
顧客が「ほしい」と言っている「顕在的ニーズ」だけに対応しても、それは他社でも可能であり、それでは「差別化」など不可能です。
差別化のためには、なんとかこの「潜在的ニーズ」を見つけるしかないのです。
その方法のひとつが、以前ご紹介した「行動観察」。
未来の社会や市場環境などを想像する「シナリオプランニング」なども、この潜在的ニーズを見つけるためには有効です。
しかし、そうやって苦労して見つけた潜在的ニーズも、真に潜在的ニーズだったかどうかは、実際にやってみるまでわかりません。
「潜在的」ということは、「不確実」なわけですから(笑)
だから失敗もあるでしょう。
試行錯誤は避けて通るわけにはいかないのです。
しかしこの試行錯誤を「面倒くさい」と思ったり、「リスクがあるから無理」と思っていては、いつまでたっても差別化はできないのです。
さて、あなたの関わる商品やサービス、そして事業は、どのような顧客に「何を」価値として提供していますか?

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