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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2015年10月30日

『プロダクト・アウト』の復権

前回のエントリーで言及した「CEATEC JAPAN」や「IT Pro Expo」に参加し、そして様々な書籍・ネットの情報を読み解くにつれ、私の中でひとつの仮説が大きくなってきています。
それは…
「今の時代は、再び『プロダクト・アウト』型のビジネスやマーケティングが必要なのではないか?」
という仮説。
言い換えるなら、「ニーズ・オリエンテッドで発想するのではなく、シーズ・オリエンテッドで発想した方が良い」ということです。





ご存じの通り、ここ2~3年の技術革新の「数とスピード」は、私たちの想像を超えています。
中心となるITC系では、IoTやビッグデータ、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)。
そこに工学系が加われば、前回お話ししたハプティクスやロボット。
さらに医学・生理学では細胞に腸内細菌などなど、技術トレンドを追いかけるのも一苦労と言える状況です。
このような時代において、今まで「正しい」と思われていた『マーケット・イン』の発想だけでは、イノベーションを起こすこと、少なくとも競合と差別化することは難しくなっているように思うのです。
歴史的に見れば、確かに「プロダクト・アウトは古く、マーケット・インの方が新しい」のは事実です。
マーケティングにしても、「作ったモノをどう売るか」というサプライヤー側の利益を重視した考え方から、「市場(顧客)のニーズにどう応えるか」という、顧客とサプライヤー両方のWIN-WINの関係を重視した考え方に変化してきました。
だから「少品種大量生産」から「多品種少量生産」の時代に変わってきたわけです。
この多品種少量生産の流れが変わることはまずありません。
価値観はますます多様化し、さらにそれに応える技術(その最たるものが3Dプリンターです)も進展しているからです。
ただ、さらに多品種少量生産の時代、そしてよく言われるような「モノからコト」への消費者の志向が加速するからこそ、私は「プロダクト・アウトの復権」が必要だと思うのです。


具体的な例で考えてみましょう。
全てのモノがインターネットに繋がる、つまりIoTが実現する。
そしてされらのモノから得た情報がクラウド上に集まる、つまりビッグデータとして蓄積される。
そうしたらどのようなことが実現できるのでしょうか。
たとえば、自宅の本と本棚がネットに繋がったら?
個人を特定する情報を除いたとしても、様々な情報が集められます。
世帯当たりの平均的な蔵書数がわかるのはもちろんのこと、Aというジャンルの本を読んでいる人は別のどのジャンルに興味があるのか。
どのような本の並べ方をする人が、どのようなジャンルを好きな傾向があるのか。
ちょっと考えただけでも、ビッグデータから様々な傾向・パターンが見えてくることがわかります。
では、私たちのお財布がネットに繋がったら?
ルンバのような全自動掃除機に各種センサーやカメラが付き、そしてネットに繋がったら?
では、それらの傾向・パターンは何に活用できるのか?
こう考えれば、様々な『プロダクト・アウト』型の商品・サービス、そして事業のアイデアが出てくるはずです。
格好良く言えば、数多くの「イノベーションの種」が生まれます。
そして次にこう考えれば良いのです。

「さて、どのアイデアが実現可能か?」
「そしてどのアイデアが顧客の潜在的ニーズにマッチするか?」

もちろんひとつに決められない場合もあるでしょう。
そうしたら「小規模なところから」やってみれば良いのです。
発想のプロセスこそ違え、試行錯誤、たとえばテストマーケティングのような手法は昔からあるのですから。


「何がヒットするか?」
それを100%言い当てられる人など、誰一人いません。
成功確率を100%にすることも、失敗確率を0%にすることも不可能です。
であれば、「この技術(そして組合せ)で実現できるものは何か?」、それによって誰が「何ができるようになるのか?」「何をしなくてよくなるのか?」。
こうしてプロダクト・アウトで発想し、試行錯誤しながら検証する。
このプロセスを複数、それも高速で回せる企業がイノベーションを起こすのです。
今や「業種」という従来の枠組みは通用しません。
それは技術革新という要因とともに、自社単独でできないことでも、誰かと組めば可能だからです。
冗談抜きで、今ほど「誰にでもチャンスがある」時代はないのです。

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