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ファカルティズ・コラム

2017年03月31日

AIを活用するために考えるべきこと

新規事業開発のお手伝いをする中で、今や「AI(人工知能)」というキーワードは避けて通れません。
個人やチームで事業企画やイノベーションプランなどを作ってもらうと、必ず誰かが、あるいはどこかのチームがAIの活用を提案します。
しかしAIは魔法の箱ではありません。
AIというブラックスボックスに、質問を入れれば必ず正解が返ってくるというのは、単なる幻想です。
だから私も「AIで何ができて何ができないのか」「現状のトレンドと今後の見通しは」、そして「結局ビジネスにはどう活用できるのか」を考えるために、日々情報を収集し、セミナーにも顔を出すようにしています。
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さて、「AIをビジネスに活用する」を考えるために、まず活用のパターンを整理しておきましょう。
私は以下のように考えています。

—————————————————————
1. AIを活用した新たな商品・サービスを創造する
 1-1. AIのエンジン等、システムの部品(構成要素)を開発・提供
    ・Google傘下のDeepMind社等
 1-2. AIを活用したSWアプリケーションを開発・提供
   ◆インターネット上のプラットフォーム
    ・Facebook, Salesforce等
   ◆業種/業務に特化したアプリケーション/サービスやコンサルティング
    ・転職マッチングサービス等
 1-3. AIを組み込んだHWや施設等、リアルなモノや場を開発・提供
    ・自動車メーカー(自動運転車)、ロボット等
2. AIを組織内の仕組みに導入する
    ・法務文書チェックシステム等
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言うなれば、大きくは「AIで外を攻める」と「AIで中を改善する」という2つの選択肢があるわけです。
そして「外を攻める」、これが新規の事業/商品・サービスの開発であり、これがさらに合計4つのビジネスモデルとなります。
では、今あなたが、そしてあなたの会社が取り組むべきは、このどのパターンでしょうか。
「ウチには関係ない」ということはないはずです。
今や、AIに向き合わない個人・組織は取り残され、それこそAIにその立場を奪われるだけです。
たぶん本エントリーをご覧の方々は、上記1-2や1-3、あるいは2のパターンになるでしょう。
そして活用のパターンが見えてきたら、それが実現可能かどうかを考える。先に述べたように、AIは魔法の箱ではないからです。
AI、というか「活用可能なAI」は、ディープラーニングによって生み出されます。
与えられたゴールに向かって自分で認識、判断し、私たちに答を返してくれる。
そのためには、認識・判断能力を「人間以上に高める」ための『情報』が必要不可欠です。
私たちは教わらなくとも母国語を話せるようになる。
それは日々周りの大人や兄弟達の会話を見て、聞いて「勉強」しているからです。
AIも、勉強するための情報がなければ、何もできない生まれたばかりの赤ん坊と同じであり、教材として膨大な量の情報、データが必要不可欠。
たとえば人には見つけられなかったがんを発見したAIは、膨大な量のレントゲン写真で勉強しましたし、レンブラントの新作を描いたAIは、レンブラントの絵が教材でした。

さて、あなたが作ろうとしているAIの仕組みには、どんな情報が必要ですか?
そしてそれは誰が持っていますか? また、既に相当な量がデジタルの形で、つまりビッグデータとして蓄積されていますか?

もし、この問いに「○○が持っています」「はい、ビッグデータが既にあります」と即答できないとしたら、その仕組みの実現性は低くなります。
「今はまだない」であれば、データの蓄積に相当な時間がかかりますから、場合によっては別の選択肢を探した方が良いかもしれません。
しかし、反対にこう考えることもできます。

あなたの会社は、どんなビッグデータを持っていますか? それを認識し、判断すると、誰にとって有効な答が出せますか?

そう、特に「AIで外を攻める」場合には、「データを持っている者が強い」のです。
その代表格が…Amazonなわけですね。
彼らは膨大な量の顧客、およびその購買履歴というビッグデータを保有しています。これを既に行っているレコメンドサービス以外の何に活かすか、既に多くのプランを持っていることは容易に想像できます。
また、SUICA等の交通カードにWAON等の流通カード、交通機関や小売店は、保有するビッグデータの活用を模索しています。
そう考えると、「AIで外を攻める」のは、自社単独では難しいという現実も見えてきます。
「誰と組むのか」。これもクリティカルポイントのひとつです。
「誰がどんなビッグデータを持っているのか」「それは誰にとってどのような価値があるのか」から、「誰と組めばどのようなAIを活用したビジネスモデルが構築できるか」を考えるべきでしょう。
ただ、ここで注意すべきなのは、コンプライアンスやセキュリティです。
そのビッグデータの使用に関する法的な問題や世間の反応、そして情報漏洩への対策はリスクマネジメントとして忘れてはなりません。


そして最後にお伝えしておきたいのが、「AIで外を攻める」にしろ「AIで中を改善する」にしろ、AIを活用する目的、ゴールをよく考えてほしい、ということです。
たとえば、AIを活用した営業支援システムを開発するとしましょう。
このとき、その目的・ゴールは何でしょうか。
すぐ思いつくのは「売上アップ」や「営業の効率化」でしょう。
しかし、他にはどんなゴールが考えられますか?
誰でも思いつきそうなゴールを設定しては、特に「外を攻める」領域においては差別化は難しくなります。ひいては、イノベーションは起こせない。従来型のビジネスに、AIという新たな道具が加わったに過ぎません。
言わば、営業マンの手帳がタブレット端末に変わったのと大差ないわけです。
ここでたとえば「顧客からの営業マンの信頼獲得」というゴールを設定したらどうでしょう。
AIを使った今までにはない顧客との関係性の構築が実現すれば、それは立派なイノベーションと言えます。
従来の「生産性向上」や「利便性の向上」でなく、信頼や安心、モチベーションという感性、感情の領域にAIを活用する。
事業構想大学大学院の小塩教授は、そこに日本企業がイノベーションを起こす可能性が秘められている、と言われています。
私も同感で、そうすると、ビッグデータは数値やテキストのデータではなく、動画を含む画像データなのかもしれません。

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