KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2017年04月24日

エアウィーヴの挑戦

先日、「アキバイノベーションカレッジ オープンセミナー」、通称AICOSの本年度第一回のセミナーに参加してきました。
今回は「The Quality Sleepの可能性を追求する ~世界の睡眠を快適にするエアウィーヴの挑戦~」と題して、株式会社エアウィーヴ 代表取締役会長である高岡 本州氏の講演と、その後はモデレーターである産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎氏とのトークセッションが行われました。
エアウィーヴといえば、先日競技生活からの引退を発表した浅田真央さんがCMキャラクターをつとめていることでも有名です。
浅田さんをはじめとした数々のアスリートが愛用する同社のマットレス。
なぜマットレスなのか、なぜアスリートに着目したのか。
タイムリーな「真央ちゃんネタ」を交えながらの講演とトーマセッションはとても楽しく、それでいて私の仕事にも様々な示唆をもらえました。
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さて、講演の詳細をここで語るのはやめておきますが、私が最も印象に残ったのは、高岡会長が徹底的に「データ」にこだわっていることでした。
氏がデータにこだわるのには大きく2つの理由があるようです。


まずはブランディングの視点。
寝具は「実際に一晩寝てから選ぶ」ものではないため、ブランド、つまり知名度と信頼度が重要になります。
しかし後発メーカーであるエアウィーヴは、知名度を上げるために広告を打っても、ほとんどその効果は無かったそうです。(なんと広告費に4000万円かけて売上は1000万円伸びただけ)
そこで発想を変え、パブリシティ、つまりメディアに取り上げてもらうための広報活動にシフトしました。
しかし当然、メディアが「取り上げたくなる」内容でなければ意味がありません。
氏が目を付けたのは「一流の人や施設」、たとえば浅田真央さん和倉温泉の加賀屋。こうした人と施設で使ってもらい、それをアピールしたのです。
ちなみに、なぜ浅田さんかというと、一点の目標に対して計画的に、そしてストイックに体調を管理する必要があるのがオリンピック選手であるからだそうです。
しかし、「イメージを訴求する」広告と異なり、広報においては「事実」が重要です。
つまり「科学的裏付け」、そしてそのために「データ」が必要でした。
エアウィーヴが睡眠の質を高めること。そして体に負担をかけないこと。
ここでも氏は「一流」にこだわります。
米国スタンフォード大学の医学部とタッグを組み、錦織圭選手を輩出したIMGアカデミーの選手達を対象にデータを取りました。
結果、エアウィーヴを使用した選手は他のマットレスを使用した選手より、たとえば40m走のタイムが格段にアップするなどの成果が出ました。
そのデータを元にした広報活動により、エアウィーヴの売上は2010年度には前年比3倍となります。
お金を広告の制作と出稿に使うのでなく、広報のための研究(とデータの蓄積)に使う。
企業のブランド確立のひとつの理想型がここにあります。


そしてデータは、広報活動のためだけにあるのではありません。
もうひとつの視点がイノベーションです。
睡眠に関する様々なデータは、「睡眠の質を可視化する」と言い換えられます。
つまりそれは次の商品やサービスの開発に繋がるのです。
実際、エアウィーヴは「マットレスメーカー」から「睡眠ソリューションのブロバイダー」への道を着々と進み始めています。
またそのプロセスでは、さらに様々なデータを収集、蓄積しています。
同社が提供する「airweave sleep analysis」というスマートフォンアプリがあります。
アプリを起動し、枕元において寝るだけで、寝返りなど体の動きを記録し、眠りの深さといった睡眠の質をグラフ化(可視化)してくれます。
寝具を変えたり、またエアコンの設定温度などを変えて計測すれば、自身の睡眠の質を高めることができるわけですね。
講演では、このアプリを紹介した後の高岡会長の言葉が衝撃でした。
「で、そのデータは全部クラウドに蓄積されるわけです」
そう、スマホアプリもまた、エアウィーヴが「新たな睡眠のイノベーション」を起こすためのデータ収集ツールなのです。
私はトークセッションの後の懇親会で、高岡会長にこう聞いてみました。
「貯めたデータのディープラーニングも考えていらっゃいますか?」
氏の答は明快でした。
「もちろん。ウチはオープンなので『組みたい』という声があれば、どことでもAIでの活用を検討したいです」
エアウィーヴの挑戦は、ここからが本番なのかもしれません。

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