KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2007年09月26日

“思考停止を生む環境”とは

このブログでしつこいほどに述べてきた、「思考停止しないように」というお願い。
私がなぜそれを繰り返し述べているかといえば、それは思考停止している人、つまり「自分の頭で考えていない」人が多いと感じているからに他なりません。
そしてそれが結果的に問題解決という“仕事”の生産性を落とすことになっているからです。
しかし、それは個人「だけ」に問題があると言えないのもまた事実。
やはり環境にも問題があります。
つまり我々は段階的に“思考停止するように仕向けられてきた”とも言えるのです。
本日はその“思考停止を生む環境”についてを考えてみたいと思います。


まず最初に思考停止を生む環境とは…やはり『家庭』、つまり親の問題があります。
子供の頃は誰しも、考えることが大好きです。別の言い方をすれば、何にでも疑問を持つ、これが子供の特性のはずです。
子供って、「なんでなんで?」と聞いてきますよね?
しかし親としては、いちいち全部の疑問に答えるのは骨が折れますし、答えにくいことを聞かれると、答えを回避しようとしてしまいます。
「いいからさっさとご飯食べちゃいなさい!」とか、「ダメなものはダメなの!」と言ってしまったりするわけです。
そうすると子供としては、「あまり聞かない方がいい子なのかな?」と考え、疑問をぶつけることをやめてしまいます。
まず我々はこうして思考停止するように躾けられるのです。
次に立ちはだかるのが『学校』、つまり教師の問題です。
すべての教師が悪いわけではありませんが、知識だけを伝えればいいと思っているような教師では、生徒の疑問、たとえば「なぜそれを学ぶのか」にちゃんと答えずに、「テストに出るから」とか、「いいから黙って覚えろ」と言ってしまいます。
こうしてまた思考停止するように仕向けられてしまいます。
我々はこうして親や教師に「自分の頭で考える」ことを潰されてくるわけですが、それでもちゃんと考える子供たちはたくさんいます。
一般的に“アタマの良い子”と呼ばれるのは、『努力してたくさん覚えた子』と『覚える工夫をした子』に分けられると私は考えていますが、後者はまさに『自分の頭で考える子』とも言えます。
こうした子供は、親や教師に仕向けられつつも、思考停止することなく育ってきたと思うのです。
ところが、幾多の壁を乗り越えてきた“自分の頭で考えられる人材”にも、社会人になると最後の壁が立ちはだかります。
そう、『会社』という環境、つまり上司の問題です。
「なぜ先月と同じ資料をまた作るのだろう?」「なぜ顧客より社内のお偉いさんの方に気を遣わなければいけないのだろう?」と疑問を持っても、「言われたことちゃんとやってから言え」とか「生意気だ」とか「いいから手を動かせ」とか言われるわけです。
家庭や学校と違って、職場という組織の中では『保身』の意識がどうしても働きます。
上司に逆らうと仕事がしにくくなるし、評価にも影響して報酬にはね返ったり、最悪左遷までが頭にちらついてしまいます。
そうすると、学生時代まではちゃんと考えていた人ですら、思考停止に陥ってしまうのです。
大手の企業は比較的優秀な人材を獲得しやすいはずですが、研修の講師をやっていると、同じ大手でも思考停止している人の割合が、企業によって大きく異なることに驚かされます。
そしてそれを人材開発部門の方と議論すると、「やはり社風でしょうかねえ」という声が聞こえてきます。
ある企業の研修では、ほとんどの人が思考停止せず、私の問いかけに自分の頭で考えて素早いレスポンスを返してくれました。ちょっと調べてみるとその企業では、会議で発言して状況説明をすると、「で、君はどうしたいの?」と聞かれるということがわかりました。
つまりその企業では、日常のコミュニケーションから自分の頭で考えることが求められているのです。
以前お話ししたトヨタの「なぜを5回聞け」もそうでしょう。
こうした『自分の頭で考える習慣』をつけさせることが、思考停止を防止し、結果的に効果的・効率的に問題解決を行う組織を作るのだと思います。
ですから、皆さんへの今回のお願いはこれです。
「いいから黙ってやれ」と若い人に言わないでください。
生意気な若い人を押さえつけずに、少なくとも意見はちゃんと聞いてあげてください。
そしてその後の議論は、感情を挟まずに論理的に行ってください。
それが“思考停止しない組織”に必ず繋がります。
少なくとも、「考えることを邪魔しない」環境作りをすべきです。
さて、最後にもうひとつお願いです。
お子さんをお持ちであれば、その考える意欲を萎えさせないようにしてあげてください。
理想としては、親が思考停止せずに考え抜く姿をいつも見せることですが…
まずは「ダメなものはダメなの!」と言うのをやめてみたらどうでしょう(笑)

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